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 居間でテレビをザッピングしていたら玄関で姉ちゃんの声がしたので帰ってきたのだと分かった。
 姉ちゃんは俺と違って成績も良く見た目も美人だ。俺にもそういった遺伝を残してくれれば良かったのにと思うくらい、ギャップのある姉弟だと言われ続けた。
 ただいまと声が聞こえたのでリモコンを握ったままおかえりと返事をしたらもう一つ声が聞こえた。お邪魔しますという男の人の声。
 続いて居間の扉が開き顔を出した姉ちゃんの彼氏が来ているという言葉に衝撃を受け、その姉ちゃんの横から顔を出した男性にまたも衝撃を受けた。リモコンを思わず落としてしまうくらいのイケメンだった。

「あ、えっとお邪魔します。柳明音です」
「あたしたち部屋にいるから何かあったらノックしてね」
「おおおおう。わかった!」
「そうだ、これお土産なんで良かったら食べて下さい」

 イケメンの名前は柳さんと言うらしい。俺の知っているピンク髪の人間よりも礼儀正しい上にお土産のお菓子を貰ってしまった。
 そのまま扉の閉じた音がしたと思えばとたとたと階段を上がる音がして姉ちゃんの部屋の扉が閉まった。ぱたん。
 とりあえず放心状態から戻って、どうして良いか分からずにマックスにメールをしてしまったら「気を利かせた振りしてお茶とお菓子でも持っていきなよ」と返ってきた。
 言われたとおり二人分のコップと麦茶ポットをお盆に乗せ適当に選んだお菓子も添えれば準備は整った。
 ゆっくりと足音を立てないように階段を上って姉ちゃんの部屋の扉の前に立つ。
 静かにお盆を床に置き聞き耳を立ててみれば余裕で会話が聞こえきくる。

「いつも思うけど明音の大きいね」
「名前っ、くすぐったいよ」
「ん、ごめんね。夢中になっちゃってつい」
「いやいいよ。名前に触られるの好きだし」
「もう、明音ってば……」

 何の話をしているんだ。大きいとかくすぐったいとかもしかしてそういうことをしているのではないだろうか。考えれば考えるほど俺の思春期の脳みそでは健全な方向へは進まない。
 頭を抱えて悶々としてるとかかとが床のお盆にぶつかってコップ同士がぶつかる音が廊下に響く。やばいばれたかもしれない。
 思わず今来たことにしようとお盆を掴んだところで再びコップがぶつかる。かちん。

「今何か音しなかった?」
「そう? 真一かなー」

 やばいばれている。息を整えて扉をノックすれば姉ちゃんの声でどうぞーと聞こえた。これは入っても良いということなのか、でも中ではそういういかがわしいことをしていたのではと再び悶々としつつも恐る恐る扉を開ける。
 俺の部屋とは違う甘くて良い香りがする。中では二人がくんずほぐれつ……、なことは一切していなかった。強いてそれらしいことを挙げるとするならば姉ちゃんが柳さんの足の間に座ってるくらいだ。
 さらに言えば柳さんの手と姉ちゃんの手が重なっている。それを見た俺の頭はいつも以上に回転した、そういうことだったのか。
 つまりさっきの会話は手の大きさのことを言っていたのか。思春期の俺としてはちょっと複雑な気持ちになってしまった。実の姉とその彼氏でなんてことを想像していたんだ俺は。

「……これ、麦茶とお菓子」
「真一ありがとうね」
「気を使わなくて良かったのに。ありがとうございます」

 俺はそのまま居間に戻って自己嫌悪に陥ることにした。マックスになんて返信すればいいんだよ。



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