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▼トリップしたpkmn廃人(ダイゴ/pkmn)
 ※ライト勢が書いたpkmn廃人の話




 私は現在シダケタウンのポケモンセンターで働いている。

 ゲームのように家が数軒だけなのかと思っていたがそうではなく、人口はそれなりに多くどのシティやタウンにもちゃんとした町並みは形成されていた。デパートの品揃えもゲームで購入出来る物以外にも日用品や食料品の類も揃っており、ちゃんと人間用の病院も存在している。
 ポケモンセンターにはアニメのような感じで宿泊施設が併設されていたり、主要施設の所在地はゲーム基準だったりと、アニメとゲームの設定が混在したような世界観だった。

 今日もいつも通りトレーナーから傷ついたポケモンの入ったモンスターボールを受け取るジョーイさんを横目に私は宿泊施設の受付を行う。
 しかし、必ずしも部屋の定員人数以内に収まるかと言われればそうではないし、冷え込む日には毛布を追加しなければならないので、受付終了時刻を過ぎれば簡易ベッドの設置や不足分の毛布を届けに行くまでが私の仕事だ。
 その合間の暇な時間に一般トレーナーからの質問に答えたりするのも、いつの間にか日課のようになってしまっていた。

「それで、頑張り屋さんはなんて?」
「少し努力してるって」
「なら君のエネコロロはまだ成長するよ。そうだね……ゴニョニョやサンドを倒しまくって体力と防御を上げると良い感じになるかも」
「はいっ、わかりました!」

 ありがとうございます。私の言葉に表情を明るくしたエリートトレーナーの格好をした男の子は元気よくお礼を言ってセンターを出て行った。

 最初は小さな子にどうしたら強くなれるのかを聞かれたからタイプ一致の技を積極的に使った方がいいとアドバイスをしただけ。そのアドバイスが良かったのか次にその子が来た時は初めてバトルで勝てたと笑顔で報告してくれた。
 きっかけはそんな些細なことだったのだ。

 センターを利用するトレーナーは大体宿泊施設を利用する人か、傷ついたポケモンを癒やすために来る人であり、後者の中で時たまアドバイスを求める人がいるから私なりの助言を一言二言口にしていた。
 それから少しずつ噂は広まって今では、シダケタウン近郊外からも遥々私なんかのアドバイスを求めてここを訪れるトレーナーが増えていた。
 私の知識はあくまでレートで勝つための知識だから、彼らにとって有益な情報足るかは知ったところではないが。

 そんな、代わり映えのない毎日を送る。そのうちの今日という一日も、何でもない毎日の中に含まれるのだろうと思っていた矢先の出来事だった。
 ざわざわとセンター内が騒がしくなる。

「チャンピオンだ」

 誰かが呟いたその一言に、私の身体は強張る。それでも直ぐにいつも通り平静を装って宿泊施設の点検に向かおうとした時だった。
 ジョーイさんが彼に話しかけるのを視界の端に捉えてしまったので仕方なしに彼女らの死角となる場所でこっそりと会話を聞いてしまっていた。

「やあジョーイさん」
「ダイゴさんじゃないですか。今日はどうしてこちらに?」
「このセンターにバトルに詳しい子がいるって聞いたものですから」
「バトルに詳しい……ああっ、それでしたらナマエちゃんのことですわ」

 やはり、嫌な予感とは的中するものなのだ。
 いつものように見る人を安心させる笑顔を浮かべてあっさりとチャンピオンに私の名前を明かしてしまうジョーイさんを少しだけ恨みつつ、逃げるように宿泊施設に向かった。
 出来れば終わらせたくないのが本音だが。

「ナマエちゃんなら今宿泊施設の点検をしている頃ですから、それが終わったら会えると思いますよ」
「そうですか。じゃあそれまで待たせてもらいますね」

 どう頑張っても宿泊施設の点検補充は長引くわけもなく、潔くチャンピオンの待つ待合へ。ジョーイさんに点検が終わった旨を伝え、


「やあ。君がポケモンバトルに詳しいナマエちゃんだね」
「……どうも」

 ここで愛想を良くして話しやすい雰囲気を作るのは良くないと、なるべく素っ気ない態度を心がけるがこの温室育ちのお坊っちゃんには通用しないようだ。
 にこにこと危機管理能力の低そうな笑顔を浮かべて次々と言葉を出してくる。


「噂には聞いていたけどこんなに可愛い娘だったなんて……」
「……こう見えても二十歳は超えてます」
「えっ……す、すまない」

 童顔という自覚はある。そんなことよりこの下らない会話を早々に切り上げて早く自室に戻りたい。きりきりと胃が痛みだした。原因は言わずもがな目の前の男である。

「君が様々なトレーナーにバトルのアドバイスをしていると聞いて気になってね。君はポケモントレーナーとか、研究者なのかい?」
「いいえ」
「トレーナーでもないのにどうしてアドバイスを?」
「……どうしたら強くなれるかを尋ねられるから、私なりに答えているだけです」

 実際に私のアドバイス全てが有用であったと言えばそうではない場合も少なからず存在した。ゲームでの知識など現実世界では通用しないのだと言われているみたいで不快だった。
 そもそもここが現実世界だなんて、考えたくもない。

「……じゃあさ、どうすれば僕は強くなれるのか、教えて欲しいな」
「……貴方、十二分に強いでしょう」

 何れ主人公に負けることが確定していても、今は歴としたチャンピオンなのだから私なんかのアドバイスは必要ないはずだ。

「確かに、僕は自分が強くて凄いって言う自覚はあるけど、それでも一度負けてるからなぁ……」
「負けてる……?」
「あれ、知らない? 二ヶ月くらい前に、とあるトレーナーに負けてね。彼はチャンピオンの座につく気はないらしくて、だから今も僕がチャンピオンってわけさ」

 ということはここはゲームの大筋終了後の世界か。
 私がこの世界に来てしまった日は嵐が酷かったが、その日が丁度伝説ポケモンのイベントの時だったと。そう考えれば辻褄は合う。
 それにもう一つ収穫があった。この男は今、“彼”と言った、つまりこの世界での主人公は男の子であることが確定した。

「だから、僕が二度と負けないよう君のアドバイスが欲しいんだ」
「……鋼タイプに拘らなければいいんじゃないですか」
「うーん、それは無理だなぁ。他には?」
「そもそも戦わなければ負けることはないですよ」
「とんちか!」

 下らないやり取りだ。まるで生産性のない会話。




「……うるさい。私の気も知らないで好き勝手言わないで」
「ナマエちゃん……?」

 一度出た言葉は取り返しが付かない。この世界に来てから溜め込んできた思いが全て爆発した。

「本当だったら今頃ムーンで個人RTAして厳選作業を始めてレート潜ってたのに! 何でこんな所にいるの!? 何で私なの!?」

 終いには涙まで出てきてしまって。感情までもが垂れ流しで、みっともない。
 今まで平静を装って感情を押し殺してそれなりに上手くやってきていたのに、全部台無しだ。

「意味わかんない……これは夢なんでしょう? 目が覚めたらいつも通りの私の部屋で、お昼くらいにはサンムーンが届くんでしょう? ねぇ!!」

 必死になって、何も知らない彼に怒鳴り散らして、私は何を言っているのだろう。八つ当たりも甚だしい。
 それでも、私のこの感情は止まらない。止まれない。

「っ、ここは私の世界じゃない! 現実に帰して!!」



「はぁ、はぁ……」

 言いたいことを全て言い終えたら一気に頭の中が冷えていくのが分かる。完全にやらかした。絶対に頭のいかれた奴だと思われた。

「……すみませんでした。私の存在ごと忘れて下さい」

 ポケモンセンターでの仕事を辞めて、元より目標であったカントーに行こう。カントーに行ってダメ元でこの世界のゲーフリ本社を訪ねて、でもどうせ何も分かりはしないんだからその時こそ大人しく全てを諦めよう。

 手で顔を隠しつつその場から逃げようと、呆気にとられた彼の横を通り過ぎようとした瞬間だった。

「……」

 振り払いたくてもしっかりと腕を掴まれてその場から動くことを許されなくなってしまった。当の本人は何も言葉を発さず、私の位置からでは表情も伺えない。

「……離してください」

 趣味の石集めのせいか骨張った男らしい手にはいくつも豆が出来ていて、まるで作られた存在では無いみたいではないか。画面越しに見ていた彼が、生きている人間みたいに感じられる。
 その感触が現実味を色濃くしていて、気持ち悪い。

「……」

 ホウエンチャンピオンに腕を掴まれて動けなくなってどれだけの時間が経っただろうか。体感では数十分だが実際には数十秒といったところだろう。
 ようやく彼が口を開いたのだ。

「この手を離したらいけない気がするんだ」

 何言ってんだこいつ。イコかよ。ナンパでももっとマシなこと言うぞ。




「分かった。一緒にアローラ地方へ行こう」
「そうじゃねーよ!!」

「そういうノリでチャンピオンの仕事放棄してPWTとか行ってたんですね。糞ニートが」
「君、結構口が悪いんだね……」
「もう遠慮しないって決めたんで」

「でもそっちの方が僕は好きだな」
「……はあぁ〜。そういうとこだぞ!?」
「何がだい!?」




「ミツルくん」
「あ、ナマエさん!」
「今日もやってるね」
「“妥協は甘え”……ナマエさんの教えですから」

 彼、ミツル君はかつて私にアドバイスを請いに来たうちの一人だったのだが、正直迷惑だったのは今でもはっきりと覚えている。
 知っている容姿、知っている喋り方、知っている手持ち、全てが私の嫌悪感を募らせ、早く会話を切り上げたいという思いしか存在しなかった。
 だから、当時の私の心無い言葉が彼をここまで変えてしまったのだと思うと申し訳なさでいっぱいだ。

「諸事情あってポケモンが入用なの。孵化余り下さい」
「そうでしたか。どの子がいいですか?」
「ナマエちゃん、コイルにすべきだと思う」
「鋼廃人は黙ってて」

「このヤヤコマなんてどうです? 陽気5Vなんですが特性が“はとむね”だったので諦めた個体です」
「うん、ファイアローは夢特性の“はやてのつばさ”が理想個体だから仕方ないね。そして夢特性だったら陽気より意地っ張りだもんね」

 でもサンムーン以降では“はやてのつばさ”が弱体化したのでアローラ地方に連れて行くなら夢特性じゃなくても構わないか。

「ちなみにこの子の個体値の詳細は覚えてる?」
「確か特攻がまぁまぁでした」
「C抜けか……よし、この子貰ってもいい?」
「はい! ナマエさんになら安心して渡せます!」
「ミツルくん、ありがとう。ヤヤコマこれからよろしく」
「ヤヤ!」


「君はその……個体値とか性格とか、そういうことを考えてポケモンバトルをしているのかい?」
「ダイゴさんだって色メタグロスのためにたくさん卵を孵化させたでしょう? それと同じことですよ」
「うっ……それを言われたらぐぅの音も出ないな……」
「あ、やっぱり色厳選したんですね」

 彼のことだからコネを駆使してお守りと国際孵化であっさり色ダンバルを出したんだろうな。


「……じゃあアローラに行こうか」
「いえ、まだ行きませんよ」
「えっ。まだ他に何か……?」
「努力値振りがまだじゃあないですか」

 旅パでそこまでする必要があるのかと問われれば、これがゲームならば否と答えていただろう。一秒でも早く厳選作業を始めるためにRTAばりの速さで殿堂入りする必要があり、一々旅パの個体値厳選や努力値振りなんてしていられない。
 しかし、これは思いたくないけれど多分きっと、かなり信憑性が薄く信じたくないけれど、ここは現実、のようなもの。だから、いつどんな人にバトルを挑まれても大丈夫なように準備だけは怠らないのが吉。

「え、そんなこともするのかい?」
「……知ってるんですよ。貴方がちゃっかり努力値振りもしていること」

 彼がスーパーマルチやエメラルドのタッグバトル等で使っているポケモンがどれも6Vで努力値もしっかり振ってあることは確認済みだ。
 そもそも努力値という言葉を理解している時点で黒確定だから。


「好きなポケモンが負けるところなんて見たくない……それがきっかけです」

「強いポケモンを使えば勝てます。でもそれじゃあ意味がない。好きなポケモンで勝ちたいんです」

「ナマエちゃん……」
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