次の日役者は死んだらしい




「君、なんなの?この状況」

「ちょっと心中のお誘いに」


へら、と笑うそいつは可愛らしく両腕を使って頬杖をついていたが全然可愛らしく見えない。まず、貞子よろしくテレビから上半身這い出ているのがよくない。次にお前何歳だと思ってんだ。イタいんだよ。


「あ、今大丈夫ですか?あっちからだと外の様子は分からなかったんで」

「あぁたぶん大丈夫じゃない?人目を気にしなければ」


ならよかった、と休憩室を見渡すそいつは本当に人目を気にしないらしい。横綱戦…と呆然と呟くいかついおっさんすら無視して意外と綺麗ですねとか言っている。


「死刑求刑、ニュースで見ましたよ」

「まぁ、実際は殺してもらえるまでまだまだかかるんだけどね。数年はここで反省、になるのかな」


自由はないが、規則的に仕切られた生活は案外心地良い。あれこれ考えることも出来るし、炊事はしなくていいし、余計な人間関係も避ければいい。ここから出れないのだと確実に分かった今なら尚更だ。出てからの心配が無くなったんだから。
休憩室に集まっている奴等は面白がっているのか、看守を呼ぶ気配はない。そりゃテレビから人間が出て来るなんてすごいレアな体験だからね。監視カメラに映ってたら心霊現象って言って投稿できそうだ。


「で、何の用?休憩時間短いんだから手短にね」

「そうですね、俺は捕まりたくないし。
一緒にこちらに来ませんか?」

「こっちで償えって言ったのは君達でしょ、今更だねぇ」

「俺が我慢出来なくなったんですよ。それに足立さんはちゃんと償ってたと思うんです」


崩さない笑顔で一緒に行きましょう、と差し出された手は真っ赤に爛れていて見ているこっちが痛い気がしてくるほど。
ふむ、この手をとれば数日中には所謂壮絶な死(昔の自称恋人付き)で、こちらに残ればゆっくりのんびり世間とかにいびられたのちに真っ暗な中で監視されながら首吊り(決定的なスイッチ押すのは知らないオッさん)。なかなか究極の選択じゃないでしょうか。あぁでも周りの落伍者が流石に騒いできたからそろそろ決めないと。


「…あのね、とりあえず言わせてもらうけど、僕をここに放り込んだのは君なんだからね」

「すみません」

「僕は君らに負けた時点で色々終わったつもりだったんだ。まぁ親からはとっくに縁切られてたし社会からすら見捨てられたぐらいしか変わりはないんだけどね」

「すみません」

「少なくとも一年くらいはあった僕の寿命をあっさり縮めるんだからね君は…まぁ行くけどさ」

「すみません」


破れてがさがさの手のひらを掴むのは不快そうなので仕方なく裾を掴む。いや痛がるのは楽しいだろうけど。
流石に看守が監視室から来たようで怒鳴り声が迫ったが、妙な解放感でいつもより不快だ。出れると思うとこれだ、慣れって怖い。


「すんません佐々木さん、僕は自殺したって言っといてくれます?」


同室の佐々木さんはいつもの仏頂面で「まかしときぃ」とか言いながら手を振っている。今更ながらかなかな過ごしやすい方だったなぁ。休憩室にいた人間がテレビ(から体半分出ている男)を囲って突っ立って呆けているのを見回して、一応はお辞儀をする。「それじゃ、お疲れ様でした。先失礼しまーす」このキャラ使うの久々だ。
言い終わるか終わらないかのうちに結局手首を掴まれて(うぇ、ざらざら)テレビの中に引き摺り込まれた。いっそホラーっぽすぎて投稿出来ないかも?
普段味わう機会もない長い落下に腹と股間を冷やしながら、真っ暗な中に浮かぶパノラマみたいな地面を観察した。こいつの精神世界がパノラマ?なるほど気持ち悪い!


「僕と君の死体で完成とか言わないでよ、萎える」

「そう思えればいいんですけどね…まだ足りない気がしちゃうんですよねぇ、っと」

「いでっ」


縮尺が目茶苦茶な空間にまともに着地できるはずもなく(こいつは別)、無様に背中からぶつかる手前で先に着地した自称元恋人に掴まれた腕を引かれて一応は無事に落ちれた。顎をやつの肩で強打したが。


「とりあえずキスしていいですか?」

「だから、君はどんだけ悪趣味なの」


やけに寒いここではため息が白くなる。
あぁ、生温いなぁ、こんな最期で世間は満足するんだろうか。話題性はあると思うけど。服は着た状態で発見されたいなぁ。



10.07.21(qufa)


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