甘ったれて幾億年




「前に流行ったよね、心理テストなんだか分類分けなんだかはっきりしない、貴方は何何タイプ!とか動物に例えるとこれ!みたいな」
「……ああ、架空のキャラクターとかモンスターとかにも仕分けされるやつか」
「それそれ。結構な量の質問に答えさせられるやつ」
「それが?」
「なんか納得いかないことあるよなって」

よくもまあ中身のない雑談がこうも出てくるものだと、叔母を見ているとしみじみ思う。大人になるとはこういうことなのだよと何故か胸を張って言われたこともあるけれどもそれはそれ。別に周りに合わせずに済むのならそれにこしたことはないだろうと言い返せば慈愛の籠もった笑みで頭を撫でられたことは置いておくとして。
平日の夕食後である。雑談と勉強を兼ねてリビングに居座っていれば、叔母からの何処から飛躍したのか分からない話題に当然付き合わされてしまう。なんとなしに隣に座っているので、たまに勉強内容の補足や語呂合わせが飛んでくるのはまあ役には立っているけれど、邪魔したいのか手伝いたいのか寂しいだけなのか判断がつかないところだ。

「寮分けとかあるじゃない、動物とか。種類も分類も豊富なのに何となく似通った結論でがちじゃないあれ」
「へえ、叔母さんってプライベートも仕事も画面の向こうでも素直なんだな」
「正確な結果が知りたくて素直に答えるやつじゃん……!いやねこの子ってば、制覇のために全部の選択肢試すタイプよ……!」
「一度でいいだろあんなもの」
「違かったわ納得してるわこの子ったらまあ……!」
「そもそも、職業診断とかで何を偽って結果を偽装してどうするつもりだよ」
「夢のない話になっちゃったな」

そりゃそうかと納得する叔母がようやく静かになり、かと思えば参考書を一枚捲る程度の間のみですぐにまた口を開く。

「美鶴美鶴、ゲームの役職のやつあった」
「俺が好きなのは世界観のしっかりした小説とか歴史書なんだけど」
「剣士、騎士、白魔法使い黒魔法使い……いや魔法だけでこんなに種類要るの?なら侍と武士も足すべきじゃない?」
「忍者なら分かるけど。得意分野被ったらパーティ運営が不便になるだろ」
「え、ますます魔法使いひとりで良くない?なんでこんなにあるの」
「医者と狙撃兵くらい違うよ」
「ほーん別分野じゃん。へぇー」

ほうほうと相槌を打ちながら画面を見つめる叔母に嫌な予感はしつつ、今更参考書やら教科書やらタブレットやらを抱えて自室に移動できるはずもなく、黙々と問題集を解いていく。
日常的に勉強がこういうものだから叔母が静かにするはずもない。まあ困らないのだが、普通に「いやなっがいな?記憶より質問多いんだけど?」とぐちぐちと文句を言い始めた上に挫折したか納得がいかなかったらしく静かに画面を伏せて携帯を置いた。構え、質問せよと言わんばかりに。
そうして立ち上がった叔母はキッチンでカタコトと音を立て、戻る手にはマグカップがふたつとコンビニ菓子がふたつ。休憩するなりそのまま手をつけるなりしろという意味か、それらは堂々とノートの真ん中に安置された。

「美鶴は絶対肉体言語使わないでしょ、論破する役職とかないの?」
「ネゴシエーターとか?……そもそも、場合によっては斬りかかられたら終わりだろそれ」
「……んっふ」

今の間は、ろくな想像をしなかったということだろう。
目の前のマグの香りに負け、ペンを置き手を伸ばす。ホットミルクに少しコーヒーを入れたのだろう、カフェオレのような苦くて甘い匂いが紙や本を押しのけ細く漂っている。この家の味に気が抜けていくのが手触りまでありそうなほどに分かった。慣れてしまったものである、この生活に。

「まあ態々近付いて斬ったり殴ったりするのは効率悪いよな。距離をとって一網打尽にするほうが絶対楽しいだろ」
「らしいわぁ。そうなるとやっぱり黒魔術?」
「魔法何処にいったんだよ」
「え、なんか違う?」
「魔術は道具とか素材集めないといけないのが多いだろ。魔法なら大体の表現で呪文覚えるだけだ」
「似合うー。でも魔法陣?あれは描いてほしい。ロマン」
「それは……わか、る」
「なんかめっちゃ嫌そうだね?」

いや浪漫だろう、フリーハンドであれを大きく描いたりするのは。それにデザイン性も高いものなら普通にTシャツに印刷されていたりするし手帳ケースに彫られているのもみるし一般的に浸透しているだろう。つまり一般的な感性である、これは。
どうせ誰に見せるでもないノートだ、見せるとしても破けばいいかと白いページを埋めるほどに大きく真円……のようなものを描く。あとは記号と文字か、あちらで使っていた呪文でも円に沿って描いてみるか。

「めっちゃ淀みなく綺麗に描くやん……相変わらず器用ねぇー」
「数学とかのグラフと何も変わらないだろ」
「そんなことあ……ある、か?え、私も描こ」
「それ御札だろ」
「ロマンじゃん」
「なら仕方ないな」

明らかに勉強から遠ざかり、区切れは良い参考書を閉じて片付ける。どうせあとは寝るばかりの時間だ。ペンを持つ勉強よりは読書が向いているからもう開かないだろう。
「一網打尽どころか余計なところまで壊しそう」なんて言われてしまってはなんとなく癪なので、魔法陣で出来るのは攻撃だけでもないだろうと反論する。

「別に広範囲を攻撃しなくてもいいだろ、確実にやれるようにすればいいなら召喚だってあるし」
「むしろ被害広がらない?それ。ぐわーって」
「場所と用途によるだろ。機械と変わらない。たとえばこのバルバローネは……」

指で円を突き名を呼んだ瞬間、安っぽいノートに描かれた鉛の文字たちが赤く光り始める。は、と驚いているうちにもその円からはどろりとした黒い何かが盛り上がるのが見え、膨らむそれをテーブルから突き放し叔母の前に腰を落として立ち、見据えて様子を見る。
雫を逆さにしたような楕円はそのまま起伏を作り、頭を作り首を作り、腕を作り顔を作る。波打ち作られたその人型のものは瞼を作り、それを開けてこちらを認識する。バルバローネだ。こういう状況でなければ懐かしさで談笑でもできたかもしれないそれは、相も変わらず美しい体とドレスで、人間を当たり前のように見下ろしている。
ただ名前を呼んだだけのようなものだ。目的も生贄もなく呼んだそれがどうでるかわからないままにテーブルを見れば「それ」は明らかにノートの手描きの円から生えていて、燃やすか破くかすれば打開出来るだろうかと頭を巡らす。
破く?後ろの叔母を晒して?燃やす?チャッカマンは目の前のテーブルを挟んだテレビ台の下にある。召喚が出来たのならば魔法でノートを破損するか?あちらで篝火程度だとして、こちらではどの程度の規模になるか検討もつかない。現に召喚はあまりにも簡単に行われている。
ただ金色の、白目も黒目もない丸い目が、そのくせ視線を部屋に巡られるのが分かる。まるで獲物を探すように。警戒ではないが危険なことに変わりなく、いよいよ魔法を使えるか試そうとーーー。

「え。かわいい」

瞳のない目線が叔母に向けられる。ただ、声に反応して向けられただけの敵意のない視線だが、意識されてしまった。人間より細長い印象の腕が上がり、こちらに伸ばされ、

「えー、かわいい!お話いいです?あ、お菓子まだあったかな、美鶴、その方なに飲むの?あ、お菓子大丈夫?椅子と座椅子どっちがいいの?部屋のチェア持ってくる?」

きゃあきゃあとはしゃぎ始めた叔母の勢いに押され、一旦思考が止まった。
いや、化け物が部屋に発生して、その反応がそれでいいのか。というかかわいいってなんだ。かわいいってなんだ?女のかわいいが分からなかったけれどもますます分からなくなってきた。いやそこは現在の問題ではない多分。
バルバローネが、目の前の人間を食べずに興味深げにテーブルを眺め、部屋を眺め、ゲーミングチェアに座りコンビニの新作スイーツを食べている。頭部が割れて口が現れた際など「クリオネみたい!かわ!」と叔母の褒めてるのかなんなのか分からない、可愛いとは、と哲学に近い言葉も漏れ出るしバルバローネもどうしてだか嬉しそうだ。
危機は去ったようだ。納得だけは出来ないが。
他にもできる事があるのではないかと期待と危惧で手元を眺めども、いつもと何ら変わりのない大人には程遠い頼りない掌である。

「ねー美鶴、言葉分かる?通訳できる?ねぇねぇ恋バナとか興味あります?ねぇねぇ」
「叔母さん、五月蠅い」

バルバローネの興味有りげな視線と叔母さんの期待過多な視線に挟まれ、疲れ、諦めて向き合った。







「美鶴!ケーキ!今年はホールで買ったのよ!ほら!」
「多いだろ」
「バルバローネさんと三等分すればいける!プレートチョコは勿論今日の主役ね!」
「俺、そんなに生クリーム多いの無理なんだけど」
「えー……中心をこう、くり抜いて、周りをバルバローネさんと私で割れば……真ん中ってなんとなくフルーツ多いんじゃないかな」
「もうそれでいいよ」
「じゃあ蝋燭中心に集めて刺すかぁ。プレート……脇に添えるかぁ……」

物凄く燃えそうだな、と思えども口を閉ざし、自分の誕生日祝いのセッティングを黙々と手伝う。黙っていられなくなるのはたいていはしゃぎ過ぎた叔母からの呼びかけである。
手料理と惣菜と洋菓子が入り混じった食卓は浮かれた叔母の精神を映し出しているようであり、まだ片手で数えるほどの体験だけれども疲れることを見越して気が重くなる。
祝われること自体に不満はない。友達を呼べだとか親類を呼ぶだとかはないのでそうそう騒がしくなりようもないはずだが、たしかに姦しくなるのだ。不思議なことに。その上今年はバルバローネという幻界からの客が居るためさらに五月蝿くなると思われる。

「だいたいセットしたからいいよー」
「はいはい」

手渡された紙はあの日に召喚に成功してしまったものではなく二代目だ。一枚目が使い過ぎて折り目から破れそうだったために、期待値は低く、それっぽい図を学校で余った画用紙に描いて彼女を喚んでみたなら見事に押しかけられてしまった。あのときにバルバローネが見せたニンマリ顔は確かに意図のある表情で、意図と思われるのはこちらを面白がっているであろうもろもろで、なんとも複雑な気分になったものである。
この『叔母』という生き物は、問題を起こした親戚の子どもという厄介なものを押し付けられ、押し付けた誰かしらから生活費の援助はあれどそのまま関与もなく、仕事の量を減らしてまで俺との時間を増やし、献身としか思えないそれに大して気兼ねなく「かわいい」を連呼し構ってくる。ここでのかわいいは俺に向けられているという恐怖はさておき、遠慮も気遣いも馬鹿らしくなる近さで過ごしていれば「家族」ではなくとも「親戚」よりは親しい心理になり、その気持ちの変化を叔母に伝えるには気恥ずかしさと分類未定の気持ち悪さが入り混じり、それらの複雑な感情はなんでだかバルバローネに喜ばれているようだった。
生贄とまでは言わなくともだいぶ求められる。逆に言えばそれと茶と菓子さえあれば来るし来たくないときには来ないようで、実に気軽な関係を築いている。
いや生贄の代わりが恋愛相談でいいのか。どうしてだ。愚かな男が好物じゃなかったか。
受け取った紙を椅子に置き、彼女の名を喚ぼうとしてふと疑問が湧き上がる。

「叔母さん、馴染みすぎてないか」
「そう?」
「疑問に思うところだろ。バルバローネの存在とか俺が喚べる理由とか俺を追い出すきっかけになるかもよ」
「いやいやー、訊いたら絶対信じられないくらいの文字数で誤魔化すじゃんか。あと普通にいま楽しいし」
「それはそうだけど」

そうなんかい、とすでに煙に巻かれている最中のような掴みどころのない声色で返ってきて、紙コップを設置する手は緩めない。大人数なら片付けの都合で使い捨てを使うのだろうと分かるが、この家ではこういったものは雰囲気作りに使われるのはどうかと思う。言わないけれど。

「まあ?例え美鶴が、黒魔法使いでも呪文覚えたいお年頃でも魔王でも起業家でも小学生でも大学生でも構わないんだよ」

今度は蝋燭を俺の歳の数取り出してケーキに刺し始める。チョコレートの板を退け、ある程度の隙間を空けつつ中央に集中される様子から、先程の発言が実行されることを覚悟した。それは一気に燃え広がるやつだろう、観るともなく流れる動画で絶対何度か観ているやつだ。というか普通に常識だ。
警報器が鳴ったらバルバローネがどうなるか分からない、家を壊されては困る。煙が出なければいいのだから風でも操れれば安全を確保できるだろうか、いやそもそも止めるべきだろうか、この心底楽しんでいる叔母を。

「……幽霊でも、黒幕でも剣士でも?」
「いや遠距離攻撃でしょう美鶴は」
「なんでそこは譲らないんだよ」
「バルバローネさんはヒロインでいこう」

独断と偏見とが入り混じっている配役はまだ続き、聞き流しながら受け取った紙に指を置き彼女を喚び出す。とろりと現れた彼女は慣れたようにきょろりと部屋を見、当然のように上座に腰掛け頬杖をつく。喚ぶ際の代償や生贄といった細かなルールはどこへやら、菓子と話題があれば気軽に訪れるようになったために実に威厳が薄い。いや叔母が恭しく接するのでそれで満足しているところもあるらしいけれども。

「ん?つまり私も魔王であり幽霊でありヒロインである可能性も無限大……?」
「いや幽霊だけはないだろ、お互い」

蝋燭に火を付けるためにチャッカマンを握りしめていた叔母の手に触れ、指同士を縫うように這わせて繋いだ。当然掌から離れるチャッカマンはなんでだかバルバローネが摘み上げてまじまじと眺めている。叔母はといえば「み゜」と奇妙な声を漏らし、ケーキどころではなくなったらしかった。どうやら平穏は保たれた。ケーキはとうに穴だらけだが。

「ほら。触れる。飲み食いもするんだろ」
「ひぃん」
「なんだよその声。なんで慣れないんだよ」

魔王でも幽霊でも魔道士でも構わないくせに、恋人としては十分構うらしい。告白する前はこれくらいのじゃれ合いはあちらからしていたというのに。
そもそもが、最近バルバローネを喚ぶことを執拗に勧めてくるのもふたりきりを避けている気配もあったのだ、指摘しては気の毒だと思うくらいには情がある。まあそのうちにその程度で遠慮するのを諦めればいいだけなのだ。今の距離感も嫌いではない。

「お、おばさん、成人式までは許しませんからね!」
「何キャラだよ」
「えっちなおねえさんになりたかった」
「えっちではない。可愛くはあるけど」

ぎゃあと正真正銘悲鳴を上げた叔母が、寛ぎこちらを観察していたバルバローネの後ろへと退散する。諭すような金の目に肩をすくめて見せればなんだか許された気配がしたのでとりあえず紙コップを献上した。中身はバルバローネが普通に注いでいた炭酸だ。

「確かに断然バルバローネさんのほうがえっち……あっ、そのコップの構え方セクシー!流し目いただきました!」
「なんの会だよ」
「あ、美鶴の誕生日会だったわ」

プレゼントプレゼント、と部屋を出ていく叔母を見守り、なんにもなさ過ぎる日常を噛み締めた。魔王でも未成年でも、ヒーローでなくとも勇者でなくとも、得ているものの価値を知っているのでいいのだ。平穏が唐突に崩れることも知っているし日常に飽いて自ら崩れることも知っているから構わないのだ、手を握るだけで体温を上げるひとがいるだけで。
そういえば、とようやくほったらかしていたバルバローネに思い当たって顔を向ければ、ものすごく炎上するケーキを手に困った顔をしていた。いや、そんな状態でどうしようかみたいにケーキを差し出されても困る。それが松明ではないと認識してくれているのは有り難いけれど。
何が入っているのか悩むような大きさの梱包の包みを抱えた叔母が参戦し、どうしてだか「美鶴とりあえず吹いて!」とそれしか言わなくなったけれども吹いて消える火力でもないし、結局バルバローネに丸呑みにしてもらうというどうしようもない選択肢で平穏は保たれた。



23.07.07





↓誕生日が付き合う前だったらのイフおまけ


覚めるともなく見回す視線で、薄暗い自室なのだという確認が出来た。
魘されて起きることもある。夢見が悪いのは常で、現界か幻界かすら曖昧になることすらある。だから枕元には読みかけの本と、目覚し時計と、現代らしい携帯端末を必ず置いていた。
視線をそれらの定位置へと向ける。見覚えのある機器にほっと息を吐き出し、寝返りを打って固まった。
狭い、シングルサイズのベッドの壁際、薄暗闇に人影があった。回らない頭でも見慣れた同居人であることはひと目で判別できたが、何故、どうして、どうやって、なんのために、と答えの出ない疑問ばかりが脳を埋め尽くす。
回らない頭は結論も出せない。その人影がもぞりと動き、寝顔を薄暗闇に晒し、とめどなくゆるく瞼が上がっていく。
あまりにゆっくりと開いた目は労せず俺を見つけ、閉じられそうなほどに細まり微笑んだ。
思考は回らない。心臓ばかりが大袈裟に動いている。お互いの息が溶けあうんじゃないかと思えるほどの距離で、叔母の手が緩慢に伸ばされ、当たり前のように俺の頬に触れ、それで夢から覚める心地がした。

「……バルバローネ、何をなさっているんです」

温度のない伸ばされた手に触れながら、呆れ半分、安心半分で声を出す。寝起きのためかあまりにも聞き取りづらくなったそれは、しかしあまりに近くにいる彼女には十二分に意味が伝わった。
親密そうな笑顔のまま、呼吸で体が揺れることもなくそのまま近付き、体同士が密着するように乗り上げてくる。その体に温かさはなく、じわりじわりと体温を奪われるかのような柔らかさがあるだけだった。

「あのひとはそうしない」

自分でそう教えても虚しいばかりだ。自嘲したくともその資格もない。あのひとは保護者であろうと躍起になっているから、こんな、肉体だけを添わせるようなことをされても、喜んではいけない。いけないはずなのに目覚めた瞬間は確かに歓喜していた、駄目だ、この感情はいけない。
ベッドから起き上がりアラームを止める頃にはバルバローネはベッドから滑るように降り、いつものタールのようなマネキンのような姿に戻っていた。

「おはようございます、なにか用事でもありましたか」

軽く身支度を整えながら問うも、優雅に腕を組んで顔を背けた彼女は特に意思を伝えず、パシャリと軽い水音のみを残して帰ってしまった。気分を害してしまっただろうとか危惧したが、多少の粗相は許されるだろうという気持ちもあって気持ちを切り替えて身支度をすることにする。
喜ぶと思ったのだろうか。それとも契約の隙を付いてこの世界で自由に振る舞おうとでもしたのか、いやそれはないかと考えるでもなく連想するように考えた。喜ぶと思われていたとして、俺の感情が筒抜けなのではという怯えも生じてくる。
伝えるつもりのない好意。伝えるとしたってこの家を去るときだとか、魔王が忙しくなって分離体なんてもので遊べなくなったときとか、どうしようもなくなった場合ばかりだろう。
もしも、と、名残惜しく荒れたベッドに手のひらで触れる。もしも、あれが叔母だったのなら、俺はどうしていたんだろう。
まぁありえないかと今度こそ自分を笑い、時間を確かめるために端末の画面を見る。表示される時刻を確認し、日付が目にとまり少し可笑しくなる。
誕生日か。バルバローネのあの行為がプレゼントかなにかだとしたら、確実に叔母の影響を受けているということだろう。
憂鬱な気分はだいぶ薄まり、気楽に自室の扉を開いた。



23.07.07


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