柔らかく華と逝け | ナノ





「…………。」

人間の擬態というものは普通、一日中している馬鹿、ましてや一年間もしている大馬鹿は私以外いなくて。普通はちょろっと人間になりまた狐に戻るものなのだ。つまり、私だって疲れてくるわけで。

だから、私も狐になりたくなるわけで。



***




暖かな日差しの中、私は主人の膝の上でとぐろを巻く。少しはみ出るがそこはご愛敬。

「なぁんか、その狐を見ると夏だなあって気がしてくるよな。」

「ん?あぁ、そうだな。」

上で永倉さんと主人が話す。そう、私は夏に擬態をとくことが多い。もともと蝦夷は雪がとても積もる所で夏も涼し気な気候だ。私たちはそれに甘んじて生きてきた。だが、雪の寒さの中を育った私にはいつまでたっても夏という季節な慣れなかった。ましてや、こんなに人間がいる屋敷。暑くないわけがない。


「にしても、なぁんでわざわざ左之になつくかね。」

「お前の日頃の行いが悪いからだろ。」

彼がふっと笑う。最初は狐っ!?と随分驚いた様子をしていた面々だが今はなんともないらしい。


「………キャン!」


私は小さく鳴くと膝から下りて主人の足に擦り寄る。彼は頭を撫でてくれる。私はこうすれば彼がこうしてくれることを知っている。わかっててするのだ。

「あれ、またこの狐?」

その時、廊下を通りかかった平助が私の存在に気づき縁側までやって来る。

「うわ〜、なんか暑そうだなあ。」

彼は私を撫でながら言う。確かに毛はわさわさしているがこれは仕方ない。なくなっても悲しくなるだけだ。

「…………。」

「なんか、またでかくなってねぇか。」

脇に手を入れられ、でろーんと持ち上げられる。

「そうか?」

永倉さんも頭の中の去年の私とを比べる。
私を知っている主人は小さく笑っていた。

「…………。」

なんだかこの三人の私の大きさに対する話にむっときた。狐としてはでかくなったが別に擬態はそのまんまだ。

「ん?」


些細な抵抗だが座っている主人の頭、永倉さんの腰、平助の腰の順に尻尾でひっぱたいていく。

だが、痛くも痒くもなかったらしく平助にはぎゅーっと抱きしめられた。



***



「おや、三人共ここにいたのか。」

「何かあったのか?」

それから三人で戯れていると井上さんがやって来る。辺りはもうすぐで夕暮れになりそうだ。

「少しね。おや、この狐………一体どこから来るんだろうねぇ。」

彼は私の頭を撫でた後広間に来てくれ、と伝えて去って行った。

今現在、永倉さんの横にいる私は歩き出す三人を見てから塀を伝い、屋根に登る。

平助にまたな〜、と言われた。毎日会っているんだがな。私は屋根で擬態をとると、彼らと同じ広間に向かう。



なんでも沖田さんが長州の間者を捕まえたらしい。今から吐かせるからまた後で報告するとのこと。


「…拷問、ですね。」

「みんなあえて口に出さねぇんだよ。」

人間の姿で主人に頭を掻き回される。

「あ慧は狐見たか?去年も見てねぇんだろ?」

「…私は見ていない。」

「お前、運悪いなぁ。あんな可愛いのによ。なぁんで夏しかいねぇかなあ。」

永倉さんが言う。自分で自分を見れるわけがないだろうに。

「……可愛い、ですか。」

「そりゃな。なぁ、左之。」

小さく笑っていた主人に永倉さんが話を振る。彼はん?と言った後に私を見ながら言った。

「そりゃあ、まぁ。可愛いな。」

「………………。」

私はなんとも言えなくなった。もともとこういうのには慣れていない。よく聞くのは綺麗という言葉だった。
初めて擬態した時に着せられたきらびやかな着物。綺麗、というのは。私、ではなく着物。


「…………。」

「慧?」

「問題ありません。」

「なんだそれ。」

問題ありません、は使い道が違ったのか…。

ふう、と息を吐く。

「…お腹、すきましたね。」

「いや、まだ早いだろ。」

「つまみ食いでもしてきましょうかね…。」

「慧が言うと洒落にならないからやめろって。」

「…………冗談に決まってるじゃないですか。」




こんな会話から数刻後。

新選組の運命が回り出す。






20101029

短いわ、最後の文章めちゃくちゃだわ…。
ふんだり蹴ったり…。