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本来なら取り壊される予定だった古い寮を改装して、シャドウと戦闘になっても問題がないように取り図られているのが私たち課外活動部の自宅である寮だ。学校生活は普通に過ごして、寮に帰れば当たり前のように雑談に戦闘の話が入る。ちょっと二重生活のようでややこしい気もするけれども慣れればそんなでもない。
それはさておき寮の最上階、作戦室と呼ばれている本来の用途が読めないくらいに改造された部屋でいつものように会議を開きクラサメ先生の号令で解散したところであるのだが、次々立ち去る部員を見送るうちどうにも気になることがあった。

「エース?どうかした?」

ついに室内には私とエースのふたりだけになり、クラサメ先生から戸締りの注意を受けてから彼に声を掛ける。
エースは戦闘以外、いつも読めないようなマイペースを発揮するけれども、今日はそれが特に酷かった。報告だとかははっきり答えているのだが、なぜだかモニターばかり見つめているのだ。敵の資料が表示されることもあったしその時はみんなが見ていたのだが、それが消えて画面が灰色になっても考えるように見つめている。みんなが退出した今でもモニターから視線を外さない。私には見えない何かが見えているとかだったら怖い。けれども不具合があるなら専門家に連絡を入れる都合がある。
私の声に反応したエースはちらりとこちらを見て、またモニターを見て、考え考え口を開く素振りをみせた。なんとなく緊張して膝の上に置いた手を握りしめた。

「モニターが故障した時期あるだろ。その時ちょうどここにいたから直せないかクラサメに訊かれて、それからちょくちょく様子みてたんだけど……」
「うん」
「……皆いないからいいか。ちょっとこれ見てもらえるか」

ふらりとモニターに近付いたエースが、手馴れた様子で操作部に触れる。促されるままに画面を見つめているうち、灰色だったモニターはノイズ混じりにどこかの部屋の映像を映し出す。部屋の隅から見下ろすような角度で、部屋の全体がしっかり映っている。

「これって寮生の部屋、だよね?なんでこんな映像……」
「ええっと、ここだったかな」
「え、へ、ええっ?え?」

大体は同じ作りの個室なので、寮生は自分の部屋のディスプレイだとかにこだわりを持っている。部屋の行き来も多いから、室内が映ればなんとなく誰の部屋かは分かるのだけれども、モニターの部屋は見覚えがなくて。
エースが操作して早送りされた画面は、誰かが無人の部屋に入室してくるところで通常再生になった。故障しているからか不明瞭だけれども、黒ずくめでマスクをした人物が室内でコートを脱ぐ様子が見える。シンプルなコート掛けに引っ掛けて、これまたシンプルなソファに座りノートパソコンを開く。幾度かキーを叩いてから思い出したようにマスクを取る姿に、直視できなくなり顔を手で覆った。
そのシンプルな、寮の備品で出来上がっているかのような部屋で寛いだ様子を見せるのはクラサメ先生で、つまりこの部屋はクラサメ先生の私室で今見ているのはオフのクラサメ先生で。

「い、いやああぁ破廉恥!なんでこんなプライベートを回し蹴りした後に銃で撃ち抜いてそこに即死魔法掛けるような映像が……!」
「その例えはよく分からないけどここが壊れてるらしい。たまに誤作動を起こして緊急時でもないのに録画されてるみたいだ」
「破廉恥!鉄面皮!ありがとうございます!」
「なんで礼を言うんだ……?」
「細かいことは追求しないで!ありがとうございます!」

いけないことと分かっていてもついつい指の間から画面を覗き見る。暫くパコソンを触っていたかと思えば不意に立ち上がり、冷蔵庫からペットボトルを出して直に口をつけながらまた机につく。露わになった口元ばかり凝視していたけれども室内は整理されている、というか物が少ない。その割に謎のスカーフだとか緑色のトカゲのようなぬいぐるみだとかインテリアなのか不明なアイテムがちらほら窺える。出入口にマスクケースがあるらしいのもなんとなく、こう、生活感というのがダダ漏れで苦しいほど見とれる。

「ねえ、エース、先生ずっと仕事してるよ」
「仕事人間だとは思ってたけどここまでとはな……」
「ねえ、マスク取った先生いつもよりかっこよくて辛いよエース」
「辛いなら停めるか?」
「続けてくださいぃ……」
「君の部屋とかも映ったら困るから、直す相談したかったんだけど」
「見たらやる……」

会話にならない……とぼやくエースに答えることもできず、彼の独り言までもが戦闘に対する悩み事かつ私の事だったもので興奮しすぎてエースの肩を殴ってしまった。私の手が傷んだばかりであった。
結局、冷静になってから機械を検分したけれども原因はさっぱり分からず、定期的に様子を見るついでに何が録画されてしまったかを確認する権利を得ただけだが結構な収穫である。私だけが得な。

「ちなみに君の録画記録についてだけど」
「正直、今の私の醜態より怖いものなんてない」
「これなんだけど……」
「……け、消してくださいぃ……」

大体醜態だった。



17.03.19 ×


 

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