北海道にも四季はちゃんと存在し、その中でも冬という季節は顕著だ。 特に今日は、寒い寒いと云われる北海道が更に寒くなる日である。 朝起きてベッドから出たくなくなり、慌ててニュースを点けて、外を見て、納得する。今日は無理だ。 北海道全域で暴風雪警報発令中です、外出は控えましょう。キャスターの言葉通り外は吹雪いて、一寸先は白。 せめて新聞を取ろうと玄関扉を開ければ、チェーンロックなどしていないのに数センチしか開かない。 私が住んでいるのはアパートメントだが、風除室のない一軒家も同じ現象に見舞われているに違いない。この積雪量では新聞屋も休みだろうと勝手に思い込み、新聞は諦めた。 2LDKの寝室へと戻ればベッドから出る気のない士郎が布団の中で丸まり顔をこちらに向ける。 「外どうだった?」 「ドア開かなかった」 「そりゃあ大変だ」 全然大変そうには聞こえない士郎の言葉に、とりあえず私もダブルベッドのさっきまで自分のいたスペースに潜り込んで暖をとる。 「あーあ、新しい家具見に行く予定だったのに……」 にょきっと布団から顔を出して天候に文句を言う。士郎と休みが重なるなんてそうそうないのに、折角のデートが台無しになってしまった。がっかり。 肘をついて手枕で横になっていた士郎が頬を膨らませる私の額にキスをする。その後にする優しく微笑む仕草も、全てが格好良くて愛おしい。 「まぁ僕はこうして名前と一日中くっ付いて過ごす休みも好きだよ」 そういう恥ずかしいことをさらっと言っちゃうところも無駄に男前で、困る。益々好きになっちゃうじゃない。 熱くなる頬を誤魔化すように布団で顔を隠せば優しい笑い声が聞こえる。 「名前、隠れないで顔見せてよ」 「……やだ」 「何で? 僕は名前の照れてる顔が見たいのに」 「分かってるなら聞かないでよ!」 顔を見られたくないから隠れてるのに、こういう時の士郎の意地悪さは昔から変わらない。 「ねぇ、見せて?」 「……やだ」 「そういう意地っ張りなとこは昔から変わらないなぁ」 「意地っ張りで結構です」 お互いに譲ろうとしないこのやり取りももう何十回目だろうか。 最終的には私の頬の熱が引くまで籠城して終わるか、士郎があの手この手で無理やり攻め入ってくるかのどちらかで、今日は後者らしい。 「……えいっ」 「!?」 いきなり布団越しに抱きしめられ、びっくりしたのと息苦しさで思わず暴れるも現役サッカー選手に力で勝てるはずもなく。結局私の方が早めにギブアップした。 「ぷはっ」 息苦しさを訴えるように布団から顔を出し、大きく息を吸い込み胸いっぱいに酸素を取り込む。 ようやく脳に酸素が回ったところで士郎を睨みつけるも効果はなく、寧ろ余裕の笑みを浮かべている。 「ようやく見れた。名前の可愛い顔」 「もう……」 「もっといっぱい見せて」 そう言って距離を詰めてきた士郎に食むようなキスをされる。 ちゅ、ちゅと可愛らしい音と共に私の下唇を舐めてくるので私もそれに応えるように薄っすらと口を開き彼の舌を迎え入れた。 いつの間にか眠ってしまっていたらしく、気だるい体を起こして時計を見やれば午後二時ちょっと手前。 隣で寝てしまっている士郎を起こさないようにベッドから這い出ようとしたけれどがっちりと彼の腕が私の腰に絡み付いていて抜け出せそうにない。 起こそうとも思ったけれど凄く気持ち良さそうな顔で寝ているので諦めて元の位置に戻る。 「それにしても寝顔もイケメンとは……どこまで完璧なの」 気持ち良さそうを通り越して最早幸せそうなその顔は寝ていても崩れることはなく、不本意だが女性ファンが多いのも頷ける。 柔らかい頬をつつけば、うーんと唸り声を出して眉間にしわを寄せたので思わず小さく笑う。 完璧だなんて、十年前だったらデリケートに扱わなければいけなかったその言葉も今では平気で言える。こんな幸せなことはない。 「んー……名前……おはよう」 「おはようってもうお昼なんたけど……」 「じゃあもうお昼ごはんだ」 「もう……」 寝ぼけ眼の士郎が欠伸を噛み殺しながら私を抱き寄せる。 士郎との距離が無くなって、お互いの体温を共有するこの時間が溜まらなく愛おしい。 「ん、今何時?」 「もう二時になるかな」 「……結構寝たなぁ」 「そうね。……うふふっ」 「? 随分と嬉しそうだね」 ようやく目が覚めたようで、しっかりと開かれた双眼には頬が緩みきっている私が映っている。 「うん、私今すっごく幸せだなぁって」 「……そうだね。僕も今すごく幸せだよ」 |