りんごの欠片






「君、よく飽きないねー」

「そうですか?」


二十回目だか三十回目だかに陽介と殴り合った帰り、缶ジュースで顔を冷やしていると足立さんから声を掛けられた。嬉しかったのでシトロンを買ってプレゼントすると、「カフェオレの方が美味しいと思うけどな」とか言いつつ口を付けたのでほっこりする。猫に餌付けしていて懐かれた以上に嬉しい。
回数を重ねれば全部避けられる訳でもなく、毎回一発は食らって帰るので清々しい気分だ。全力である。


「君は何人殴れば気が済むんだろうね、僕もボコスカ殴られるし」

「だって抱きついたら怒るじゃないですか」

「求愛行動で殴るの、へえ」

「だって嫌じゃないですか、好きでもない人間に触るなんて」

「だってだってって良い年して気持ち悪い」

「永遠の十七ですからー」


顎を冷やしていた缶を退けて様子を見るが腫れてはいないようだ。これなら帰っても菜々子に心配されないだろう、安心して多少温くなったお茶を一気に口に流し込んだ。


「足立さんは今サボりですか?」

「聴き込みだよ。足で給料稼いでる最中なんだから人聞きの悪いこと言わないでよ」

「俺に尋問、うふふふ」

「うわあ、サボりって言えば良かった」


足立さんを避けながら寄ってきた猫をしゃがんで撫でると、これは初めてだねと足立さんもしゃがんで猫を観察する。確かに、この時期にこうやって二人で話すのは初めてかもしれない。ジュネスでならしょっちゅう会うがあれはなんというか、主婦同士会ったような感覚というか。


「君を殺したら終わるかなあ、と思って殺してみてもこうだしね。いい加減飽きたよ」

「ほら、だから飽きないんですよ。みんなただ繰り返してるんじゃない」

「君のわがままだろ」

「そうですねえへへへ。そういえば誕生日おめでとうございます」

「ああ……そういえば堂島さんにプリン貰ったな」


少し嬉しそうに思い出す足立さんが可愛かったので「俺もシトロンあげましたよ」とアピールするが大して好きでもないと一蹴される。そうか、プリン好きなのかな。今度機会があれば作ってみよう。それで今度こそみんなが悲しくない結末になればいい。できれば足立さんが幸せになれる結末になるように。可能性がある限り、何度でも楽しんで繰り返そう。まずはプリンを上手く作れるようになろう。


「おめでとうございます」

「どうせまた二十七に戻るし、まずめでたくもなんともないけど」

「めでたいですよ、一緒に居れるんですから」


猫が足立さんの足にも擦り寄って、足立さんが嫌そうに立ち上がったのが可笑しくて笑った。このくらい世界が小さければ足立さんだってきっと幸せに過ごせるのになあ。



12.02.01


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