見失いかけていた 顔に傷、腕にも傷、体にも傷。こんなことでこの先やって行けるのかと、少し不安になった。女の自分ではいつかは置いて行かれるのではないのかと…。度々募る不安に対して日々おかしくなっていく自我。つい先ほどだって、戦うことで自我を失いかけている。総司に止められなかったら俺は日向を殺していたのかもしれない。もし、そうなっていたら…。 「―――刹。」 はっと意識が戻る。誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。何処か懐かしく、何処か遠い誰か。あたりを見回してみるも、人らしい気配は何処にも無い。空耳かっと頭を振ると今度ははっきりと声が聞こえた。 「刹…?何してるんや?」 「彼方…?」 驚いた表情でこちらを見る彼方は先ほど聞こえた声の人物だということが分かる。では、誰が…?元より此処の人物しかしらない刹には心当たりも無かったので、そのまま気にすることはやめた。 「どないしたん?そないな顔をして、」 「…いや、なんでもない。」 「ふぅん。…せや、傷のほうはどないや?クナイ何本か当たったんやろ?」 「大した傷じゃ無い。刀傷以外、傷じゃ無いからな。」 そう言って、包帯で巻かれた部分を見せる。薄っすらと血が滲んでいるのが妙に痛々しい。 「なんや、今まであった男達の中で、刹が一番男らしいな…。」 「そりゃどうも。」 袖を捲り上げるのを止めて、歩き出す。その後ろを彼方が追いかけてきた。 「何処いくん?」 「一君の部屋。」 *** 「一君、入っていい?」 「刹か。入って良いぞ。」 静かな返事のあと、ゆっくり戸を開ける。どうやら刀の手入れの途中だったみたいだ。 「邪魔した?」 「いや。ちょうど終った所だ。」 カチャリッ、そんな音と共に青白い光を放つ刀身が見えなくなった。刹の方へ体を向けて、何かようか。と掛ける言葉は何処か落ち着いている。 「前に言ってた居合いを教えて貰おうと思っててね。暇なら教えてくれないか?」 「…以前も言ったが、お前は何の為に居合いを覚え「強くなる為」…。」 何の曇りも無い瞳、だが斉藤はそれを了承するつもりは無かった。 「力はいつか身を滅ぼす。お前は今のままでも十分強い。」 「いや、俺は弱い。現に日向慧を潰せなかった。」 忌々しそうに拳を握り締める刹に斉藤は少し可笑しくなった。 「忍とお前はまた違う。刀を重んじるお前と、主を重んじる日向は根本的な物が違う。勝てなかったからと言って、そこまで自分を悲観するな。」 「だけど…。」 なおも食い下がらない刹に、斉藤は頬に手を添え顔を上に向かせた。 「お前が戦闘に得意とすることを磨け、そしたらお前は強くなる。」 射抜くように刹を見る斉藤の目は魂の炎を宿した本物の武士の瞳だと刹は後に尊敬した。 そして、斉藤と話終えた刹は一人自室近くの縁側に座り込んでいた。足のつま先が丁度付くくらいの場所で刹は何処か遠くを見ていた。それは空よりも遠い、ずっとずっと先。 隣に近づいてきた気配。視界の片隅にちらつく茶色に溜息を吐いた。 「な、人が近づいただけで溜息を吐くなよ!!」 「…。」 特に関心も無い人物に話すことは無いと、無言を貫こうとする刹に今度は藤堂が溜息を吐いた。 「なぁ、なんでお前はそんなに俺を嫌うんだよ。俺、何かしたっけ?」 ただ一身に仲良くなろうと話しかける藤堂は、刹のそんな言動が理解できなかった。そんな折に、やっと刹が口を開いた。 「さぁな、別に嫌っては無いさ。認めていないだけだ。」 刹の言葉を聞いてた藤堂は少し嬉しそうに笑って、刹の背中に抱きついた。 「じゃ、じゃぁ!!俺を嫌ってるわけじゃ無いんだよな!!!」 急に抱きつかれたせいで、首が絞まり刹は咽た。それを藤堂ははっと離れ苦い顔をした。 「ケホッ、ケホッ…、勘違いするなよ。」 眉を潜めながら睨む刹に藤堂はまだ嬉しそうな顔をした。それに、刹は溜息を吐き、放っておくことにした。 「俺さ、お前に見認めてもらえるように頑張るな !!」 「……勝手に言ってろ。」 2010/11/14 最後の平助ポジティブだなー。刹の言葉を物ともしない純粋さ。拍手しましょう! では、雪子さんよろしくお願いします!! 執筆者⇒芹 戻る |