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 これの続き




 名前をプロデュースして一週間ほど経つがわかったことがある。こいつはよく食う、時間があれば常に物を口に含んでいてお菓子やら果物やら何でも食うのにまったく太らない体質らしい。
 普段は全くの無表情である。本人曰わくこれがデフォルトであり別に詰まらない訳ではないらしい。テレビや雑誌などの仕事場では顔を作っているのだからそこはちゃんとプロだ。
 そんでこれが一番重要なことで、無表情の中にもしっかりと喜怒哀楽を見分けることができた。ベテランプロデューサーですら名前の僅かな感情の様子を見分けるの相当時間がかかったらしく俺は偉業を成し遂げたのだと誉められたが正直複雑な心境だった。

 今日はテレビ番組の収録でテレビ局に来たのだが局に入った途端に名前は営業顔で色んな人に挨拶をしている。もちろん俺もプロデューサーという立場にいるから挨拶はした。
 半分バラエティーな音楽番組らしく司会の人たちが名前や曲についてあれこれ聞いているのを俺は見ているだけだった。

「そういえば今日男の子と一緒だったけど、新しいマネージャー?」
「はい、今まで付いてたプロデューサーさんが如月千早ちゃんも担当してたんですけどそっちが忙しいみたいで……今のプロデューサーさんは年が近くてお友達みたいな感覚ですよ!」

 にこにこと笑みを浮かべながら受け答える名前の視線が一瞬俺に向いて心臓が跳ねる
 そこから別の話題へと移ったので俺はほっと一息吐くことが出来た。

 楽屋に戻ってみれば表情が一気に無に戻る。まったく末恐ろしいぜ。この後は雑誌の取材が入ってるから事務所に戻らねぇと。

「この後に取材入ってるから事務所戻るぞ」
「ん、」

 早速差し入れを食っている名前に私服を放って楽屋から出る。名前が着替えている間に小鳥さんに無事収録が終わったこととそろそろ局から出ることを伝えた。
 我ながらプロデューサーが板に付いてきたな、と自嘲しているとテレビで観たことある芸人が近付いてきた。

「……名字に何か用ですか」
「僕、名前ちゃんのファンなんだよね。だから会わせて欲しいんだ」
「あー、ちょっと待ってて下さい」

 名前が着替え終わっていることを確認して中に入る。すでに帰り支度は済んでおり後は局を出るだけという状態。
 小鳥さんに連絡しちまったしさっさと局を出たい。さっきスタッフの人が下にタクシー呼んであるっつってたし。
 とりあえず名前のファンだと言う芸人が来ていることを伝え芸人の名前を口にすれば無表情に嫌悪が混ざった。

「その人連絡先とかしつこく聞いてくるから嫌い。前のプロデューサーがきつめに言って追い払ってからは来なくなったのに……」

 それが今になってまた現れるようになった。つまりそれは俺が舐められているということになるわけだな、むかついた。
 とりあえず荷物を持って楽屋を出ればまだ芸人はそこにいて、気持ち悪い笑みを浮かべている。

「早く名前ちゃんに会わせてよ」
「すみません、急いで事務所に戻らないといけないのでお引き取りください」
「だったらほんの少し、連絡先を聞くだけだから、ね?」

 俺の中の何かが切れかけた時、背にしていた扉が開き中から営業顔の名前が控えめに出てきた。

「南雲くん、早く局出ないと」
「ばっ、まだ出てくんな」
「名前ちゃん! 僕だよ、前のマネージャーはあれだったけどもう安心だね、僕たちの仲を隔てるものはないよ!」
「い、いやっ」
「!」

 俺の後ろに隠れた名前に汚い手が伸びていく。とっさにそれを掴んで力を込めれば悲鳴をあげて俺の手を振り解いた。
 名前が怖がってるんで二度と近付かないで下さいね。ドスを利かせてそう言えばそいつは訴えてやる、と捨て台詞を吐いて去っていった。
 まあテレビ局の廊下だからか目撃者は何人かいたし、訴えられてもこっちの勝ちは目に見えている。
 俺の後ろに隠れていた名前に声をかければけろりとした様子で廊下を歩き出した、しかし名前の手はしっかりと俺の手を握って離さない。素直じゃねえの。

 その後事務所に戻った俺たちが取材の時間に遅れて小鳥さんに怒られたのは言うまでもない。



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