柔らかく華と逝け | ナノ




貴方の幸せを私たちは願います。彼らは言った。




***




「まさか、お前たちが私に会いに来るなんてな。」


私に三人の客が来たのは西本願寺に移動して一ヶ月のことだった。


「突然申し訳ありません。」


代表して志乃という細身の男が答える。髪の毛が長いのが特徴。


「やっぱり会いに来たほうがいいよねって、」


三人の中で唯一女の子な椿。私より小柄な可愛い女の子だが沖田さんよりタチの悪い戦闘狂である。


「………悪いな、」


眉を下げながら謝るのは最年長の真。筋肉質な体で少し見える胸元には痛々しい傷がある。


「……いや。私なんかに会いに来てどうした。復讐するなら夜を奨める。」


「やだっ!なんて物騒な子!」


騒ぐ椿を窘める真。志乃は私に言った。


「そんなことをするつもりは毛頭ありませんよ…慧様。」


そう、彼ら三人はあの惨劇の生き残りだ。真の胸元の大きな傷。あれは、私の罪だ。


「……、」


私の視線に気付いた真が開けた着物を正す。


「……先に言っておきますが、我々に貴方を殺す気はありませんよ。」


「……そうらしい。」


私は手元の茶を見るが飲む気にはなれなかった。


「だいたい私たちが貴方に勝てるわけないのに。」


「……椿、」


「はいはい。」


真は、あの惨劇の現場に居た唯一の生き残りらしい。どうやって生き延びたかは知らない。そして椿と志乃の二人は鬼に仕えており、あの場に居なかった者。


「…生き残りは、どれほどいる。」


「…十数名ですよ。その中で現在鬼を主に持たないのは我々三名です。」


志乃は冷静な顔を崩さないし、椿は物静かな真に甘える。


「……そう。」


私はようやく茶に手をつけた。


「…慧様、貴方の中に一族再興の考えはおありで?」


真の言葉に二人も私を見る。ああ、これが本題か。


「……率直に言えば、ある。」


「ほら、私が言ったとおり!!」


椿は志乃の肩に手を置く。


「……一族の再興。前の一族のようにはしたくない。私は、全てをやり直すために行動した。」


三人は笑顔で顔を見合わせる。


「…と、いうのは建前なのかもしれない。」


「……はい?」


志乃が目を瞬く。二人もだ。


「本心は、あの一族から解放されたかっただけ。手駒になるのだけは、ごめんだった。」


「………。」


「…では、一族再興は、」


「する。だが再興は容易いものではない。しかしそのような道にしてしまったのは私。落し前は、つける。私にけじめがつけばきちんとあの場に戻る。」


小さく微笑む私に彼ら三人は片膝をつき頭を垂れる。


「その言葉、お待ちしていました。」


三人の中ではしゃいでいた椿が敬語で言った。


「貴方の作る未来に我々を貢献させていただきたい。」


真は相変わらず真面目な顔だ。


「この志乃めも有効にお使いください。」



私は彼ら三人を見て土下座をする。

「…ちょ、慧様!?」


「私で、申し訳ない。でも、近い将来。力を貸してほしい…。」


そんなとき頭にふわりとした感触。

「慧様。」


呼ばれ顔を上げると微笑む真がいた。


「血の繋がりは我々を繋ぐ唯一です。頼ってください。」


血の繋がり


狐である我々の主は鬼だ。だがその上にあるのは一族の頭首だ。


「申し訳ない、私で…。」


「謝らないでよ。貴方に尽くしたくなるのは私たちの本能なんだから。」


椿はにっ、と笑った。


「ありがとう。」


三人は笑った。



「だが、」


「ん?」

「え、まだあるの!?」


「……今の私は、主が一番だ。あの方に大切な方ができるまで、待ってほしい…。」


「大切な方に心当たりがおありで?」


私は頷き肯定を示す。


「きっと、あと……数年。まだ当人たちになんらの感情もないが…必ず。」


三人は顔を見合わせた。


「慧様。畏まられても志乃めは困ります。私は分家の者です…。」


「今の私に分家も宗家もないさ。」


眉を下げる慧に分家の志乃は笑った。そこで私は開こうとした口を閉じた。


「……どうした。」


「……志乃。」


「?」

志乃を見て私は言う。



ああ、さようなら……


主、



「私の逃げ道を塞げ。」


志乃は泣きそう顔をした後またいつもの顔で笑った。


「…………慧様。我々は今回の話を他にいる蝦夷の狐に伝えて参ります。」


「……ああ。」


私は目を閉じ、静かに微笑んだ。


「……慧様、一族の再興、つまりはどういうことかわかる?」


「子孫。」


椿は笑った。


「わかってたみたいで安心。……、」


そのとき彼女の口が歪んだ。何かをためらう歪み方だ。


「大丈夫。愛してる人はいない。だから、志乃―――」


「わかってますよ。それに、私は貴方を妻とできるならこれ以上のことはありませんから。」


志乃は笑った。志乃が私のために命を捧げる。惨劇が終わってからもこうして誰かと自分の人生が変わっていく。



「さて、では慧様のご主人を見て帰りますかっ!」


三人は同じタイミングでぐびぐびとお茶を煽る、


「くぁー…渋い、」


椿が顔を歪める。


「さ、行きましょっ!」


どんな人かな〜、と言いながら部屋を出る彼女は今日一番でウキウキしている。


「……慧様、今ならまだ取り消せますよ?」


耳元で志乃に呟かれる。


「平気だ。私の罪償いと、未来のために。それに、昔からいつも頭で考えて考いたことだ。私の…きっと夢だったんだ。」


志乃には慧の背中が眩しく見えた。




***






「こ、この方が……!」


椿は感激したように胸の前で手を合わせる。


「随分と綺麗な顔立ちね!」


「は?」


訳がわからないと言いたげに私を見る主。お酒を飲んでいたところなのに申し訳ない。


「こちらから椿。真。志乃です。」


それぞれに頭を下げ、ぽんと狐に戻る。


「……ご覧の通りです。」


「成る程、」


主はぽつりと呟いた。


三人はもとに戻る。


「……よし、帰ろっ!」

「そうだな。」「まあ、長居する必要もありませんし。」


彼ら三人は意外とさっぱりした性格だ。


くる、と振り向いた志乃が主に言う。


「慧様を、お願いします。」


「任せろ。」


にっ、と笑った主にたいしてにこ、と微笑むと志乃は部屋を出る。


「主、見送って来ます。」


「おう。」




部屋を出て私は三人を追う。三人は玄関口で私を待っていた。


「慧様。」


「…なんだ、」


「鬼にはお気をつけて。」


「…鬼、」


「ここのは害はないようだが……用心にこしたことはない。」


「……新選組に、鬼?」


三人は驚いた顔をした後納得する。


「貴方は鬼にあったことがなかったか…。一つ感じるこの気配は鬼だ。」


「食われないようにね。」


去って行こうとする三人に待て、と声をかける。


「……ここに一人女がいる。彼女の名前は――」



雪村、千鶴――



ざっ、と風が吹き砂が舞い上がる。


「雪村は滅んだのでは…?」

「でもここには鬼が…」

「女鬼とはよくありませんね。」





この言葉が私の頭の中で動き回る。


「……とにかく、雪村についてはこちらで調べてみます。あ、言い忘れ。」



風間の頭首が数年前に変わったのはご存知です?




「……か、ざま。」


「名前は知っていますよね?西国の鬼です。今色々動いているらしいですし……鬼がいるならお気をつけて。」


志乃はそれを言い、木の葉と共に舞い上がると消える。


「じゃ、私もっ!」


椿も私に手を振ると風にさらわれるように消える。


「……慧様、一族の者は一番に貴方の幸せを願っています。」


「それはどういう……!」


私の言葉を遮り彼もまた微笑んで姿を消した。


「…………。」





私の中で、全てが繋がった。




110115


オリキャラ好き管理人です。



もうめちゃくちゃ