空を見上げた | ナノ
空には明日が広がっている


「あ、慧。」

「平助…。」

「お前も飲もーぜ!」

廊下を歩いていたところを平助に呼ばれ部屋の中に入る。中には主人と永倉さんもいた。

ほら、ともたされる器に瓢箪からお酒が注がれる。
随分と上質な酒と見える。それを一気に煽ると主人が私を撫でながら笑った。

「一気に飲むと回るのはやいぞ?」

「問題ありません。」

主に義務的な言葉をかえす。だがこれが慧にとっての素である。

「にしても、今夜は月が綺麗だなあ。」

永倉さんは胡座をかきながら暗い空を見上げた。空には一つ大きな満月が輝いている。

「今日の夜は明かりもいらねぇな。」

そう言ってから彼はまた酒を煽った。平助がずりぃ、と叫ぶように言い自分もまた酒に手を伸ばす。

「俺が注いでやるよ。」

主人が私に向かって言ったので言葉に甘える。

「慧ってさ〜、」

少し酔った様子で平助が言う。

「慧ってさ、女物の着物着たらぜぇったい綺麗になると思うんだよねー。」

「平助もいいこと言うじゃねぇか!」

永倉さんが平助の背中を叩き、彼が少しむせた。

「…女物なんてしょっちゅう着てますが、」

「なに!?」

永倉さんが過剰に反応する。

「貴方方が飲みに行ってばかりだからです。」

「それをいうなら左之もだろうよ!」

俺か、と終始穏やかに反応する主人。

「俺はいいんだよ。慧が何かとやってくれるからな。」

「いいわけないでしょう。ただでさえ我々は食客なんですから。それにいい歳した大人がふらふらと………、」

周りに目を配ると永倉さんは目をばっとそらした。

「お、俺はまだ餓鬼だからさ!」

「餓鬼なら寝てろ。」

くいっ、とまた酒を煽る。

「……なあ、左之。慧ちゃんって酒を飲むと強いよな…。」

「まあな、饒舌にはなるよな。」

「聞こえてますよ。」

「「…………。」」

私がまた酒を煽る。瓢箪に手を伸ばすとそれを掴まれる。

「………。」

「慧、そろそろやめとけ。お前あんまり酒強くねぇんだから、明日二日酔いになるぞ。」

瓢箪を取り上げられ、慧は少ししゅんとなる。

「………ふう、」

ため息をつくと平助に笑われた。別に主の発言についてのため息ではないのだが……。

「……んじゃ、そろそろ寝るか。酒もなくなっちまったしな。」

永倉さんがんーっ、と伸びながら言った。

その言葉で今日の酒盛りは終了となった。




***




「慧、洗ってやるから来いよ。」

狐の姿になると桶に入れた温かいお湯で体を洗ってもらう。人に撫でられることほど気持ちの良いものはない、と私は思う。

「…………。」

「気持ちいか?」

桶のふちに頭を預け、目を閉じる。主曰く、私は洗われているときは耳が垂れているらしい。

「………。」

目を開くと大きな月が視界をうめた。




20101120


はい、日常。
慧は自称酒の強い奴←


私これからテスト期間なんで更新がまたゆっくりになります…。

同じテスト期間の皆様、頑張りましょう!!




執筆者⇒雪子




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