終末感





「私たちって世界を守るために戦ってるんだよねー……」
「背中が痒くなる言い方をすれば、そうなるな」
「いいじゃないのちょっとくらいあれな感じにしても。ともかくは負けてはないはずなんだよね?今のところ」
「機体も人類もボロボロだけどな」
「さらに都心までボロボロだけどね」

元から赤い海が、夕日で原色のように赤く反射している。
目前のまんまるい海は一昨日出来たばかりのフレッシュなものだ。貴重なパイロットと機体と、使徒が心中して出来たどでかいクレーターに海水が流れ込んで生臭い。使徒の血の匂いなのか、パイロットや被害者たちの血の匂いなのか判別できないのは僥倖だろうか。
楽しい楽しい軟禁生活もここまで追い詰められれば解除された。息抜きにふたりで本部を出てみても、目前に出来た海のおかげで道もなにもあったもんじゃないのでもう海を眺めるしかない。調査用の船もこの時間には引き上げているから、呑気に飛ぶカラスくらいしか癒し要素は見当たらなかった。……いや、あのカラス死体食べてないよね。狙ってたりとかしていたらなんかもう怖い。もっと怖いものなんて沢山あるけれども。
世界の終わりのような光景を眺めながら、ふたり、意味のない会話しか出来ない。いや、会話できるだけましなのだろうか。死んだ人もいなくなった人も沢山いるのだから。ただ、その人の何かも背負って戦わなければいけないのだけれども。
逃げたくとも逃げる場所がない、戦ったら死ぬかもしれない、ここにいるだけで死ぬかもしれない。これが世界の終わりじゃなければなんだというのだろう。

「なんかさぁ、もう戦わなくてもいいんじゃないかなって気がしてこない?」
「不謹慎だろ」
「……そうだね、守ってくれたんだもんね。でも次の使徒で最後かなんて信用できないし、美鶴が乗る必要ない気がしちゃうんだよねぇ」

それこそ不謹慎なため赤い海にきゃぴきゃぴはしゃぐ気にもなれず、話題すら明るいものもなく、日頃の不満くらいしか言うことがない。いい天気ですねなんて言ったってどうしようもないほど地表自体が荒れている。
何が息抜き、か。どんどん滅入るばかりだ。やることは沢山あるけれどもどれも後片付けのようなものばかりだ。ぶはあ、と特大のため息を吐いて足を振ってみるも美鶴に「行儀が悪い」と一蹴されてさらに滅入る。いやそういう注意って保護者の私がするやつじゃないっけか。保護者だとしてもこの感じはパンイチのお父さんの扱いだろうかやだショック。

「ここまで来て戦わないとか、ないだろ」
「嫌なら逃げていいからね?」
「どこに?」
「う、うぐぅ……」
「ま、守ってやるよ」
「くっそー上からだな!」

実際上から頭をぽんぽんされて、着実に逆転していく立場にもうひとつ唸っておく。本当なら私が美鶴を守ってなきゃいけないのに、実際機体に乗れないし専門的なことに疎い私は雑用しか出来ないのだ。事実守られまくりである。
けれども、パイロットがひとり自爆しようと、彼は揺るがず自信たっぷりである。いつもと変わらずに。

「……戻るか」
「そうだね」

生臭い空気を肺いっぱいに吸ってから、ちょっと軽くなった腰を上げる。明日には襲われてか内乱でかうっかりぽっくりかで死ぬかもしれないというのに、美鶴が「守ってやる」なんて言葉をくれたのが不謹慎極まり嬉しかったのだ。今現在速足で置いてかれそうになっているけれども、そんな風に言われちゃえば、明日からも守られ甲斐があるというか。

「ふ、ふふふ」
「うわ気持ち悪い」

いつもの調子のやり取りに安堵しつつ、物理的にも空気も薄暗い本部へと帰るため足を動かした。



17.10.05
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