館ルート2

「あまね様、こちら終わりました」
「ご苦労さまです」

お茶にしましょうか、というお言葉に落としかけた腰を上げ、もうひと仕事と茶器類を取りに行く。苦もないしご褒美のためなのでむしろやらせてくださいという心境である。

「こちらの生活は慣れましたか」
「はい。実家より充実しています」
「大所帯ですからね。隊士は皆家族よ」
「わぁ、多いですね……」

微笑むあまね様に癒やされながら、カラカラ障子を開けて顔を出す。なんせ歌いまくるのが本職扱いで、肺活量には自信があるのでこういうのは私が担っている。

「お嬢様方ー!お茶にしますよー!」
「はぁい」
「はい」
「うっせーわ!」
「はーい!」

行儀のいいお返事の合間に聞こえた暴言に、ふふっとなる。子どもってそういうの覚えるの早いよなあ、としみじみしながら振り向けば、あまね様が目をカッと見開いてこちらを見ていた。美人の真顔すごいこわい。

「今粗相が聞こえましたが」
「え?なにか聞こえました?」
「……暴言が聞こえたのですが」
「あ、一緒に歌ってたからですね」

ムッとなされたあまね様にどう説明すべきか悩んでいれば、当事者である五兄弟がきゃらきゃらと笑いながらこちらへと来る足音が聞こえる。あのリピートしたくなるサビを口ずさみながらだ。今度はすんっとなられたあまね様は変わらずきれいな姿勢で立ち上がり、こちらへおいでなさい、と奥の襖を開けた。あれ、お茶……。

「あの子達は滅多に家から出ませんから、なにか変わったことをと思ったのですが」
「はい」
「刺激が強すぎます。貴方達もこちらに」
「はぁー!うっせえわ!」
「こら座りなさい!」

声を荒げるあまね様というレアなものと引き換えに、お茶休憩は消え去った。








「そう、それで私声を掛けてもらっちゃったのね」
「花柱様もお忙しいでしょうに、すみません……」
「いいのよ、ちょっとくらい!今はこうだしね!」

こう、と掲げられた腕には痛々しく包帯が巻かれ、その手にはしっかり饅頭が握られている。刀が握れれば戦えるんだけど、とふにゃっと顔をしかめた花柱様はまたすぐにころりと表情を変え、それにしてもとくすくすと笑い声を漏らした。一昨日にも鬼を倒しまくったひととは思えない穏やかさだ。

「あまね様が怒ってるところなんて見たことないわ。あなた、すごいのねぇ」
「まさかお付きのお付きが必要になってしまうなんて……私は手伝いに来たつもりなのにご迷惑ばかり……」
「お付きが増えるのは嫌じゃありません」
「ええ。嬉しいです」
「お館様も喜ばれてたわ。迷惑なんかじゃないわよ」

ほぼ初対面だというのにこの対応、絶対にいいひとだ、とお嬢様方と私で囲い込んで遊びに誘う。
見ててくれればいいからと濡れ縁に呼ばれた花柱様だけれど、どうせなら皆で遊ぼうと何をするか話し合う。これだけでも十分楽しそうなお嬢様方にほっこりしていれば、怒られた原因の歌を聴かせてくださいなとリクエストが入ったので全員で声を揃えて歌った。
あの優しい花柱様に真剣に叱られた。
今日は風柱様とはお会いしなかったな、と命拾いのように思いながら、彼に聞かれたならこんなものじゃ済まなかったろうと安堵した。誰が屋敷に居るのか訊いてからにしよう、今度から選曲は歌詞をよく考えよう。……いっても隠喩までにしよう。


21.05.17
うっ○○わ
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