空を見上げた | ナノ
帰れないのだ あの日には


目の前に散った小さな命。それはいつかの自分を思い出させた。そして沸々と浮かび上がってくる激情。この感情を胸の何処へ持っていけばいい?そんな思いで土を掘って掘って、堀りまくった。雨粒が体に痛い。だけど心はもっと痛い。今流れているものも雨と共に紛れて消える。

「人間は、狡い。」

隣に居た日向が発した言葉、耳の良い俺にははっきりと聞こえた。だがその言葉に共感することはできない。自分はとっても狡くて汚いことをしたから。ただただ、狐を埋めた場所を見る。

「人間は、狡い。人間は、持ってるのに。私たちに持てないもの…持ってるのに………。」

もう一度発せられた言葉。総司には聞こえていない。俺は"私達"と言う言葉に引っかかった。

「じゃぁ、僕は行くね。」

興味を無くしたかのように違う場所へと姿を消した総司の背を見送って、俺は以前からの疑問を問いかけてみた。

「日向、あんたは本当に人間か?」

俺と日向を隔てる空間が妙に神妙な空気を纏った。相手の瞳をじっと見る。俺には何処も写していないように見えた。

「……私は、人間ですよ。」

「……ならいい。」

踵を返し、自室へ戻ろうとした時。同じ質問を返された。

「西条さんは、どうなんですか…?」

その質問に口角を上げた。

「さぁ、どうだろうな。」

一人、廊下を歩く。雨の後の廊下はひやりと冷たい。

「人間、な。」

考えれば考えるほど、嫌な生き物だ。人を欺き貶める。そんなものに価値はあるのだろうか…?

「…。」

刹は頭を振って、考えるのをやめた。考え出したその先の答えは、きっと仲間を裏切る。自分の両の手を見た。赤い色で染まっている。それに苦笑いを溢して、刹は彼方の部屋へと歩いた。

「…どないしたん。」

「彼方と一緒だよ。」

背中合わせに感じる体温。トクントクンと波打つ鼓動にこれほど安心したことはないんじゃないだろうか。そして先ほどの狐を思う。

「ははっ。」

戻れないんだ、平和で楽しかったあの日々には…。



2010/11/15

慧さんとの距離縮まってきたのかな。すこしずつ少しずつ、打ち解けたらいいな。

では、よろしくおねがいします!!

執筆者⇒芹


戻る