一人舞台がお似合い



「人と話すのは嫌いなんだ。だって相手の言ってる事をちゃんと聞いて返事しないと大事なこと聞き損ねると困るしさ。ほら事件の事とか、噂も馬鹿にできないじゃん?相槌だけ打てばいいって訳にはいかなくなっちゃったからねぇ、しかもサボってると思われないように探らなくちゃ」

「………」

「警察よりもあら探しする野次馬の言ってるような突拍子もないような話の方が近いんだからこっわいよねー。アンテナに逆さ釣りなのは電波が関係してるからだ、とかさ。あながち間違ってないよね。テレビ関連ってとこ?」

「………」

「テレビと言えばさ、君の友達の家の天城屋旅館、あそこに取材来たんでしょ?深夜番組の。あれ際どい内容が話題になってるやつだよね、いやぁ、ああいうのに目をつけられたら終わりだよねぇ。老舗の陥落とか言われるんじゃない?それはそれで面白そうだけど」

「………」

「……君、最近はテレビに落とされてすぐ助けてるよね。次の日とかに。つまんないじゃない、マヨナカテレビの番組ゆっくり見る暇もないくらいなんだから。まだ焦らなくてもいいんだよ?じっくり、少しずつ番組の内容が際どくなるのがいいんだからさ。君だって見てるんでしょ、手掛かりって言い訳しながら結局は好奇心でさ。他人の隠したい事がおもしろおかしくやってんだから楽しくない訳ないよねー」

「………」

「そういえばさ、君は自分の影がどんなやつか知らないんだよね。もし番組になったらどんな感じになるかなぁ。普段しゃべんない分溜まってるんじゃない、なんていうか、色々?放送規制とか関係ないからすごいことになるかもね」

「………」

「…今入れちゃおうか。ここのテレビなら、君の肩幅でも落とせるでしょ」


その言葉にも肩を竦めるだけで答える。
菜々子を寝かせた後に少し話しませんかと言ったのは僕で、君が口を開かないならという一方的な条件を押し付けられて半時間過ぎ今に至る。それまでつらつらと話し続けていた足立さんは押し黙り、薄暗いテレビ画面をつまらなそうに見詰めていた。
貴方を落としたら、今の貴方の本音が聴けますか。ほらきっと聴けないでしょう。


「あー、君のその眼嫌いだよ」


顔目掛けて飛んできたリモコンを掴んで微笑めば、冷めた眼で見下される。俺はその眼を嫌いにはなりませんが傷つくんですよ、こう見えて木綿豆腐のようなハートなんですよ。
あーあ、と大きく息を吐いた足立さんは叔父の着替えを詰めておいた紙袋を引っ提げて立ち上がった。


「ご馳走さま、そろそろ行かないと怒られちゃうから。あ、見送りとかいいからね」


喋れないのを逆手に敢えてその言葉を無視し、後ろから気配を消して追う。面白いくらいに気付かれないものだから、玄関から体半分出ている足立さんの片腕を引っ張ってドラマのキスする手前みたいに頬を撫でた。
その時の足立さんの顔といったらもう、予想はしていたが俺の木綿の心が原型をとどめないくらいに握りつぶされるくらいのダメージを与える無表情っぷりだ。ああ笑いそう。人間追い詰められると笑うって本当らしい。


「じゃ、おやすみ」


俺が頷いて手を離して、また口元を弛めた足立さんはそれだけ言って戸を閉めた。
あれ、会話ってどうやるんだっけ。



10.07.06(qufa)


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