『へっ?』
私は食べようとしていた卵焼きをお箸から危うく落とすところだった。
卵焼きを落としそうになった理由は、顔を赤くして俯いている可愛い千代ちゃんの発言だった。
千代ちゃんとは、高校で知り合った。
人見知りなうえに、中学校の同級生いわく私は、"私に関わるな"オーラをガンガン出しているらしい…。だから、中学生の時も1人でいることが多かった。
そんな私に初めて話し掛けてくれたのは千代ちゃんだった。私達は、話が合ってすぐ仲良くなった。千代ちゃんは、私の大切な大切な親友です。
私達は、お弁当を食べ終わってから、次の授業が体育なので着替えるために千代ちゃんと、更衣室に向かっていた。
職員室を通り過ぎたぐらいに、
「真田」
後ろから名前を呼ばれた。
後ろを振り返ると、少し離れた所に阿部がいた。
『何?』
「ちょっと来てくれないか?」
阿部が頼み事をするなんて珍しい。どうかしたんだろうか?
『いいよ。あっ、千代ちゃん先行ってて。すぐ行くから』
「うん、わかった」
千代ちゃんが歩いて行くのを見届けてから、阿部の近くに行く。
『んで、何処についてったら良いの?』
「…こっち」
それだけ言うと、阿部はスタスタを歩き出してしまった。
急いで私はその後を追い掛ける。
『ちょっと、阿部歩くの早い』
身長の差なのかな…。
「えっ、あー…ごめん」
うわっ、阿部が謝った。何か今日の阿部変だな…。
***
阿部の後をついて行って、着いた場所は、人が誰もいない屋上。
『…えっと。何?』
今まで一度もコッチを向かなかった阿部が、やっとコッチを向いた。
その顔は、ほんのり赤い。
「俺、真田の事が好きなんだ。付き合ってくれないか?」
え?
…………
『…………ごめん』
阿部に聞こえるか、聞こえないかぐらいの小さな声で呟く。
『千代ちゃん待たせてるから、行くね。じゃっ!』
阿部にそう言って、私はその場から離れた。
***
『千代ちゃん、ごめん。遅くなっちゃった』
「全然待ってないよ。って、どうしたの咲ちゃん!?」
私を見た瞬間、驚いた様子で聞いてきた千代ちゃん。どうしたのって、何が?
「何で泣いてるの!?」
へっ?
あっ、涙出ちゃったか…。我慢出来ると思ってたのになぁ。
『えっと、ゴミが目に入っただけだから』
私がそう言うと、
「…そっか」
千代ちゃんは納得していない様子だったが、そう言ってくれた。
私が阿部に告白された時真っ先に思い出したのは、お昼の千代ちゃんの言葉だった。
[「実は私、阿部くんの事が好きなの…」]
私も、阿部が好き。
でも、千代ちゃんを裏切るなんて出来ない。だって、大切な大切な親友だから…。
……これでいいんだ。
……これがいいんだ。
end
―――――
阿部になると悲恋率が高くなってしまう気が……;;