▽カウンセラー主(ハートの海賊団/OP) |
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ハートの海賊団に所属している女クルー。カウンセラーとして船員の悩みを聞いたり精神面のお世話をしている。 一応他の船員と同じデザインのつなぎは設えてはあるけれど、袖を通したのは数えるくらい。透明の衣装カバーが掛けられた真っ白いそれは壁に掛けられもはやインテリアの一部となってしまっている。 カギカギの実を食べた鍵人間。あらゆる鍵を開けたり閉めたりお手の物。相手に鍵を挿して施錠することで動きを封じることも可能。心の鍵を開けたりも出来る。 ・シャボンディ 「小さな悩みから下の相談までをモットーにやってるから、ジャンバールも何かあったら気兼ねなく話してね」 ・マリンフォード後 「カウンセラーなんだから何とかしろよ」 「はあ……カウンセリングには信頼関係が大事なのよ」 知らない女に何を言われても余計なお世話になるだけ。 甲板から自室へ行く道すがら必ず通ることとなる治療室、麦わらはまだ意識を取り戻していないのか中は静まり返っている。 誰もいないことを確認して診察室の扉を開ける。どうやら治療室はそのまま病室になっているらしい。 中では点滴やら輸血やらの管が沢山繋げられている麦わらのルフィが寝ていた。 「……モンキー・D・ルフィ」 名前を呼んでも返事は返ってこない。昏睡状態なのだから当然と言えば当然のこと。 それでもあたしはカウンセラーとして、海賊船のクルーとして彼に話しかける。 「貴方の兄は死んだわ。それは変わりようのない事実」 「起きてしまったことに後悔するよりも、見なければいけない者を思い出して」 「貴方は海賊船の船長なのよ」 言い終え満足したあたしは早々に治療室を出る。こんな薬品と鉄の臭いが充満している場所にこれ以上いたくない、鼻が曲がる。 あたしの部屋も内向薬やら何やらで薬品臭いけれど、この部屋よりは遥かにまし。自室だしね。 「何だ。ちゃんと仕事してんじゃねぇか」 「……あたしは言いたいことを言ってただけよ」 そう、聞こえていなくたっていい。あたしは言いたいことを言いに来ただけだから。 「敵襲だー!」 甲板にいるシャチの声を聞いて走らせていたペンを置く。暴れられてインクが零れてしまったら今書いているカルテが台無しになってしまうのでしっかりと蓋を閉める。 どたどたと甲板へと走る船員の足音が遠くなってゆくのをバックに本棚から一冊取り出し再び椅子に座り、ページを捲った。 あたしだって一応海賊を名乗っているのだから戦闘になっても自分の身を守るくらいは出来る。しかし逆に言えば自分の身を守るくらいしか出来ない。 能力的には戦闘にも活かせるのだろうけどあたしってばか弱いし平和主義者だから、積極的に戦闘はしないの。 それにあたしの能力だと相手を倒すより動きを止めてその隙に拘束したりお宝を頂いちゃった方が楽なのだ。 どちらかと言うとあたしは情報を吐かせたりお宝を収拾してくる方を専門としているので純粋な戦闘においてはこの船では一番弱い。それでもその辺の雑魚には負けない自信はある。 本を読み始めてからそれほど経っていない頃。再び扉の外が騒がしくなり勢いよく扉が開いたと思えば息を切らしたペンギンが立っていた。 「終わったの?」 本から顔を上げてペンギンを見やれば彼は腕を組んでにんまりと笑った。 「おう。船長の出る幕もなかった」 どうせ呼ぶにしたって船長はこの時間寝ているだろうから役には立たないと思う。 勝利に終わったと言ってもペンギンの顔や体には傷がいくつか出来ているのできっと他の船員も傷を作っているに違いない。 「それで、あたしに何の用?」 「ああそうだった。頑丈な宝箱があってさ、ナマエに開けてもらおうと思って」 はあ、溜め息を一つ吐いてから本を閉じ、一応救急箱を持ってペンギンの後を追うように部屋を出た。 甲板に出れば潮の香りに火薬と血の臭いが混ざって何とも言えない状態だった。カウンセラーと言っても応急処置くらいなら出来る。 「傷の深い人は大人しく船長の所へ行きなさいよ」 「えーっ、船長のとこにー!?」 「そういえばナマエは何でこの船に乗るって決めたの?」 ベポの、俺たちは同じ船の仲間なのにナマエのことを何も知らない。 「まさか、キャプテンに惚れちゃったの?」 「誰が誰に惚れたって? 二度と喋れないように口に鍵かけられたい?」 「ご、ごめんなさい」 「いいわ教えてあげる」 「この船の船長がタイプじゃなかったから乗ってるのよ」 「あたしはペンギンみたいな男が好みかなぁ」 口元に笑みを浮かべるとペンギンに正面から抱きついてみせた。 背中に腕を回すナマエに対しペンギンはどう反応してよいのか分からず中途半端な位置で両手を震わせる。 「とまぁ冗談はこのくらいにして」 「おい!!!」 ナマエは最初からこの船に乗っていたわけではなく、船長が誘ってクルーにしたんだ。 最初に船長が女をクルーにすると言ったときは半信半疑ではあったが殆どのクルーが大手を振って大喜びしていたのを覚えている。 「後で新しいクルーが来るから空いてる部屋掃除しとけ」 「へー、どんな奴ですか?」 「女だ」 「いよっしゃあああああ!!!」 俺達の心かの声が響き渡る。船長は不機嫌を絵に描いたように眉を寄せ刀の柄を握ったので速やかに静かになり、数人が部屋を空けるため船内へ逃げていった。 言っちゃ悪いがこの船は男所帯のむさ苦しい船だ。女が一人いるだけで華と言うかオアシスというか、とにかく女一人いるだけでも全然違うのだ。 それに俺を含めたクルーのほとどがあわよくばそいつと……と思っていたことだろう。 まあそんな希望は後に、ほんのりと打ち捨てられることとなるのだが。 どこかの島の娼婦に入れ込んだのか、船長が認めるほどの強者のどちらかだと勝手に決め付けていた。 もし前者で船長のお気に入りになら簡単には手を出せないかも、なんて他のクルーと話しているとその女は姿を現した。 「び、美人……!」 「うひょーっ」 白衣を纏ったその姿はどこか見覚えがあったが今はそんなことどうでもよかった。 高いとも低いとも言えない丁度良い身長に、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるスタイルの良い体つき。 胸の谷間が見えているカットソーや、膝丈のタイトなスカートから伸びる綺麗な足に、皆一様に生唾を飲む。 「これからこの海賊船のクルーになります。ナマエです」 よろしくねと、甘い声で言われればもうよろしくするしかない、色んな意味で。 見た感じ娼婦の雰囲気はなく、むしろ海賊になるというのに気品のようなものすら感じる。 「こいつは精神科医だ。主にクルー達のカウンセリングや情報関連のことをしてもらう」 この船に乗るということはそれなりの実力を持っているということなのだろうが、目の前の彼女は強さなど一切感じさせることのない笑みを浮べている。 その日は新しい仲間の歓迎会という宴が開かれ、ナマエも酒がいける口らしく、夜の甲板は飲めや歌えやの大盛り上がり。 彼女を酔い潰して何とかしようと近づいたクルーを潰していた。酔いつぶれた奴を転がして次の奴が彼女に挑むも、結果は惨敗。 のらりくらりとあしらっている彼女も相当アルコールが回っているようで、ほんのり色づいた頬が色っぽい。 横髪を耳にかける仕草に俺の胸が高鳴る。疼く下半身を収めるべくジョッキに残っていた酒を一気に飲んだ。 「そろそろ寝ようかしら」 ふうと息をつく何気ない動作も色っぽく見えてしまって仕方がない。 ゆっくりと立ち上がるも足取りはおぼつかず、手を貸そうかと思えば我先にとシャチが立ち上がった。 「部屋わかんないだろ。つれてくよ」 「あら、ありがとう」 あいつの下心は火を見るよりも明らかだ。俺が睨みつけているとその視線に気付いたのかシャチが勝ち誇ったように笑う。 その口元が癇に障ったが二人は船内へと姿を消してしまった。 「くそが」 「シャチに先を越されたのか」 「……船長」 二人と入れ替わるように甲板へ出てきた船長に、独り言を聞かれてしまったようだ。さっきシャチと部屋に向かっていくのを見たと言う船長の言葉が俺の心に突き刺さる。 よりにもよってシャチに先を越されるのが俺には屈辱でならなかった。 今まで部屋にいたのかまったく酒の臭いのしない船長が、寝転がっているベポを背にして座る。 「安心しろ。あの女は一筋縄じゃいかねぇよ」 「そういや船長、ナマエとはどんな関係で?」 「……お前、未だ気付いてないのか」 「はあ……?」 船長は何を言っているのだろう。ナマエとは今日初めて会ったはずなのに、まるで知ってる奴みたいな言い方。 でもそういえばと、初めて見たときの既視感を思い出す。 「まあ、いずれ分かる」 「そうっすか」 次の日、縛り上げられたシャチとナマエの害虫を見るような目つきに、俺らの淡い幻想は打ち砕かれることとなる。 ナマエに対する既視感はこれだったのかと、俺は新聞の合間に挟まっていた手配書を見つめた。 “魔性のカウンセラー・ナマエ”。 |
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