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 サッカー部の練習が珍しく休みだった真一と久しぶりに一緒に帰る約束をして、二人そろって教室を出た所でタイミング悪く体育の先生と出くわしてしまったのがいけないのだろう。明日からの体育で使用する予定の室内プールの掃除を頼まれてしまった。
 といっても掃除は体育委員会がほとんどやってしまったため私たちが頼まれたのはプールに水を張ることだけ。それが終わったら勝手に帰っていいとのことで渋々、半ば強制的に私たちはプールへと足を運んだ。
 室内プール独特の蒸し暑さに足を踏み入れた瞬間から汗がにじむ。繋いでいる手がじっとりと湿気を帯びてとてもじゃないけれど繋いでいられる状態じゃない。
 真一もそう感じたのかどちらとも無く手を離して、先生の言っていた通りプールに水を入れる。

「水入れるだけなら自分でやれっての。なぁ」
「うん」

 プールサイドのベンチに座って塩素たっぷりの水が溜まっていく様をただぼうっと見ながら真一とどうでもいいような話をする。
 会話と言うより真一が一方的に話をしてくれているのだが真一の話はいまいち落ちの弱い世間話で、中途半田と言われている由縁の一つを改めて認識した気がする。
 私の反応がいまいちだと言うことに気づいてしまったのか真一の声に焦りが見えて思わず笑ってしまった。

「あ、やっと笑ったな。っていうか何か反応しろよなー!」
「いやだって真一の話があまりにも中途半端すぎて……」
「中途半端って言うな」

 真一の顔を見やれば不機嫌を絵に描いたように眉間にしわを寄せて唇を尖らせていた。その顔があまりにも可愛くて再び笑ってしまい、また機嫌を損ねたかと思えば真一の眉間からしわが消えていた。
 何が良かったのかはわからないが真一が機嫌を良くしてくれたのでとりあえず良しとしよう。

「ねえ真一、手握ってもいい……?」
「あ、ああ」

 お言葉に甘えて真一の手を握れば尋常じゃないくらい汗を掻いていてこの手汗は室内プールの湿気が原因じゃないと思う。
 どれだけ緊張してるの、また笑ってしまいそれに対して真一がテンプレートのようにちょっと不機嫌になる。ちょっと可愛い。
 授業で使う室内プールの準備だけど久しぶりの放課後デートだから緊張するのは無理も無いかもしれない。最近はサッカー部も忙しいみたいでこんなに長い時間一緒にいられなかったもんね。実を言う私も緊張しているんだよね、まあそんなこと言わないけど。
 久々に甘えてみようと思い真一の肩に頭を預けた瞬間、真一の肩が大きく跳ねて若干息が荒くなった。

「ちょっと、びっくりしすぎ」
「ご、ごめん。いきなりだったから」
「久しぶりの二人っきりだし」
「まあ確かに」

 久しぶりの二人きりがプールの準備だなんて散々だなと真一が言ったので肯定しておいた。
 だけど正直なところ私は別にどこでも良かった。真一と二人きりになれるなら放課後の教室でも誰もいないサッカー部の部室でもお互いの家でも、だからここが室内プールで蒸し暑いことなんて気にならなかった。
 真一の隣に座って手を繋いでぬくもりを感じられていれれば、たとえ落ちの微妙な中途半端な話でも水の音しかしないくらい無言だったとしても、幸せだ。

「……俺さ、プールの水見るの正直飽きてきた」
「私はとっくに飽きてる」
「ですよねー」



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