あの日と同じような空をしている 西条さん、瑠璃崎さん、そして沖田さん。この三人が人を殺していた。主の横で聞いていた私。全ては近藤さんのためと言う。 「忍だから、わかる。それは、押し売りだ。」 雨の中、傘も挿さずびしょびしょになりながら肩に担いだ狐を担ぎ直す。もう片手で抱いている子狐の息は浅い。 私は道場に向かって走り出す。道場についたらとりあえず鍋でお湯を沸かす。その間に子狐の体を拭いてやる。ちょうどお湯がぬるま湯になったところで火を消してお湯を桶に移す。人肌であることを確認してから子狐を浅い桶の中に入れた。 ぱしゃぱしゃと温かい湯をかけてやると、ありがとうと弱々しく一つ鳴いた。だが母親が気になるらしく子狐は母親を見ていた。私も見る。母親は、もう冷たく動かなかった。 桶を持ち、母親の首の皮を掴み未だ西条さんたち以外がいるであろう広間に行く。 「………西条さんに、沖田さん。」 広間に行く途中にある彼女は自室から沖田さんと出て来たところだった。 「………その狐、」 西条さんがぽつりと子狐を見ながら呟いた。子狐は彼女に向かって一鳴きした。この人、知ってるよ! 「……、」 だがお湯につかる子狐の息はもう浅い。 「なんで…、」 彼女が私に、否狐に駆け寄って来る。母親に一度目を向けたがそれは悔しそうに反らされる。多分、彼女は優しいのだろう。 「多分、餓死です。」 「まあ、確かに痩せてるね。刹、知ってるの?」 「あと、ここも。」 沖田さんが他人らしい言葉をはく。 そして私は付け足すように狐の親子の右足を指差す。人間の罠に嵌まり、えぐれた傷痕。 「前に、一度見たときは…あんなに…、」 私は桶から子狐を出し、拭いてから西条さんに渡す。 「わかりますよね。もう、無理です。」 彼女は私を睨みつけ、それから何処かはっとした。 そのとき、慧の瞳は何も映していない。ただ映るのはあの日の記憶。こんな雨の日に、以前の私は死んだのだ。 こんな雨の日に、私は日向慧となったのだ。全てを消して。殺して。 「……あ、」 子狐は母親を見てから力果てた。その光景は嫌というほど見た。 「貸してください。」 「…いい、俺が埋める。」 差し出した手を掴まれなかった。 「………じゃあ、沖田さん、」 「僕も行くよ。」 「…はい。」 私は彼と共に先を行った西条さんを追った。 西条さんは中庭で穴を掘っていた。雨にぬれ、びしょびしょになっていた。 私もその穴を一緒に掘る。 「沖田さんは何か体を拭けるものを用意していてください。」 彼は返事をしてから去った。 「……。」 「………。」 私と彼女は何も言わずにほった。掘って掘って、二匹を埋めたとき、空は晴れていた。 「はい、」 沖田さんに渡された大きくふかふかな布で体を覆う。 「…………狐は、」 「?」 「狐は群れをなさない生き物だから、母親がいなくても生きていけるんです。」 でも、あの子狐はきっと生まれてから随分の月日がたっているのに、小さい。 あと、あの罠。 西条さんは悔しいと言わんばかりに眉を寄せた。 「人間は、狡い。」 私は呟く。 「人間は、狡い。人間は、持ってるのに。私たちに持てないもの…持ってるのに………。」 「ん?慧ちゃん何か言った?」 沖田さんたちには聞こえていなかったらしい。 「………独り言、です。」 私は前髪をぐしゃりと握り締めた。 西条さんが何か思案するようにこちらを見ていたこと。 私は、目の前のことに気をとられ気付かなかった。 20101115 うぉい、大丈夫か。 これで少しは距離が縮まればいいなあ。 執筆者⇒雪子 戻る |