茹でエビとウツボの盛り合わせ


「は?なんで?」
「それは自分の台詞ですが……」

両脇から腹を掴みそのままこしょこしょと動かせば、ジェイドはオクターブレベルで狂った声を漏らしアズールは無音で笑ったものだから、いつもびくびく跳ねる小エビをくすぐったのならどうなるのだろうと気になったのだ。気になったからには即実行したのだ。丁度、教科書通りの退屈な授業終わりに中庭を歩いているのが見えたから教室から飛び降りて気配を消して、背後からこうガバっと。

「…………」
「…………んー?」

触った瞬間に相変わらずの反射神経でびくりと跳ねた小エビは、それきりどんなにくすぐっても反応がない。悲鳴を上げないだけ普段よりマシというくらいで、笑い声も笑顔もさっぱりと消え、熱が冷めて手を離した。

「飽きた。じゃーねえ、小エビちゃん」
「はぁ……?」

次の授業は音楽だったため、寝なくてもまぁ耐えられるかなぁというものだったので、ダルいけれども真面目に廊下と階段を通り元の教室に戻る。ついでに見かけたラッコちゃんを通り過ぎざまにくすぐればバカのように笑って応戦してきたので技量に問題があるようでもなく、冷めはしたけれども納得がいかなくて首を捻る。




「親密度が足りなかったのでは?」
「は?ゲームの攻略法訊いてんじゃねーんだけど」
「意外でしたね、お前がそういう知識を持っているとは」
「だってぇ、ソシャゲの攻略……あーそうじゃなくてぇー」

ラウンジの休憩時間、まかないを作ったところで飽きてしまいアズールの所へ行って駄弁るうち、先日の出来事が引っかかっていたのをなんの気無しに説明すればさらりと原因らしいことを説明される。こちら方面にまで詳しいのかとげんなりすれば人心掌握の勉強の賜物かと気付いてさらに呆れた。

「一概には言えませんが、くすぐったいと思うのはある程度親密でなければ無理だそうですよ。おそらく、監督生さんにとってフロイドは……そうですね、赤の他人とは言わずとも親しくは思われていないのでしょう」
「は?」
「キレている暇があるなら他にやることがあるでしょう」
「親密度上げてコーリャク?」
「さっきのまかないのレシピ書き出しだコラ」

気分で作ったものを紙に起こせと言われてもやる気に繋がりようもなく、打ち上げられた深海魚のごとくテーブルにダレていれば「終わったら攻略なりなんなりしてきていいですよ。ただし鏡舎にこれ置いてきてください」とクーポンを差し出される。その程度なら忘れなければしてやるかと妥協し、攻略に必要なものを考えながらペンを滑らせた。

「んー……稚魚ならぬいぐるみとか?それとチョコレート?ツナ缶にぃ、肉肉言ってたから魚肉とかぁ?」
「レシピを!書け!新商品にできそうなんだ!」
「あ、アズール、さっきのまかない包んでいい?小エビちゃんにあげてくるねぇ」
「構いませんよ、傷んだ食材を廃棄する羽目になるよりは……。おい、レシピを書けと言いましたがカラス語で書くやつがあるか」
「アァーホ」

まぁどうせそのうち飽きるだろうと顔面に書いたように見えるアズールはさておき、ふむふむと現状を確認する。
ジェイドとアズールは単に足裏や脇腹が弱いわけでもなく、親密度が高いためにリアクションがいいのだとして。まぁ声を掛けるだけで肩を跳ねさせて息を止める小エビとの仲が親密かといえば悩むところである。食堂や廊下、授業で見かけるたびに背筋に氷を入れたり腕章に飴を挟んでいつ気付くか観察したりと構って遊んだりしているので、こんなにも構っているのに好感度が低いという総評に納得がいかない。あんなに遊んでやっているのに『仲良し』じゃないなんてなんて理不尽で酷い小エビだろうか。

「はぁー?ムカついてきた」
「飽きるの通り越してるじゃないか」

苛立ちのままに詰めたまかないを置き去りに、クーポンの束だけ掴み店を出る。方方から色々言われたけれども楽しい話ではないので聞かなかったことにして、鏡舎までぶらぶらと散歩する。
店じまいをする時間帯だ、だいたいの寮の就寝時間が目と鼻の先である。鏡舎も人混みがなければついでに足を伸ばした購買までの道も雑魚を散らしたように人気がない。少し気分が良くなって鼻歌を歌いながらスキップしていれば、生意気にも逃げようと動く人影を見つけたので走り寄って首根っこを捕まえた。ビクリと跳ねる振動が手のひらから伝わってきて愉快になる。

「ばあ。……って小エビちゃんじゃん。こんな時間にどしたの?こんな時間まで起きてたらぁ、身長伸びなくなっちゃうよ?」
「どうせ小さいですよ……こんばんはフロイド先輩。ご飯の買い足しです」

ぷらぷらと足を浮かせる小エビはもう落ち着いたようで、バイトしてたら遅くなっちゃって、と普通に返してくる。普通にできるくせにいちいちビビるのはよく分からないが、会話は成り立つのでまぁよしとする。
親密度、の三文字を頭の中で繰り返し、そっと小エビを地面に下ろしてやると何事もなかったかのように歩き始めた。逃げも隠れもしないのでは養殖のようだ。

「うちより遅せーとか何やらされてたの?ホーリツ教えに行ったげよっか?」
「ちゃんと報酬もらってるから大丈夫です、クル先の材料整頓してたらお互い熱中してしまいまして、つい棚一つ分を隙間なく埋めてたらこんな時間に」
「ふーんバカじゃん」
「明日、薬品棚見てみてくださいよ、話はそれからだ」

記念撮影するべきだったな、とズレた独り言を零す姿は至極冷静だ。

「さっきね、まかない詰めたんだけど持ってくるのやめちゃった」
「あああぁ………」

その割には反応が予測できず、崩れ落ちるように項垂れてなおかつ足を進める様は見ていて面白い。指さして笑ってから「だから今から奢ったげる」と宣言すれば喜ぶでもなく疑う目線。

「え……?先輩疚しいことでもおあり……?」
「笑わしてくれたお礼。いらないならやめるけど」
「要ります要ります要ります」

わぁわぁ騒ぐ小エビを売店に連れていけば買うのはパンにペンにジャムにミルクで、朝食じゃんと言えば朝食だもんと返ってきた。どうにも夕食は食べた後だったらしい。恩を売りつけるのには微妙な金額にしょっぱい顔を見せつけつつ、焼き菓子とドライフルーツもカゴに突っ込んでやった。好感度が上がった確かな感触のする声を上げられたので満足である。
楽しくなってきたのでもともと買う予定だった飴も手掴みでカゴに突っ込み、カップコーヒーもふたつ頼む。チュロスも頼めば手が塞がるので先に財布を小エビに渡した。熱い紙カップは極力触れたくないものである。

「払ってて」
「盗るとか考えないんですか?」
「んふ。その度胸があるならさ、せっかくだし十倍にして返してあげるねぇ」
「見てるトモダチもいるから安心さ!」
「こわぁい」

店じまいだからとおまけされたフィッシュフライは小エビの鞄の中に収まり、ついでだからと寮まで送ることにする。コーヒーとチュロスとパンを大事そうに抱えた小エビは信頼度が上がったのか変わらないのか、いつもどおりきっちり礼を言って明日のお昼は作りますからと宣言したきりそそくさと寮へと入っていった。フライとコーヒーが冷めないうちにアザラシちゃんと食べるのだろう。
目標を達成したことを確信してステップを踏みながら自寮へと帰れば、ポケットに入れっぱなしだったクーポンを設置し忘れたことをくどくどと叱られたけれども飴が美味しかったのでよしとする。









「ヒッ」
「……んー、まだダメかぁ」
「こわい……なに……」

相変わらず飛び上がり固まる小エビに落胆し、両脇から手を離してもとに戻す。前回は強過ぎたのではとジェイドが言うから力加減はしたのだが、まぁ失敗である。
怖いだのなんだのと言いつつも慣れはしたようで、足が地面に付けば小エビは死んだふりをやめたように元気になった。代わりに近くのカニちゃんサバちゃんを捕まえて擽ろうとすればするすると逃げられたので諦めてその場に座り込んだ。心地は悪いけれども、小さい弱い生き物には敵意がないことを示すのが肝心である。
手の届かないところまで引いていたわちゃわちゃしてる奴らはそろそろと近付き直し、小エビなんぞは目線を合わせるためか目の前にしゃがんでから「なにか用でしょうか」と話しかけてくる。それでも一撃で仕留めるには怪しい距離であるあたりにこちらの好感度が上がった。よしよしすぐ食べられないようにするのは大事だ。

「軽いし小さいから持ち上げちゃった」
「道端の石のよう」
「蹴ったらすごい飛びそうだねぇ、やろっか?」
「音楽の小テストあるので結構です」
「ち、遅刻したら夕食抜きなんだゾ……!おい子分、こんなやつに構ってられるか!俺様は先に行くからな!」
「うーんフラグだなぁ」
「キレイなフラグだな」
「えっグリム死ぬのか?」

うるせー覚えてやがれと捨て台詞まで吐くアザラシちゃんも、テンポよく会話する小魚の群れも面白かったのでとりあえず今日はこんなところで許してやろう。
立ち上がっただけでビクビク肩を揺すらせる小エビにお詫びのベーグルを投げてやりながら立ち去る。

「こないだのお昼のお礼だから対価いらないよぉ」
「フロイド先輩……すき……」
「監督生おいこらー!アイス奢るから血迷うなー!」
「エース……!」

好感度の度合いが計れるような計れないような好意の告白に目の前で行われる寸劇に、まぁちまちまと忙しそうなそれらを一度ぎゅうとまとめて絞めてから踵を返す。

「小エビちゃーん、今度ゆーっくり遊ぼうねぇー」
「デュース、今度会うときは内臓減ってるかも知んないから今のうちにいっぱいあそぼ」
「お礼参りなら任せろよ……!」
「え、なにこの空間」

小エビが嘘を言わないのは周知の事実で、本気の決意に笑いながら足を動かす。
次は何をして構おうか、どうせいつも群れているのなら遊びにも幅が出るというもの。ついでに好感度をすくすく上げればこちょこちょもこちょこちょらしくできるだろう。今日は駄目だったけれどもまぁそのうち大口開けるところを見てやろう、見てやらなければ気が済まない。








いつもと同じように小エビの影を見つけ、いつものように持ち上げて擽ってやろうとしたのだけれども。
昼食が済んでわちゃわちゃと生徒が散る時間も過ぎて、暇そうな背中が食堂で見えたのが悪い。多分タイミングだとか手加減とかそういうのに響いたのは小エビのせいだろう。
いつものように差し込んだ手は二の腕とは違うところに引っかかり、動き出した勢いは止まらず、ふにゃりと不穏な感触を指先に感じ取った。

「………………おっぱい」
「……はい、それはおっぱいです」

頭の悪い会話ですね、と冷静に返答する小エビに困り、手の感触に困り、とりあえずそっと下ろしてしゃがんで目を合わせてみた。虚無がそこにあった。

「…………」
「…………」
「……ごめんね?指詰めて見せよっか。小指でいーい?」
「いえそこまでは」

本当ごめん、と混乱する頭で繰り返しつつ、距離をとろうとすれば小エビから詰められる。じりじりしゃがんだまま移動すれども距離は空けられず、うーうー唸って謝罪の品を考えるけれども釣り合うものがなにもピンとこなかった。こういう算段はアズールに任せっぱなしなのでちょうどいいものが分からない。指なら二本くらいだと思ったのに。
無駄にでかくて丈夫なテーブルに背中が当たり下がりようもなくなり、仕方なくその下にずるずると逃げ込めば小エビは手前でようやく止まった。けれど退く気はないらしく、膝をくっつけて下ろして落ち着いてしまった。

「そもそも、なんで脇を狙うんですか、ちょっと触っただけでそんなになるのに」
「小エビちゃんが変な跳ね方しなきゃ失敗しねえし」
「はぁ……」

ピンとこないらしい話題を振ったときのアズールみたいな顔をした小エビがそれなりに考える顔をし、それじゃあと膝に置かれていた手をすっと近づけてくる。指どころか目玉でも潰されるのかもしれない、なんかもう覚悟しながらじっと行方を見守った。
目玉へと真っ直ぐ伸びた指先はどういうわけか素通りし、まさかの首へと到達し、絞められるかと思えばこしょこしょと弱々しく指がうごめく。神経を尖らせていたところにそんなのが来たもので、予想外過ぎて「んふへぁ」と変な声が出た。

「……こちょこちょー」
「ダァハハ、ファ、なに!」
「おかえししたらおあいこかなって」
「でも小エビっ、くすぐったくなさそっ、だっアッハー!ヒーっ!」
「自分だってこんなにくすぐったがられるなんて思わなくて……」

神妙な語り口のくせに手元には容赦がない。アズールをボコしているときも平静だったなぁと思ってしまえばくすぐったいし可笑しいしで余計に息が浅くなって、どうやらおあいこらしいので縮こまっていた体を伸ばして小エビにタックルした。「わぁ」と緊張感のない悲鳴が溢れるのを聞きながらバランスを崩したちっさい引っ張り体を支え、転ばないようにしてやる。「リアルウツボだ」となんでか嬉しそうなのはさておき。

「っはー、容赦なさすぎない、小エビのくせに。モンハナシャコかよ」
「よく言われます……しゃこ?」
「んじゃーまたね、小エビちゃん」
「いや今から飛行術一緒じゃないですか」
「えー、鍋混ぜ繰り回したい気分ー」
「自分の胸みたいに?」
「……ゴメンネ」
「え、しおらしい」

巣から出るタイミングを間違えたときのように、狩りで読みを誤ったように、何かが警笛を鳴らすのが耳元で聞こえるようだった。こりゃだめだと逃げの一手で行くはずが、好感度なんてものを気にして小エビを無視するようにはやりにくくて逃げるんだかなんだかはっきりしない速度で足を動かす。どうしてこの食堂は無駄に広いんだまだ声が聞こえるししっかり届く。

「先輩」
「じゃあね小エビちゃん飛行術はアズールと組めば絶対怪我しねーよ!」
「あ、はい」

食堂さえ出て小エビから距離を取れば助かるのだ。何から助かるのか分からないけれどもこのままではまずいと足を早めながら無意識に首元に手をやって、先程のやり取りやら好感度うんぬんのやり取りやら細っこい指が遠慮なく触れるのやらを走馬灯のごとく思い出す。ひぇ、と声を漏らしてしまって足をついゆるめたところに、うっかり支度を整えていた小エビが目に入った。
さっきのいたずらっぽいのではない、単純な笑顔がしっかと目に入る。

「先輩、またね」

ああもう間に合わなかった。こんな面倒そうな感情植え付けられたくなかった。
曖昧な言葉に、むりくり「またねぇ」とどうにか返事してから俯いたまま足を動かした。茹だった顔なんぞ見られようものなら……なら、なんだろう。
んんー、と唸りながら歩いていれば足取り重いアズールとすれ違い、目を丸くして「スチルみたいな顔してますよ」と言われた。うるせえまだ攻略されてねえし。されたくねぇならするだけだし。俺はまだ戦えるたぶん。
















人魚のウィークポイントと人間のくすぐったいポイントは似通っており、エラ部やら首やら尾ヒレやらと狙えるところは多々あるらしい。
それらが性感帯にもなりうると余計な知識までついてしまったけれどもまぁ収穫はあったので満足だ。しっかり調べ上げてから、さてリベンジするかと小エビを探す。寮にいないのならバイトか巻き込まれか、いやお茶会や宴のパターンもあるらしい。つい先日にマジカメの投稿がまとまりなさすぎて笑って見たものである。けれども、それのせいで放課後に捕まらないとは。
ともかくはあてもなく気ままに探し、ふらりと刺激的な匂いにつられて足を向けたのは錬金術の教室だ。ここで遊んでいくのもアリかと足を踏み入れて、眼下に広がる光景に「あー!」と声を上げた。なんとまぁ、小エビがイシダイ先生に頭を触られている。

「騒がしいぞ、ドアを閉めて防音魔法を使ってから思う存分叫べ」
「悲鳴には適用されなさそうですね」
「一定以上の声量に反応するよう指定すればいける」
「まほうのちからってすげー」
「小エビのくせにぃ」

嫌に冷静な小エビを先生から引き剥がしつつ、ビクッと跳ねられつつ、その頭をわしゃわしゃ撫でた。俺の頭をイシダイ先生が撫でる。小エビは行き場のない手を前に彷徨わせて「お……お……」となんだか鳴いている。

「ねぇねぇ小エビちゃん、俺が触っとビビるよねぇ、イシダイせんせぇーだと平気なんだ?ふーん?」
「あー……ヘッドマッサージしながら脅されたのはじめてぇ……」
「おいリーチ、トリートメントは何を使っている、発色は」
「んー?知らね」
「バッボーイ」

ぺちんと尻を叩かれ、ぎゃあと声を上げた拍子に指に力が入って手元からも悲鳴が上がる。

「それで、何の用だリーチ。実験なら前日から申請しなければ何も出さないが」
「小エビ攻略しにしたの」
「いつの間にルート分岐したんですかね」

そんなつれないことを言いながら本気で考え込んでいる様子の小エビに先日のような親しみはなく、なんでか深く傷付いて手を止め項垂れてついでに作業机に突っ伏す。上に乗っていたもろもろは勝手に飛び上がり俺の手の届かないところに浮かび上がったのにも気分は下がった。

「飽きた。帰るー」
「子犬は残業だ。手当は出す」
「よっしゃ」
「じゃー残る」
「ええぇ……」
「は?嫌なの?」

そのへんの床に座り込み居残る意思を伝えればどうにか許容される感じになり、ちまちまかつ正確に動く人影をぼんやり目で追う。授業で使う薬草やら石やらを測って分けて入れ替える作業を繰り返す姿はつまらないけれども飽きない不思議な感覚である。水槽を眺める客とはこんな心境だろうか、知らんけど。

「ね、小エビちゃん、広告みたいなんちゃーんと報酬払うから小エビちゃんの攻略法教えてちょーだい?」
「ソシャゲシステムかぁ」
「レディに攻略法を訊くやつがあるか駄犬、リサーチはさり気なく、負担にならないよう、外堀からしっかりやれ」
「めんどくっせ」
「ソシャゲ以上になれそうもないな……いやいやそもそもなんでこんな話になったんです?」
「擽って笑ってほしーの」
「成程な」
「なるほど……?」

妙に愉快そうなイシダイ先生はともかく、何にも納得していない小エビはそれからしばらく黙って手を動かしていた。棚の材料で作れるものを頭の中で考えてみていれば、作業が終わったのかふたりが申し合わせたように机の上の掃除を始める。そういえばあんなに乱雑に並んでいたあれやそれやが消えているので、どうにも見ている間に整頓されていたらしい。
ならまあ帰るかとぽちぽち触っていたスマホを適当に服の隙間に突っ込み、イシダイ先生が「ついでに送っていけ」と飴をくれたのでまあそうすることにする。先生お手製の飴は薄荷が良く利いていて美味いのでプラマイで言えば得である。
ほたほた歩く小エビの歩幅に合わせてのんまりまったり歩く間、会話すらものんびりと「明日の飛行ウッゼ」「エースと競争したらどうですか?」「地面スレスレヒラメレースしよ」「撮影せねば」なんて雑な話をしている。

「そういえば」
「なーに」
「さっきの話ですけど。擽って笑わせたいって」
「んんんー」

飽きかけている話題に相槌を打つのも嫌で、適当に唸りながらふたつめの飴を噛み砕けば小エビは構わず見上げて口を開く。ちょっと笑って見えるのは珍しかったので見返せば、含み笑いは商売を思いついたアズールのよう。

「首が弱いですよ、それと脇腹と、耳と……腰の下のほう」
「……はっ?」

思考が止まる間に小エビはすたすた歩き、歩くというよりは走って距離を取ってから振り向いた。

「あは、グリムの話ですよ!」
「……小エビー、顔真っ赤じゃん」
「お揃いですが」

んもう、ともう一度唸れば初めて聞くような軽快な笑い声を小エビが上げて、これは好感度が上がったろうなぁと悟ってしまえばあとはすることはひとつである。
ウツボをからかう勇気ある小エビを捕まえて擽るべく、一歩大きく足を踏み出せば小エビの悲鳴が上がった。これは完全にからかうほうが悪い俺は全く悪くない。



22.01.15


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