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▽トリップした艦娘が降谷に保護される(knkr→DC)
 蒼龍型一番艦蒼龍改二の艦娘。それなりに暗い過去を持っているが蒼龍の記憶に侵食されかけているので殆ど忘れかけている。
 出撃中に轟沈したため艤装一式を付けたまま探偵の世界にトリップした。




 この世界のことを知るため私はここ数日図書館に入り浸っていた。手に取るのはWW2に関する書籍が大半を占めている。



「うん、美味い」
「良かった。このサンドイッチ、鳳翔さんに教えてもらって、鎮守府の皆さんのお墨付きなのよ」
「そうか、鳳翔には和食洋食何でもござれな優秀なシェフがいたんだったな」
「えっ、そうなんですか? 詳しいですね」
「いや何、蒼龍のことを調べるついでに色々な資料を見ただけさ」




 入渠用のお風呂を思い出させる入浴剤だ。

 どうやらこの世界の入浴剤には入渠材と同じ効果があるようだ。
 そうと分かればお風呂場が充実した家に引っ越しをせねば、と思い立つも現状では難しいだろう。


「君はその提督という人が好きなのか?」
「ええ。だって提督は強くて優しくて、素敵な人だもん」

「そう、だよな……。指輪をしているということはそういうことだよな……」


「? 提督は女性だよ?」




▼絶海の探偵

「私も蘭ちゃんを探します」
「おい名前さん何言って……」
「海の上なら私に任せて!」

 それだけ言い残し私は勢いをつけて手すりを飛び越え海へ降りる。
 背後から制止する声が聞こえたが時は一分一秒を争う事態だ。潮の流れを考え粗方の予測を立て、全速力で水上を進む。

 蘭さんは電波時計を持っていたということはその電波を探知することが可能であるということ。
 すぐさま鞄で寝ている電探妖精さんを叩き起こして、探索を開始する。ついでに彩雲も飛ばして常に通信を繋いでおく。
 夜間ではあるがこれだけ穏やかな海だし、相手は遭難者だから心配ないだろう。

『遭難者発見! 繰り返す、遭難者発見であります!』
「! ありがとうっ、今行きます」

 通信の入った方向は私が今向かっている方向と大体が一致しており、電探で正確な位置を把握しつつ進む。
 程なくして蘭さんと、周りに散らばっている毛利さんの派手な名刺が視界に入った。

「蘭さん!」

 引き上げ横抱きにした蘭さんの体温は下がり過ぎており、低体温症に陥っている可能性が高い。
 ほたかがいるであろう方向に向けて救難信号を発信する。これで救助は来る。

「しん、いち……?」
「名前です。新一って人じゃなくてごめんね」


 このシーンを書きたくて艦娘主にしたと言っても過言ではない。




▼純黒の悪夢沿い

 クローゼットに大切に仕舞っておいた着物と艤装を取り出す。

 白の襦袢の上に緑の振り袖、そして暗緑色の袴を早く着付け、煙突装甲装甲板を前に掛け、煙突
。慣れた作業だった。

 最後に、髪を左右で一つずつ結い上げて額に鉢巻きをすれば完璧。
 この世界では少し目立ってしまうが夜間だし海を通るので大丈夫だろう。

「……よしっ!」




 指輪を模した練度上限解放道具。

「……提督、みんな、力を貸して」

「こんのぉ……ッ!」

 摩擦で手が焦げ、手足の筋がぶちぶちと切れるが構わない。こんなの入渠すれば治る。
 でも人間の命は、取り返しがつかないのだ。

「10万馬力舐めんなあああああっ!!」

 火事場の馬鹿力。
 刹那、指輪から眩い光が放たれ、観覧車はゆっくりと回転を止めた。


 全身に激痛が走り、手足が震えて立っていることすらままならず私はその場に座り込む。
 フラグシップや棲姫と交戦した時の比ではない疲労度に、私の息は上がる。早く入渠したい。間宮さんの甘味が食べたい。

「名前!」



「あ……零くん……」
「無茶をするとあれほど言っただろ!?」
「だって私……もう誰も失いたくないから……」


 左指に視線を落とせばそこには何もない左指が映る。
 力を最大限に引き出した代償、と言えばいいのだろうか。指輪は砕けて瓦礫と共に地面に破片が散らばっていた。

 ケッコンカッコカリで引き出された能力が失われ、改二での上限に戻っている実感があった。

「……提督、ありがとう」

 飛龍、私は大丈夫。
 落ち込んだりもしたけれど、私は元気にやってるよ。


 降谷さんの言う通り、自分でも無茶をしたと思う。何せ指輪が砕ける程の負荷だ。
 練度上限と引き換えの奇跡だ。
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