この事件は後に"池田屋事件"、そう語り継がれる。 「もしなんかあった時のためにお前は池田屋にいてくれ。」 主人のその言葉に最初は戸惑ったものの渋々従うことにした。主人は強い、大丈夫だ。 *** 「………本命はこちらか。」 本命は、池田屋。 「私が伝令として動きましょうか。」 「慧は戦力としてこちらにいるべきだと思うけど。」 「慧なら暗い所も動けるしね。」 平助と沖田さんが私を見ながら言う。局長は少し唸った後、山崎くんに屯所に伝令を伝えるよう頼む。彼は素早く池田屋を立ち去った。 「……どうしますか、」 「会津は何やってんだよ。」 「未だ姿は見えません。」 「………やむ終えん。突撃する。」 「では、私は裏から周りましょう。」 皆が進む方向と別に一人走る。池田屋の裏にも見張りがいるらしく、いかにも悪いことをしていますといいたげだ。 「…………。」 中から灯が消え、裏の奴らの警戒が激しくなる。 懐からクナイを取り出し立っている一人の首を目がけ、投げる。 「ぐあっ!」 「なにっ!?くそっ…どこにいる…」 これは向こうに対する挑発。生憎だが夜目はきく。向こうからは見えなくともこちらからは見える。 池田屋の塀を飛び越え一人の喉笛を後ろからかっきる。私に飛び掛かってくる浪士には、懐から短刀を抜き、いなす。自分に力はない。勝つ術は、急所を狙う速さだ。峰を表にし、相手を叩くと相手は倒れる。殺せばいいってもんじゃない。会津に引き渡すという建前も必要だ。 「…平助、」 ふわりと香る平助の血。だが、その傍にある不自然な気配。 「…………。」 目の前の死体を退けると次は逃げてくる浪士を相手にする。どうしても気絶してくれないなら殺すしかない。 顔に血が飛ぶ。足元に崩れる男の血だ。 「………ふん、」 浪士を倒した後も、中の様子を伺う。 だが、やはり強い相手もいるわけで。 「っ…」 キン、と耳障りな音と共に刀が重なる。不意打ちに3人ほどの浪士。ここにはどれだけいるんだ…。 カキン、と音とともに刀が弾かれる。 私に振り下ろされる刀。 「………っ、」 目を閉じると、私でないものの血飛沫が上がる。 「安藤さん…。」 私はクナイを手にとり攻撃をしかける。 「ぐあっ」 違った声も上がる。 結局3人を薙ぎ払う頃には私は血まみれだった。 そのときふと主人の気配に気付く。 「慧!」 「…随分速いですね。」 「まぁな。」 「…………、雪村さんも来ているのですか。」 「あぁ。どこにいるかはわからねぇが…。」 私は一人頭を巡らす。平助の大量の血の臭いとあった同じ気配。沖田さんの血の臭い。そこに向かう雪村さんの気配。 「………主、すみません。ここは任せます!」 私は羽織りをなびかせ、その場を去る。中にはいるとむあっとした血の臭いが私の鼻を刺激した。鼻のいい私には最悪な戦場だった。 二階に駆け上がると沖田さんを庇う雪村さんの姿。 だが浪士が何かを言ったことで血を吐いていた沖田さんが立ち上がり、雪村さんを庇う。 「あんたの相手は僕だよね?この子には手を出さないでくれるかな。」 「そこまでだ。」 私は一触即発の二人の間にクナイを投げる。 三人の視線が私に向く。 「慧さん…。」 雪村さんははらはらしたように言う。 「貴様…」 少しの苛立ちを孕んだ浪士の声。慣れているはずなのに、何故か背中に汗が伝った。 「………な、」 月明かりで見えた浪士の顔に私は毛が立つような感覚を覚えた。 20101029 途中で安藤さんたちの話を思い出して真ん中辺りにぽん、と追加しました。 裏にあんなに回ってくるかっての!← しかも無茶ブリ多数…。いやぁぁあああああ!!! 主人公は狐なんでね。あくまで狐なんですよ、はい。 |