▽僕らと主の30日奮闘記(鬼徹×tukn) |
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閻魔の第二補佐官兼審神者の鬼神が本丸に滞在する一ヶ月間で刀剣男士らとの蟠りを溶かしていく話。 この本丸は異常だ。 主不在が常であるこの本丸。 稀に主が駐在する時もあるが殆どは書類筆記や鍛刀作業なりでゆっくりお茶を飲む時間さえなく、審神者としての仕事が終わればすぐさま本業の方へ戻ってしまう。 こちらが副業なのだから仕方がないと言えばそれで終わりだが、納得はいかない。 やはり主不在というのはそれなりに問題がある。ここにいる者たちは全員が元々の主を失っているため何より主を欲している。 今の主に喪失感を補ってもらいたいと願っている者ばかりなのだ。特に加州や大和守なんかは露骨に主からの愛情を欲しているし、小夜や山姥切みたいに精神的に主が必要な者だっている。 月末の数日間は必ず滞在しその月の報告を事細かに聞き翌朝には翌月分の全刀剣のを記したシフト表なる物で、これがまた完璧なのだ。一分の隙もなく出陣による疲労等も計算され尽くしたスケジューリング。 異例の速さで刀剣を全種集めるとその殆どの錬度を効率よく上げ、遡行軍撃数もトップクラス。一体何者なんだ。 本来審神者となった者は特別なことがない限りその任が解かれるまで与えられた本丸を離れることは無い。勿論それまで勤めていた仕事も辞めさせられ、審神者業で食べていくこととなる。 しかし我々の主はなまじ優秀すぎるが故に副業を許可されている。と言っても審神者が副業であることは政府の知るところであり、その事実は僕達刀剣にとってはうら寂しいものだ。切り捨てられるのが審神者業である限り政府も下手に口出し出来ない状態にある。 他の量産型の審神者とは違い政府が無理を言って勤めてもらっている数少ない特別な審神者の一人らしく、住み込みではなく現在のスタイルが許される理由の一つでもある。 「お前らはどう思う?」 「どうって、何が……?」 「主の事に決まっているだろう。何かを隠しているのは火を見るよりも明らかだ」 鶴丸君の言葉にその場にいた刀剣たちは誰からとも無く肯定する。主のことを知りたい、もっと主と親睦を深めたいと思うのは人の形を得た僕らにとっては当たり前の感情であった。 しかし主に会えるのは月末の数日間のみ。そんな如何ともしがたい状況に転機が訪れようとしていた。 今日は月始め、定期の主が本丸の訪れる日。新人を含む全刀剣男士が主を一目でも見たいと大広間に集まっていた。 数日前にちょっとだけ見た時とは違う着物を着ている主。 「一ヶ月です」 「? 一ヶ月分のしふと表だよね。分ってるよ」 「いえ、そうではありません。一ヶ月間休暇を頂きましたのでこちらで過ごせることになりました」 「!」 この好機を逃してはいけない。個性豊かな四十七振り全員の意見が一致した瞬間である。 この一ヶ月が我々にとっての大一番である。 「その……上司の人は審神者のことを知っているのですか?」 「ええ、職場には話してあります。」 「何故私だったのでしょうね……他にも適切な方はいるというのに」 ・起こしに来た鶯丸 「主、朝だぞ」 「その声は……唐瓜さんですか……」 敬称が付いていることから人の名前であるとこは確かだ。しかし名前の雰囲気からいって男であるのも分かった。 「今日私は非番なので書類ならば鬼灯様に……」 また名前が出てきた。今度は様と付いているから主より立場は上であることは分かる。書類云々言っていることから推測されるのはその鬼灯とやらは職場の上司か。 |
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