空を見上げた | ナノ
君が隣にいない今

「こいつすげぇおとなしいな。」

「どうせなら左之や慧ちゃんも呼ぼうぜ。」

「いやいや。左之さんはともかく慧が来たらそっちに行っちゃうからさ。」

平助の膝の上でとぐろを巻きながら目の前の雑草を見つめる。ただ、雪国育ちの私には今日の気候は暑かったので狐の姿に戻ったのだが…。虫をおいかけて遊んでいるうちに気配に気付かず永倉さんの足に衝突してしまった。永倉さんはビックリした様子だったが平助は動物が好きなのかなんなのか。私を抱き上げた。山に帰してやらねえとな、と永倉さんが言い平助も同意するがおとなしく脇に手を入れられ垂れ下がりっぱなしの私を見て平助はまだ一緒にいたい、と思ったらしく今に至る。

「毛なみ綺麗だよなあ……。」

「飼われてんのかな?」

「狐を飼育するなんざ聞いたことねえよ。」

永倉さんは笑いながら平助の膝にいる私を撫でた。私は普通の狐より大きい。それはやはり頭領だし…頭は大きくないと。…とにかく、平助の膝に私の体がおさまりきらない。

ぴょん、と永倉さんの膝に飛び移るとお茶を飲んでいた彼はビックリした様子で肩を跳ねさせた。

「…ほんと、人間慣れしてんな。」

「………。」

頭を撫でられるが私は無言を貫き通す。狐のときは人間の言葉は話せないのだ。キャンキャン鳴くだけになるのでやめておく。

のそ、と立ち上がると平助と永倉さんをちらっと見てその場を走り去る。二人とも、また夕餉で会いましょう。

続いてやってきたのは井戸の傍だった。どうにもこうにも、先程永倉さんが飲んでいたお茶を見て喉が渇いてしまった。


だが桶に水は入っておらず、井戸の水を汲むには擬態をとらなければならない。しかし、ここで擬態を……?仕方ない、一度部屋に戻って……と考えていたときだった。後ろから聞き覚えのある足音がする。

「……狐?」

その人物、西条刹は自分は狐に何か縁でもあるのかと少しげんなりした。
私が桶を鼻先で転がすと彼女にやめろ、と言われた。

「………アン!」

なるべく大きな声で鳴いた。

私てきには水をくれ、の鳴き声だったのだがやはり人間と狐。相容れない関係である。擬態をといた状態で言葉がわかるのは動物か契約主である原田左之助のみ。

西条さんは首を傾げるだけだった。

「あ、いたっ!」

そんな小さくほんのりした雰囲気の中、平助がどたどたと走りながらこちらに来た。西条さんは私を抱き上げると平助から距離をとった。

「なあ、刹…その狐ちょっと渡してくれないかな?左之さんに見せたくてさ…。」

西条さんは平助を見ながら私を抱きしめる手に力をこめた。もしかすると私を助けて、の意味に感じてしまったのかもしれない。続いてまた聞き慣れた足音が二つ。……まずい。

「左之、こっちだ。」

「一体なんだ…………よ、」

永倉さんと一緒に来た主は私を見て大層驚いた表情をした。

きゅーん、と鳴いてみせる。人間には聞こえないが主には聞こえる。

とりあえず、謝った。

主はなんとも微妙な顔をしていたが。だが西条さんはまた私に力をこめた。お、怯えたように見えたのか………。

「刹、悪いけどその狐ちょっと貸してくれ。…俺がきちんと山に返しておくから。」

「……怯えてる。」

や、やはり……。心優しい彼女は私を守ろうと……。

「キャン!」

とりあえず主に今は離れます!と鳴き、申し訳ないが西条さんの腕から出るべくお腹の辺りを後ろ足で蹴らせていただいた。西条さんの腕が緩むと併を乗り越えた。

その後。夜に部屋に戻った私は主にこってり絞られることになったが私が悪い。もう、…忍失格です!と心の声が漏れてしまったらしくそこは関係ない、と突っ込まれた。

そんなところも素敵です、主。

暑くて仕方なかった、と言うと次からは俺の目の範囲が届くところで、となった。

そうしてそれから、暑い日、及び夏は狐がよくうろつくようになった。




20101207

とりあえず…はい。

遅くなりました(土下座)
申し訳ないっす。いや、ほんとに。

刹の登場を除けばちょっと柔華と繋がってるかな?ていうか、1mくらいある狐を軽々と……。皆さん、凄いね←(遠い目

ではでは。次回はふうが頑張ってくれるはず!皆さん、お楽しみに!


執筆者⇒雪子




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