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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

 由緒正しい武家屋敷を装ってはいるが未来の技術が張り巡らされたこの本丸。最新家電がフル稼働しており、ネット環境も整っていれば音楽作りに必要な機材も全て整っている。
 家から持ってきた物もあれば、政府に頼んで用意してもらったちょっとお高めな機器なんかもある。経費万歳。
 ついでに家にある楽器の類いも全部こっちに持ってきて万全の体制だ。ピアノやらドラムやらといったものから、学生時代に使っていたタンバリンやらカスタネットなどの小さいものを含めると有に二桁を超える数が揃っている。
 俺はピアノとギターくらいしかやらないから他の楽器はボーカル型アンドロイド、通称ボーカロイドと呼ばれる彼女らが使うのだが。
 基本的には打ち込み音源を使うのでエレクトーンとギター以外はミュージックビデオ用の見た目重視の安物楽器だが、それでも彼女らはそれを大層気に入ってくれている。一時期歌そっちのけで練習する程に嵌ってしまい、今では数曲演奏出来るくらいに成長している。

 そして今、何故か刀剣男士たちによる第二次バンドブームが起きているのである。

「マスター! 三日月おじいちゃんがキーボード返してくれない」
「マスター、宗三さんに私のヴァイオリンを返すよう言ってください」
「マスター! まんばが俺のエレキ取った!」
「ちょっとマスター!」
「マスター!」

 次から次へと俺の部屋に集まってくるボカロたち。目的は全員一緒で、刀剣男士が独占している自分の担当楽器を取り返してくれというもの。
 第二次バンドブームの刀剣男士に楽器を貸したが最後、それが返ってくることはなく結果としてマスター兼審神者である俺に苦情が殺到しているのである。
 つーかエレキは俺のだから、レンにやった覚えはねぇから。大体ドラムはどうした、お前が欲しがったから買ってやったのに。

「ドラムは江雪に取られた」

 まさかの和睦ドラム。不意打ち左文字に思わず飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになった。あぶねぇ。

「そうだ、マスター知ってる? 小夜ってエレクトーン上手いのよ」

 リンの口から語られる復讐エレクトーン。小夜のエレクトーンとかヨエコ的な曲しか想像つかないぞ、それか童謡。あ、何か急に可愛くなった。
 追い打ち左文字で俺の頭の中ではいつもも抉らせ左文字とは百八十度イメージの違うノリノリ左文字バンドが結成されていた。いや、一人だけヴァイオリンって何だよ、面白すぎじゃね? はい採用。

「左文字バンドまじ尊い」
「いやいや、バンド云々よりさっさと楽器取り返してよ」
「あ、そうだった……」

 レンの言葉に意識を取り戻す。そこでいつもなら刀剣たちに返すよう言いに行くのだが、今日ばっかりは彼らの肩を持たせてもらおう。

「……じいさんたち今文明開化中だから大目に見てやってくれな」
「えー」

 演奏するのが余程楽しいのか満足いくまで楽器を弄った後の男士たちには大量の桜が舞う。桜が舞うということは出陣時のポテンシャルが上がるということ。
 そう、文明開化云々は建前で、本音は桜付けの手間が省けるから楽器触らせたいだけなんだ。すまんボカロたちよ、もう少しで出陣の時間だからそれまで辛抱してくれ。
 何とか彼女らを宥めたが、やはり納得はしていない。こればかりはボカロたちには理解できないだろうからなぁ。

「その代わりと言っちゃなんだが、はいこれ新曲。レコーディングは来週な」
「わぁっ。リンとミク姉の曲!? やったぁ!」
「マスターありがとうっ。私一生懸命練習するから!」
「ああ、分かった分かった。ほら、楽曲データ入れるから貸せ」

 リンとミクに楽譜のコピーを手渡せばそれと俺の顔を交互に見やって顔を綻ばせ、楽譜を抱きしめる。こいつら可愛すぎ、抱きしめたい衝動を何とか抑える。
 それにしても、これだけ喜んでくれるとボカロP冥利に尽きる。彼女らのヘッドセットにコネクタを挿し楽曲データをコピーしてやれば、早速寄り添ってデモを聴き始めたようだ。
 それを見て、自分たちの曲はないのかと口を尖らせるレンとルカ。

「分かった分かった。次の曲はルカのバラードな」
「ありがとうございます!」
「俺は!?」
「分かってるってー……その次はメイコかカイトで」
「オイ!!」
「ぶはっ。うそうそ、レンの曲も作るって」

 渾身のツッコミに失笑してしまう。笑いすぎて痛む腹を押さえながら目尻の涙を拭う。
 あまりに笑いすぎたのがいけなかったらしくレンに脛を蹴られてしまった。地味に痛え、そりゃあ弁慶も泣くわ。
 そうこうしているうちにミクとリンはデモを聞き終えたらしく、ヘッドセットを外した二人は恍惚の表情で溜め息をつく。

「今回も素敵な曲だった……!」
「デモでしか聞けないマスターの歌声凄く好き」
「照れるわー」
「マスターも歌えばいいのに」
「えー、俺はお前らの歌が好きだから曲作ってるんだけどなぁ」
「〜っ! マスター超好き!」
「リンもマスター好き!」
「私もマスター好きです!」
「は!? そんなの俺だって好きだし!」
「レンまで……俺は嬉しいよ……!」

 普段なら照れてそんなこと言ってくれないレンの言葉に思わず感動する。感動ついでに両腕を広げたが案の定誰も抱きついてはくれなくて。
 挙句、カイトとメイコにも聴かせてくるとミクとリンは部屋を飛び出して行ってしまい、ルカとレンも楽器部屋に戻っていってしまった。結果切なさが残った。

 しかし、それと入れ替わるように清光と安定が訪ねてきたので勢いに任せて二人を抱きしめる。

「あーるーじー、そろそろ出陣の時間だよー……って何なになに!?」
「よしよし、どうしたの?」
「……子供の親離れに寂しさを隠せない親の気持ちがわかった気がする」
「意味分かんないんだけど……」
「よく分かんないけど俺はずっと主超好きだから!」
「……ありがと、何か元気でた」

 二人から離れ、急に抱きしめたことに対する謝罪をすれば二人は快く許してくれた。寧ろもっと抱きしめてほしい的なことを言われてちょっと困惑。あ、桜舞ってる。
 落ち着きを取り戻したところで何の用だったのかを尋ねれば、思い出したように出陣の時間だよと可愛くウインクする清光。うちの女性陣より女子力高い気がする。
 見送りはすぐ終わるし結局インカムで指示を出すことになるのだからパソコンは点けっぱなしで部屋を出る。

 廊下を歩いている途中、そういえば、とどこまでもマイペースな安定が口を開く。

「さっきミクちゃんたちとすれ違ったんだけど、随分と目を輝かせてたね。何かあったの?」
「あー、新曲出来たからそれ渡したんだよ」
「えっ、俺も何か歌いたい! 俺の曲作ってよ!」
「えー」

 はっきり言って面倒くさい。それにこちとらこのあと溜まってる審神者の仕事のあるんだぞ。これからもう一曲作ってたら政府に消されちゃう。今回のが遺作になっちゃうからそれだけは勘弁して。

「次回作はルカの曲って決めてるからムリー」
「けち! でも好き!」
「はいはい」

 清光を軽くあしらいつつも、こいつらがやる気あるなら何かやりたいなーなんて考える。新曲は無理でも歌ってみたとかなら何とかなるだろうし。

「あー、わかった。じゃあこうしよう」
「何なに? 曲作ってくれるの!?」
「昔書いた曲にアレンジ加えてカバーするってのはどうだ?」

 捻り出した折衷案。前に書いた曲のアレンジなら新しく書くより楽だしこいつらも丁度楽器で一曲くらいなら演奏できるようになってるはず。

「かばー? よく分かんないけどでそれがいい! 俺歌いたい!」
「どうせなら演奏もお前たちでやらないか?」
「僕ちょっとならベース出来るよ」
「よし、じゃあ清光と安定はメンバー入り決定な! あとは……」

 曲とバンド構成を考えながら門まで行けば既に出陣メンバーが揃っていて、漏れなく桜が舞っている。

「加州の、随分と機嫌が良いな」
「まぁね〜。聞きたい?」
「……結構です。貴方の話は長くなりそうなので」
「お前ら、何度も行ってる場所だからって油断すんなよー」

 それぞれの返事を聞いて、清光と安定を加えた六名を墨俣へ狐狩りに向かわせ早々に作業部屋に戻る。
 善は急げという言葉通り帰ってくるまでの間インカムで指示を出しつつ編曲作業に入る。曲も楽器も大体決まった。

「……よし。大体こんな感じで良いかな〜」
『随分とご機嫌だな』
「おうよ。お前らが帰ってきたらプレゼントやるから楽しみにしてろよ」
『!……ああ、楽しみにしてる』

 敵を斬る音をバックに、インカム越しに山姥切と会話を弾ませる。担当楽器も割り振ったし、身バレ防止のコスプレ衣装は知り合いにミクオたちのを借りよう。
 一つ決めればあとはぽんぽんとアイデアが湧いて出てくる自分の脳みその若さを褒めたい。

 作業は作業でも楽しい作業はあっという間に終わってしまうもので、狐狩りに出た六人が目当て以外の刀を持ってきたことも気に留めず帰城早々に楽譜を手渡していく。
 エレキは山姥切、ボーカルは清光、キーボードは三日月、ベースは安定。残ったドラムの楽譜は江雪に渡そうかとも思ったが奴は別の時に活躍してもらうので今回は大倶利伽羅に。
 ああ見えて大倶利伽羅は音楽が好きみたいでよく俺の作業部屋で俺の作った曲を聴いている。構おうとすれると邪険にされるのが主として寂しいけど、楽譜は受け取ってくれたから大丈夫だろう。
 今回はミク用のアップテンポな曲をバンド用にアレンジした。楽譜を手渡された刀剣たちが年甲斐もなく目をきらきらと輝かせているのが分かる。

「……私にはないのですか」
「この曲にヴァイオリンはちょっとな……でも安心しろ、宗三の出番はいつか来る!」
「そ、そうですか……」

 俺の勢いに押されて困惑気味だが少し嬉そうな宗三はその日のためにヴァイオリンを教わりに行きますと楽器部屋に居るであろうルカの下へ向かった。

「つーわけで撮影は一週間後、ミクとリンのレコーディングの翌日! それまでは出陣も遠征も内番も入れないから演奏できるようにしとけよ」

 それから一週間、楽器を取られたボカロたちの説得が一番苦労した。正直忘れてたよ。



 結果を言うとミクとリンのデュエット曲はいつも通り安定の伸びを見せてくれて作者冥利。ルカの曲もラフが大体出来上がったのでP活動も順調だ。
 そして例のバンド動画は思いの外人気が出てしまうという嬉しい誤算に。投稿早々審神者専用大型掲示板サイトで話題に取り上げられ、そこから爆発的に再生数が伸びてしまったのだ。

『顔は隠れてるけど髪の色とか髪型とか体付きとか見覚えしかないんだけどww』
『名字P信者で良かった……』
『あれ? こいつら私の本丸にもいる気が……w』
『↑気のせいじゃない気が……』
『私の初期刀がこんなにも尊い』
『名字Pの信者になります』
『↑私は既に信者ですはいw』
『じじいこんなにハイスペックだったのか……』
『ありがたや〜』
『うちのじじいなんてまだシャベルの使い方分からないよ?』
『推し刀がカッコよすぎて死ねる……』
『ここに墓を建てよう』
『審神者の大量死www』
『楽しかったです! これで明日からもKBC狩り頑張れます!!』
『他の子も見たいです!』
『粟田口バンドをぜひ!』
『↑粟田口とか多すぎてブラスバンドになるww』
『粟田口ブラスバンドwww』
『次回作には是非びっくりじじいを!』
『オーカネヒラ! オーカネヒラ!』
『↑鶯おったぞ! 捕まえろ!!』

 にやける頬を抑えながらリアルタイムで増えていくコメントを眺めなる。投稿後数分で誰が誰かを当てられた時は驚いたが、やっぱり楽しんでもらえるとこっちも嬉しい。
 大好評につき第二弾を撮ることにした、というより第二弾は既に決まっていて。コメントにあった粟田口ブラスバンドも捨てがたいが第二弾の構想は既に決まってるんだなこれが。

 次回、我が家の歌姫with左文字バンド! なんちって!

 続かない



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