鬼城ルート2

ナキメ様、と呼ぶようにだとか、食事は外に出してやるから勝手に食え等等と細々としたことを教えてもらい、食われたくなければ不用意に出ないようにと部屋まで充てがわれて。
思いの外、実家と変わらない。いや食事に外に出られたりするからこっちのほうがいっそ自由度が高いかもしれない。
自由時間を持て余すもできることがなく、そもそもこの屋敷って掃除どうしてるんだろうとか答えのない疑問をぐるぐる考えながら歌を口ずさむ。歌で生き残ったのだから少しでも精進すべきだろう、あと暇。寝てあっちの『私』と談笑するか積んでた漫画をあっちで読むくらいしかやることがない。寝ているうちに何があるか分からないので頻繁に寝るのもちょっとあれだと思うし。
そうして歌の練習をしながらうんうん唸って余計なことまで考えて、暇つぶしになりそうかつ心配なことをなんとか捻出した。

「手紙を家に送ってもいいですか。家出とでもいえば安心するでしょうし」
「……余計なことを書くんじゃないだろうな」

きろり、と前髪から大きな目を向けられるナキメ様は座っているだけに見えてムザン様の命令をこなしているのだという。正真正銘暇なために彼女の隣に座る私は邪魔だろうけれど、世話を仰せつかったからと結構しっかり見ていてくれる。一度トイレの帰りに鬼らしい鬼に襲われかけたときなんかは助けてもらっているし。
なんだかんだ書物ができそうな部屋を寄せてもらえ、そちらに移ろうとしたら内容を見せるように言われたので机ごと彼女の隣へと移動する。その合間にも打ち鳴らされる琵琶はしっかり曲として成立しているので素直に憧れる。

「ではええと……元気です、心配しないで。探さないでください?」
「走り書きにすると書かされたようにみえるだろう」
「なるほど。では丁寧に……」
「余計なことは書くなと言ったがそれでは短すぎる。不自然だ。疑われる」
「そういえば手紙なんて久しぶりで。ええ、前どんなこと書いたっけな……お母さんありがとう?」
「余計に探されるだろうが」

チッッッと重めの舌打ちののち、思いの外ノリよく「男ができたとでも書いたらどうだ」とアドバイスをくれる。なるほど生活感が覗き見れて説得力がある。

「うーんそうなると……駆け落ち?」
「どんな男か決めて書けば信じやすいだろう」
「あー……。カイガク様のことを匂わせていく感じですね」
「ああ、あの新入りか。事実だしいいのではないか」
「ではえーっと……カイガクってどう書くんです?」
「はぁーーー……。貸してみろ」

筆で書くのが辛すぎる名前に四苦八苦し、途中からもう諦めて匂わせでいくことに決めて文章を考えるのに協力してもらい、クズ男の定義を話し合い愚痴を言い合い、だいぶ仲良くなってセッションの約束をしてから床についた。充実感にほくほく寝返りを打った瞬間に出しそこねた手紙を思い出したものでまあそんなに急いで出さなくてもいっかと開き直り、どんな曲なら琵琶に合うだろうかとうきうき候補を上げながら眠りにつく。

「いや馴染み過ぎじゃない?生きてて安心したけどね?」
「そうかな?」

夢の中でだいぶ真っ当に叱られてしまったけれど、まあ、脳内プレーヤーで琵琶伴奏について熱く語り合っているうちに「もっと仲良くなっておこ!幅広げてこ!」と送り出されたので嬉々として起き上がる。

「ナキメ様、ナキメ様、ハモリしてみませんか?」
「は?私は暇じゃない」
「まぁまぁ、女の子の話はちゃんと聞いたげようよ、ね?」
「うわ誰です?」
「……童磨様だ無視していい」
「えー?」
「了解ですー。…………」
「ええぇー……」



21.09.30
○本桜
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