チュートリアル


「お慰めなさい、一晩経たずに戻るんじゃありませんよ」

そう言った女性に突き飛ばされるようにして部屋に入れば、布団と薬の乗ったお盆と刀が見えて、後ずさりする前に音もなく襖が閉められる。
布団に入っていた人物が寝がえりを打ってこちらを向く。
あ、終わった、そう思いながら、なんとか三つ指をついて顔を隠し、どうにか逃げられないか考えを巡らせる。
どうしてこんな時代錯誤な状況に陥ってるんだろう、どうして私の体は私が知らないものになってるんだろう。どうしよう。
どうしよう?




目が覚めたら別人になっていた、なんてことがあればいいのにな。人間関係も生活習慣も全部全部リセットしてやり直してしまえれば今よりは楽になるのかな。
そんなことを考えながら眠って目を覚ましたら本当に別人になるなんて思わないだろう、それもなんかこう、文明がちょっとこう古いというか戻ったというか、フローリングじゃなくて畳だしスマホもないし、そもそも自室じゃないし広いし和室だし。家具も照明も全部違う。

本当に、中身だけが「私」になったらしかった。
転寝をしましたと言わんばかりに机に突っ伏していた体は、私の体じゃないからか変な姿勢で寝ていたからか知らないけどもやたらとこわばって動かしづらい。ストレッチで解しながら手足の具合を確認すればどうにかこうにか思ったままに動けるようになる。うん、触った感じ性別は同じようだ。ならそこまで抵抗はない。
まぁとりあえずトイレにでも行くかと思って部屋から抜け出せば、なんとなーく体が動いて辿り着けたし、やたらと広いし長い廊下ですれ違った女性に関しても誰だこいつと思ってもすれ違いざまに「タミさんお疲れ様です」と口が勝手に動いてくれる。タミさんは結局誰か分からなかったけれどたぶん使用人とかお手伝いのひとだろう。すれ違いざまに「あらお嬢様ったら」と服の襟を整えたり髪を撫でつけてくれたり私の世話を当然のように焼いて行ったけれども親というには余所余所しいし、なんかこう、違う気がした。
使い慣れない和式トイレから戻り自室らしい目覚めた部屋でタンスを漁り身元とかの手がかりを探し、雑貨は多くとも本とか手がかりがないことに見切りをつけ、ほぼ本能的なもので足を動かし居間に向かう。そういえば鏡を見ていないなと思い立って窓ガラスに目を向ければ、見覚えのない顔が寝ぼけ眼でこちらを見返した。顔面偏差値……は、うん、ほぼほぼ同じ。違和感はあっても嫌悪感はゼロ。
夢を見ているようだ。夢かもしれない。それでも現実から少しとおい夢なら、別にいい。あっちの私が夢でこっちの私の夢だったのかもしれないし、あっちに戻れるよと言われたって戻れないよと言われたって構わないくらいにはどうでもいい。
まあここかなと選択問題くらいの気軽さで襖を開ければ、さっき窓に映っていた顔に似た輪郭の、きっちりと和服を着こなした女性が私を睨む。片手に盆、片手には包帯や薄そうな着物を持っているのをみて自然と「ごめんなさい、寝過ごしてしまって」と口が動いた。この私はずいぶん真面目なようだ、うたた寝を自己申告とか私ならばれるまで言わないのに。

「どうしたんです、珍しく洋服まで着て」
「ええと……」
「まあいいです、今日は柱がお見えになってるわ。分かっているわね」

何にもわかっちゃいないけれども頷いて着物を受け取った。心中わけわからなすぎてぼんやりしているけれど、女性の話はとうとうと続く。

「とにかく失礼のないように。一人で出来るようになってますね」
「はい」
「片付けはしなくていいですから、客間にすぐ行きなさい」
「はい」

とても今後の予定の詳細が訊ける雰囲気ではなく、一人でできるもん的なことを訊かれたからにはたぶん体に染みつくまで練習しているだろうし、何が何だかわからないままだけれども今のところ何とかなっているし、まぁ何とかなるだろう。なってもらわなければ困る。起きてまだ二時間もたってないけれど、何も馴染めた気はしないし理解も追いついてない。
とにかく何処かしらに持っていけば何とかなるかなと思って体の赴くままに家を歩けば、自室からも居間っぽいところからも結構遠いところに着いた。今更だけどこの家、とても広い。
たくさんの障子と襖が並ぶ中でも雰囲気が違う部屋が一つだけあって、特別なイベントがあるならここだろうなとぼんやりと理解する。この「私」にとって勉強だとか学校だとかより優先されるべきことがこの部屋にあって、私はそれをこなさなければならない。「私」はそれがなんのなかさっぱりわからないけれども、あっちに戻らされるよりはずっといいなと腹をくくる。まあ私の腹じゃないしと少しばかり他人事だ。

「お慰めなさい、すぐに戻るんじゃありませんよ」

そう耳打ちされ、盆を押し付けられ客間に押し込むようにされて現在に至る。
お慰め。布団の中に見えるのは長い黒髪だけれどもまあ男性だろうなという膨らみ具合で、残念ながらオタクとして蓄えた知識が何をするよう指示されたのかを正確に認識した。
このお客様と、まあ、あれしろと。
布団の男性が起き上がろうとした。けれどもその動きがあまりにゆっくりで、よくよく見ればそこかしこに包帯と滲んだ血が見える。いやこんな時間に寝込んでるとか結構な怪我人じゃん、こんな昼間からお誘いを指示されるしこの「私」の生活環境どうなってるんだよとパニックになりたくてもなれない。なったら終わりだ、女性、おそらく母親になんやかんやされる。というかされていたのか体が部屋を出るという選択肢を全く選ぼうとしないのか足が下がらない。よっぽど帰って母親に見つかるほうが怖いことらしい。
この体は他人のものだ。私がどうこうするのはおかしいだろうし、というかお慰めとか訳が分からないししたくもない。古そうな内装からしたら当たり前の文化かもしれないし、けれどこの体の元持ち主だって嫌すぎて私みたいなのと場所を交代したんじゃないだろうか。
黒髪の男性が体を起こそうとする。いくら緩慢な動きでもフリーズしている私よりは早くて、起き上がられてしまっては怪我が心配だし私の貞操も心配だしああもう布団にお戻りになってもらおうもういっそ一晩ぐっすり寝てもらって私はそっと添えるだけにでもしてもらおうそうしよう。

「失礼いたします」

本当に失礼する決意を固めて布団の横に膝をつき、包帯の部分に触れてしまわないよう気を付けながら彼の体を押し倒す。彼はあんまり表情を変えずに横たわってくれたけれども、口を開きかけたので私が先に口を開いた。
くらえ、カラオケで鍛えて友達数人を泣かせてきた私の失恋メドレー小声アレンジ。
喋るのをやめた男性は口を閉じ、目を閉じ、友人たちと同じように何かを耐える顔を始める。これはある意味お慰めに入るんじゃないかと曲解で自分の洗脳に成功するころには、私も彼もうとうとしてきて、大人しく目を瞑った。





もういや、と顔を覆って泣く女の子がいた。
ここは道端だとなんとなく分かる。舗装されてない田舎道みたいなところの真ん中、それも周りも真っ暗なところで女の子が泣いている。
もういや、わたしはかあさまやとうさまのどうぐじゃない、はしらさまのこどもなんてうみたくない、けんしをうめるかだってわかんないしわたしはおになんかどうでもいい。ふつうにけっこんしてこんないえでていきたかった。なのになにここ、こわい、私が私じゃない。助けて。もう嫌だ。
そっと近づいて肩を叩けば、その女の子は私だった。いや、私の体に入っている「この子」だろう。そっか、いやなんだね、私もその気持ち分かるよ。
ほんとう?あなたも、そんなに嫌だったの?
そう。でも、ちょっとでも現実忘れたかったら、クローゼットの中の手前から二つ目の段ボールを開けてみて。
だんぼーる?
あ、紙でできた箱のこと。みればわかるよ。
そう、あなたは……あのね、藤の花の掛け軸の裏に、鍵を隠しておいたの。家の鍵よ。使って。
うん。





なんだかチュートリアルみたいな夢を見ていた、気がするけれども、目の前のものの衝撃で吹っ飛びかけた。
なんかすっごい見つめられている。狭い一枚の布団のなか、並んでいるとはいえ隅っこに私だけ枕もなしに寝ていて、しっかりがっつり顔を見られまくっている。
あの布団にいた黒髪の男性だ。私より早くに目を覚ましていたようで、眠そうな様子もない……というか真顔すぎる。どういう気持ちだとこういう顔になるの。泣きそうなときは分かりやすかったのに急に難易度跳ねあがり過ぎだと思う。
というか顔がいい。私より絶対綺麗だしこの顔を見た後だったら夜這いとか絶対無理だった。
そんなことやらに考えを巡らせて、私の目がしっかり覚める頃になってもものすごく見てくる。私があからさまにビクッと動いてしまってもすっごい見てくる。しかも無言だ。そういえば寝る前に彼が口を開くのに先まわりしてふるまっていたから気にしているのかもしれない。だとすると私から話さなきゃならないのか、いやそもそも誰なのか。呼び掛け方すらろくにわからない。
はしら、とかあの女性は言っていたけど苗字なのか名前なのかあだ名なのかはっきりして欲しい。というか考えが分からない視線で見つめられ続けてるから話題何も思い浮かばない、ひたすら焦るから止めてほしい。頭真っ白だ、いやひとつだけ、本当に当たり障りないのひとつだけ残ってた。

「よく眠れましたか?」
「…………」
「…………」

瞬きだけでまた見つめられる。いやどうしたらいいの。いやもう諦めよう、会話だけがコミュニケーションじゃないいける。私はやれる。
とりあえず起き上がって自分の衣服に皺があれども乱れはないことを確認して、周りに目を巡らす。
脇に置きっぱなしの盆、そこに乗った水が入ってるらしい瓶、薬箱、その横に適当に置いた着物。あれ、もしかして着替えだろうか、このやたら綺麗な男性の。
改めて横を見る。やはり無言で見つめられている、ちらりと見える範囲でも首とか腕とか包帯ぐるぐる巻きの男性。これは介抱しなきゃいけないって流石に分かる。

「包帯、代えましょう。私が手伝います」
「ああ」

やっと喋った男性はとても静かに起き上がって、真顔で戸惑いなく脱ぎ始める。そろそろ私だって慣れてきた、なんかもう何があってもそんなに驚けない気がしてきた。なんせこの体はあれだしこの人はこうだし状況はまださっぱりわからないし。
ひとりでできるもん云々は看護系だったのだろうか、この体はてきぱきと彼の着物を受け取り次の包帯を準備し「お湯と手ぬぐいを」と声を張る。くるくる古い包帯を解けば生々しいものから古いものまでたくさんの傷が見えて、思わず息を呑んだけれども手は止まらない。少なくとも治療に支障のない程度の動揺で済んで、それにはとても安心した。
失礼します、という声が聞こえて、襖までにじり寄って開けてみたならお手伝いさんではなくあの耳打ちの女性だった。様子見も兼ねてだろうか。ともかくは汗と薬をふき取るためのお湯は受け取ったので「ありがとうございます」と言外に出て行ってもらえないかとアピールした。けれどもまぁちっとも効かなかったので諦めて男性の背に回って拭き始める。結構この男性も無頓着なのか気にする様子はない。ならいいかと開き直って丁寧に体を清めて、丁寧に傷口に薬を塗りこんでいるときにそれは起こった。

「頼みがある」
「はい、何でしょうか」
「今夜も来てくれ」

思わず回り込んで顔を覗いたけれども真顔すぎてどうとも取れない。女性は手に持っていた盆を取り落として水と薬をぶちまけていた。
私はといえば、もう諦めて「はい」と返事をしながら包帯を手に取った。
成り代わりってもっとこう、分かりやすいんじゃないの。知識も説明も情報も足りないし言葉まで足りないってどういうことなの。





耳打ち女性はまあ、予想通り「私」の母親のようだ。
脇腹を痛めているらしいはしらの男性の着付けまできっちりこなして、これ怪我人に出す量かなと不安になるような山盛りの朝ご飯を膳で出して空になるのを見守って、空いた膳を下げてようやく一息つける……と思えば今度は家族揃っての朝食らしい。私自身に記憶はないので、家族というより他人との食事になるから正直ひとりになりたいけれどもそうも言えなかった。母が、こう、報告しなさい的な視線をびしばしと送って来るもので。

「いいですか、あなたの兄は鬼に殺されました。長く続いたこの家も家督を継ぐものが絶えている状態です。いえ、それはどうにかできましょう。あなたは鬼を殺す子を育てなければいけません」
「はあ」
「お父さんもあなたも藤の家に生まれながら剣士の才能はなかった、ならば次の世代に望みを託しましょう。この家から、いえ、この家の血縁から剣士を出して鬼を一匹でも減らすの。そうじゃないとあの子も浮かばれないわ、食べられてなんて……ああ、まずいまずいと言われながら食われたあの子が不憫で……」

ああ、それではしら様との関係を迫られたのかと合点がいきながら箸で魚の骨を避ける。前の私よりもめちゃくちゃ上手いので本当体の記憶って大事だなと実感する。知識は癖のようなそれらとは違いこうやってしっかり聞いて覚えなきゃないけれども、そこはそれ。
母の食事中の説教はいつものことなのか、母の隣に席をとる父親らしい男性は「いただきます」以降完全に無言だ。きっちり洋服を着込んで食事しているあたり仕事だろうかと推察する。そこそこお金持ちの気配がするから、まぁおそらくは忙しいのだろう。屋敷大きいしお手伝いさんまでいるし、来客を治療する余裕もあるようだし。
それよりも、ちらりとでてきた「鬼」という単語が気になった。何かの隠喩だろうかと黙って聞いていたけれど、食べられたとか減らすとか増えたとか、直接的な表現があまりに多くて言葉通りに取りそうになる。兄がまずいなら私もまずいのだろうか。食べられたくはないけれど。

「昼にはお医者様が見えるから。柱様について手伝いなさいね」
「はい……」

この「私」は多分若いし、なんなら高校とか中学に通ってても違和感ないと思うのだけれども選択肢ははしら様一択らしい。時代?世界?がそんなものなのだろうか、和服とか洋服とかがレトロ可愛くて気にはなっていたけれども……というか本当に情報少なすぎる。ご飯は美味しい。おこげすごい……。
味噌汁も美味しい……と疲弊した頭を空っぽにしていれば、お手伝いのたみさんがすすすと部屋に入ってきた。

「隊士様がお見えです」

母親がすんっと、本当にすんとしか言えない顔をして立ち上がる。たいし、は確か私が産まなきゃいけない役職というかそういうのだったと思ったのだけれどもはしらと差がありすぎないだろか。ヒエラルキー的に下とかあるんだろうかわからないけど。

「貴女はとにかく柱様に。もう一方は私が応対しますから」
「出迎えてから仕事に行くよ」
「そうしましょう。たみ、部屋に布団と着替えを」
「はい」

私の意思なんて介されず、慣れたように全てが決まっていく。もとの「私」はこれが嫌だったんだろうなとしんみり思いながら、無意識のまま食器をまとめて父親と母親の分も片付ける。
昼まで自室にいること、とここまできっちり指示されてしまってやることもなく、それと普通に眠くて机に堂々突っ伏して昼寝の姿勢を整える。
あ、これ昨日入れ代わって起きたときと同じポーズだ、とうっすら考える頃には寝入ってしまった。






私の部屋だ、と少し驚きながら周りを見る。
今朝方の夢は夢だけど夢じゃなかったんだろう、今度はこちらになったというだけで。今朝の夢の中の風景はこの私にとっては日常風景だったはずだ。まだ家から出たことがないから分からないけども。
大きめのクローゼットにテレビ、小さめのベッドに横たわる私の体。その手には見覚えのありすぎる、今朝オススメしたコミック。

「よっす。どうよ」
「……好き……素敵……徹夜しちゃった……」
「……もしかして、時間は連動してるっぽいね」
「様子変だからって今日はコウコウ?休んでるの。貴女は?まだ昼前でしょう」
「仮眠。お昼からはしらさまの接待しなさいって」

その本を覗き込めば読むことも出来た、確かにその辺りは熱くて止まらないのは分かる。どうやら夢の中なのに本とかは持ち込めるらしい。そんなに都合がいいのなら、ここで読めるなら、ますます元いた世界に帰る気がなくなる。いや、帰れなかった場合とかを考えるとそんなに悪くないか。
今朝はお互いが状況を分からなかったけれど、半日も経てば何となく状況は見えてくる。
お互いに基礎知識が足りないことは痛感していて、とりあえず生活に必要そうな「常識」をすり合わせることにする。お互いが眠れば同じように顔を……顔?というのもあれだけどうん、顔を合わせながら対話は出来るようだし、取り急ぎ。

私が今生きているのは、お伽話でしか知らない鬼がいる世界だという。主食は人、夜しか出歩けない、実家は鬼を殺す組織を支えるのが家業。内容としては主に宿とか治療とか、場合によっては交通費の立て替えとか金銭面もサポートしているらしい。その中でも「柱」と呼ばれる隊士は強く、強いということは組織の中でもだいぶ偉い。そして母親に柱との関係を強要され、泣いていたらこうなったのだと一連の流れを確認する。

「え、鬼とか普通にいるの?こわ……」
「こっちもこわい……喋るかまぼこ板にわけわかんない言葉に、なに?改札につっかえたときすごい睨まれたわ……挟まれるのこわいわ……戻って来たら休むことになったんだけど」
「あ、ごめんね……」
「でも、この、漫画?は楽しいの。読む時間が出来てよかった」

肉体を交換するくらいだから趣味も似ているのか、私秘蔵のコミックスは彼女に気に入られたようだ。
以前は周りに仲間がいなかったから感想を言う機会もなく、今こうして語りまくれるのはとても楽しい。なんかもうこのために私たちは入れ代わったんじゃないかなと握手を交わした頃に彼女が「あ、起きる」と呟いて上を見上げる。私にもその感覚は伝わった。たみさんが私を起こそうとしている。

「じゃ、またね」
「ええ。頑張ってね」
「あなたもね」

清々しい気持ちで目を閉じ、起きる。多分また会えるなと確信もあった。







「お嬢様、先生がお見えです。柱様のお部屋へ」
「……ふぁ、分かりました」

ごしごし垂れた涎を拭きながら起き上がり、顔を洗わないと駄目だろうなぁと少しうんざりする。言われたままに動くだけなら楽でいいけれど、さすがにだらしない格好でお客様に、それもお偉いさんで怪我人で人助けに命を懸けているような人の前に出るのだからさすがに、ねえ。さっき知ったばかりだけど。

ここで生きるんだなぁと、涎を拭った見慣れない手を見て思う。顔も知らない、声も馴染みがない、知識もろくにない。あの子が捨てた「こっち側」。
昨日は分からなかった物静かなお客様に、もっとちゃんと優しくしようと思う。急に部屋に入り込んだこどもを追い出さないでいてくれて、私の歌をちゃんと聴いてくれた人。
言いなりでなあなあで生き直すつもりは変わらないけれど、あの人の傷を思い出して、少しは頑張ろうかと気持ちを入れ替えた。ほんの少しだけ。



20.02.01
le○mn、木蓮○涙
prev next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -