"キ"劇を始めようか?
※犯人不特定ED後
アルコールとか焼き鳥とかの匂いの染みた叔父さんは完全に力を抜いているらしく、ほとんど引きずるようにして足を一歩一歩踏み出す。荷物持ちという一番楽な役割をかっさらった足立さんも、合わせている訳でもなくゆっくり歩いている。潰れてはいなくてもそれなりに酔ったのだろう。
「君ぃ、もっと飲んだってよかったんだよ?せっかくこっちに来たんだからハメ外しちゃえばいーじゃない」
「足立さんも叔父さんも結構飲んでたじゃないですか、心配で飲めませんよ」
「ふーん、大人だねぇ」
鼻歌でも歌いだしそうな足取りで霧の中を歩く彼とは対照的に、ずりずりと確実に靴底を減らしながら家へと歩く。川からは少し離れているはずだが蛙の鳴き声が喧しい。
「堂島さん、君と飲めるのよっぽど嬉しかったんだろうね、こんなになるのは久し振りだよ」
「そうなんですか?」
「ほら、三年前の生田目の事件みたいな誘拐が立て続けに起きて忙しくて、ね。管轄じゃないのに調べさせられるからそりゃあもう忙しくて!君が遊びに来た時くらい休めばいいのに、せっかくだからって飲んじゃって」
「誘拐、ですか?」
「あ、あー!今のナシ!」
ばたばたと手足を大袈裟に動かして近付きながら、「堂島さん寝てるよね?」と叔父の額をつつく足立さんの様子があまりにびくびくしていて声に出して笑った。りせ達じゃないけど、俺も少し酔ったのかもしれない。
んがっ、としか言わない叔父に安心したらしく、足立さんはくるりと前を向いて口を開く。
「ここだけの話だよ?
君も友達に聞いたかも知れないけどさ、最近またさらわれたんだよ!主婦と高校生ひとりずつ!またジュネスのテレビ売り場で発見されたらしくてね、行方不明になってた間の記憶はないって言ってて、捜査が進まないんだよねぇ。君の言ってたほら、テレビの中の世界?そこが関わってるんなら君に話してみればいいって言ったのに堂島さんきかなくって…」
「そんな事言ったって、二人とも信じてくれなかったじゃないですか」
「だ、だって、普通信じないよ!ペルソナとかシャドウだっけか、それが原因で人が死ぬなんて。本当なら僕らの出番なくなっちゃうよ」
「……死ぬと分かっていてテレビの中に入れたら、殺人罪にはならないんですか」
「さあねぇ、具体的にどうなるかは僕らの担当じゃないからね。どうせ容疑者の目星もついてないけどさ」
流行りの恋愛ソングを小さく口ずさみながら右と左を間違えて曲がろうとする彼の腕を掴んで進路訂正し、ずり落ちそうな叔父を背負い直す。まったく反応を返さない叔父にへらりと笑った足立さんは俺に荷物を押し付け、霧で曖昧な道を突進みはじめた。
「ねぇ、君ももう大人なんだし、賭けでもしようか」
「警官の台詞じゃありませんね」
「まったまたぁ、僕だって人間なんだから遊びたいの!」
ずんずん進む足立さんの影が街灯よりも手前にうっすら浮かんで見える。名前を呼べば、くすくすと笑われて無意味に不安になった。
「みーんな言ってる、もうすぐ世界は終わるんだってさ。せっかくだからそれネタにしよう。
君が超能力…でいいのかな?それで犯人を見つけたら君の勝ち。世界が終わるまでに見つからなかったら僕の勝ち」
「何を賭けるんです」
「世界、とか言ったらかっこよくない?ね、」
「…じゃあ俺が勝ったらまた飲みに行きましょう」
うわぁ安っぽぉ、とぼやく声を必死に追って歩いたが、「じゃあまた、勝負がつく頃に」と大声で宣言する影が霧にぼやけていく。酔いはすっかり覚めていて、足立さんを引き止める理由はないと分かっていたが引き止めたくて、それをするには身体が重すぎる事に気付いてひとりで笑った。
あぁ、そうか。
なんて俺達は馬鹿なんだろう。
10.06.25(qufa)
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