平助と沖田さんはまだ本調子ではないため、屯所で待機となった。勿論ながら山南さん、彼も待機だ。 そして問題は雪村さんだった。 *** 「そういえば、千鶴ちゃん。もし新選組が出陣することになったら、一緒に参加したいとか言ってたよな?」 永倉さんの言葉に雪村さんが戸惑ったように否定の言葉を探す。だが近藤さんはこんな機会は二度とないかもしれないから、と楽しそうに言った。雪村さんはそんな彼の肯定にとても驚いた、という感じ。 平助は活躍して来いと彼女をはやす。 そこからの平助と雪村さんの会話を見て土方さんはため息をついた。 「今度も無事で済む保障はねえんだ。おまえは屯所で大人しくしてろ。」 「君は新選組の足を引っ張るつもりですか?遊びで同行していいものではありませんよ。」 土方さんに続けて山南さんも言う。彼は冷淡な笑顔だった。 雪村さんが少し気まずそうに目をそらしたところで斎藤さんが助け舟という意外な発言をし、彼女は同行を許された。 斎藤さんは人見知りな人だと思う。彼女のことを認めているのだろうか。 *** そして準備をした私たちはようやく伏見奉行所までたどり着いた。近藤さんが門に立つ役人に声をかけるが、要請は届いてないと言われその場を去る。酷い扱いをされ、雪村さんは悔しそうにしていた。 そしてそこからは会津藩に行き、詳しく話し、九条河原に行けと命じられる。そこについたとき、日はもう沈むときだった。 「新選組?我々会津藩と共に待機?」 会津藩士は我々を見て首を傾げる。 「そんな連絡は受けておらんな。すまんが藩低へ問い合わせてくれるか。」 彼らは鼻で笑いながら言った。その言葉に永倉さんはキレるはなんだでそのあとは面倒だった。 「…連絡が回らないなんて、一体どういう戦をしてるんだか………。」 私は一人ぼそっと愚痴る。 結局その場は近藤さんの一言で落ち着き、私たちはここで待機することを許された。 だがここはただの予備兵。我々もその予備扱いというわけだ。保険にすらならないだろう。永倉さんはひたすら苛立っているし。 「千鶴ちゃん、休むなら言えよ?俺の膝くらい貸してやる。」 主のその言葉に戸惑いながら断るが彼女は結局肩にもたれながら眠ってしまった。まぁ、こんなぴりぴりした空間がずっと続いてるんだ。疲れもするだろう。 「………。」 あどけない寝顔の彼女を横から眺める。まだ、少女の横顔は目の前のたき火に照らされている。 周りはみな少し喋ったりするが基本は無言。緊張感だけが漂う。 静かに目を閉じる。そこには闇が広がるなか、ほんのりとした穏やかな光が見えた。 目を開けるとそれが火の明かりだと思いしらされる。 やることもないのでぼけっとする。周りも目を伏せ、緊張した様子ばかり。私も目を閉じて、静かに一夜を明かした。 *** 朝の光が出始めた頃。ドーンと、大砲を撃ったような大きな音が辺りに響いた。耳を澄ますと争う人々の声。同時に新選組の幹部は顔を見合わせ、頷きあい、立ち上がった。雪村さんもいつの間にか起きていた。 そして皆が走り出すのに自分も続く。 「待たんか、新選組!我々は待機を命じられているのだぞ!?」 会津の役人が我々に大きな声で叫んだ。声を荒げる役人には永倉さんたちが対応し、土方さんは役人にを説得していた。だが、土方さんの我慢がきれたのだろう。 「てめえらは待機するために待機してんのか?御所を守るために待機してたんじゃねえのか!長州の野郎どもが攻め込んできたら、援軍に行くための待機だろうが!」 「し、しかし出動命令は、まだ……」 そんな土方さんにたじたじになる役人の言葉を半ばまで聞かず土方さんは言い切った。 「自分の仕事に一欠片でも誇りがあるなら、てめえらも待機だ云々言わず動きやがれ!」 「ぬ……!」 土方さんは役人たちの返答を待たず、歩み始めた。言わずもがな我々の目的地は蛤御門だ。そしてそんな我々に会津藩士もぞろぞろと続く。結局、彼ら予備兵も蛤御門まで我々と共にした。 だが蛤御門まで来たとき、戦闘は終わっていた。 新選組の人は情報を集めに散らばっていく。私は雪村さんの傍にいた。そんなとき、斎藤さんが情報を持って来る。 戦闘は会津と薩摩の兵力により朝方には終わっていたらしい。蛤御門は大勢に守られていた。だから長州は撤退したらしい。土方さんは皮肉に笑った。 「薩摩が会津の手助けねぇ……。世の中、変われば変わるもんだな。」 薩摩と会津は仲の良いわけではない。むしろ薩摩は長州寄りだ。 そして主人が帰って来た。 「土方さん。公家御門のほうには、まだ長州の奴らが残ってるそうですが。」 土方さんは少し表情を変える。続いて山崎くんが駆け込んで来る。 「副長。今回の御所襲撃を扇動したと見られる、過激派の中心人物らが天王山に向かっています。」 天王山、京と大阪の間にある山のことだ。 土方さんは不意に淡く笑みを浮かべ、我々に言った。 「……忙しくなるぞ。」 その言葉に隊士たちは鼓舞されたように浮き上がる。私も布に隠れた口で小さく笑みを作った。 「左之助。隊を率いて公家御門へ向かい、長州の残党どもを追い返せ!」 「あいよ。」 主人は軽く返事をすると少し離れた位置にいる私にちょいちょい、と手招きした。主人の元へ行く私を引き止め、土方さんが言う。 「慧、お前も原田と行け。」 「了解しました。」 小さく返事をすると彼は微笑み、斎藤さんたちに指示を出した。 「土方さんになんて言われた?」 「貴方と共に行け、と。」 主人は私の頭をぐちゃぐちゃに掻き回した。 「気をつけろよ。」 「勿論です。」 小さく目を伏せると彼も小さく笑った。 「原田さん、私もご一緒していいですか?」 雪村さんがおずおずといった感じで語りかけてきた。主人はいいぜ、と言うと私に守れよ、と言った。 「雪村さん。私の傍に居てくださいね。」 「はい!」 それから隊を率いて、公家御門まで走った。私たちが着いたときには、まだ小競り合いが続いていた。蛤御門から移動して来たらしい所司代とまだ諦めていない長州兵たちが戦いを続けている。 「千鶴。あんまり前に出るなよ、危ないから。」 主人は雪村さんに言うと駆け出す。 「危ないですからこちらへ。」 雪村さんを連れてなるべく壁際に向かう。主人は隊を率いて戦の真ん中へと飛び込んだ。 「御所に討ち入るつもりなら、まず俺を倒してから行くんだな!」 主人は小さく笑っていた。……何か、楽しいのだろうか。 「くそっ!新選組か!?」 長州の兵が反応する。 「死にたい奴からかかってこいよ。」 主人は不敵に微笑んだ。そんな挑発にのった長州兵が突っ込んで来る。そこから戦いが始まった。雪村さんははらはらした様子でそれを見ている。だがその戦いも長くは続かなかった。 「……最早、ここまでかっ!」 長州の藩士たちが、血を吐くような声でうなる。 だが役人に逃げようとする彼らを追う。すると一人の男が声を張り上げ、逃げる長州兵の前に出る。 「ヘイ、雑魚ども!光栄に思うんだな、てめえらとはこのオレ様が遊んでやるぜ!」 言うが早いか、その人物は銀色の何かを掲げる。直後、辺りに甲高い音が響き、役人の一人が倒れた。 「な、なにっ…!?」 「…鉄砲、銃かっ。」 「なんだァ?銃声一発で腰が抜けたか。」 彼はひょうひょうとと言った。私はその人物の顔を見ようと目の前の役人を押しのける。 「……………、」 また、この雰囲気。あのときと、同じじゃないかっ!ぎゅ、と目をつぶる。 「遊んでくれるのは結構だが……、お前だけ飛び道具を使うのは卑怯だな。」 私は主人の声を拾い、目を開ける。 「原田さん……!?」 雪村さんが隣で悲鳴のような声を出した。 主はあの男の前で槍を構えたままなのだ。主は目の前の彼へ間合いを詰めた。 「はァ?卑怯じゃねぇって。そっちこそ長物持ってんじゃねえか。」 双方がニヤリと笑みをもらす。唐突に振るわれた槍の切っ先。 「慧さん!」 雪村さんが私の服を掴み、縋るような目で私を見る。止めろと、そう言いたいのか……。あの中に、入れと。……私に止められるのか。…いや、主を、死なせるわけにはいかない。 「雪村さん、危ないと思ったらすぐに逃げてください。」 私は彼女の返事を聞かずに撃ち合い、槍を振るう二人の中に一瞬で飛び出る。 腰の短刀で槍を止め、クナイを男に向かって投げる。 腕が、震えた。 20111124 あれ〜。最近スランプなのかな〜。書けないぞ〜。 |