空を見上げた | ナノ
ただ許諾の時を待つ


「………。」

彼女には彼女の思うところがあるらしい。ぎゅ、と拳を握りしめ彼女たちが去って行った方角を見据える。

「慧!」

「あぁ、土方さん。」

「あぁ、じゃねぇよ馬鹿!」

そんな土方さんの後ろからは主や近藤さんたち、それから平助。どうやら平助が全体的に呼び回っていたと見える。

「慧…、」

「……反論もありません。」

私は片膝をつき頭を垂れる。怒られるのだろうか。仮にも仲間を殺すような勢いでだなんて、とんでもないことなのだから。だが半分は彼女も悪い、私はそう思う。

「………!」

ただ下を向いていると、頭にごちんと固い拳が落ちてきた。

「それで終わりな。」

「………はい。」

苦笑いしながら彼は言った。だからこの人は好きなんだ。

「慧くん…刹とやりあったんだろう?ほんとに、すまなかった!」

近藤さんは私にばっ、と頭を下げた。

「問題ありません。…良い仲間を持ちましたね。」

「え、」

彼は意外だったのか顔を上げ、私を見る。

「西条さんといい沖田さんといい、貴方は随分信頼されているらしい。」

「慧くん……。」

感動したように近藤さんが呟く。

「それに、彼女の方が傷は多いですよ。クナイなどを後ろから投げてばかりいましたから。…私は一族の者が作った薬もあります故、問題ありません。近藤さんは西条さんの元へ。」

うむ、と彼は頷き去って言った。

「……土方さんは行かないのですか。」

「いいんだよ。近藤さんも行ったんだし…。包帯とかは持っているのか?」

「はい、ぬかりなく。」

白い清潔な包帯に、貝殻の中にどろりと入った塗り薬を取り出す。薬を作ったのは志乃である。彼はふらふらしているが医学、薬学に精通している者だ。

「慧、手出せ。」

主が私に傷の手当を施していく。きつかったら言えよ、と言われ巻かれる包帯は調度よいきつさで巻かれている。

「…土方さん。」

「?」

目線をこちらに向け、不思議そうな顔をする彼。永倉さんや平助は心配そうに私の傷を眺めている。

「こんなことを貴方に申すのも如何様かと思いますが彼、少し異常です。」

「…と、言うと?」

「…………あの速さ。」

ぽつりと呟く私に周りが疑問符を浮かべる。

「忍の私に傷を付けるのです。この際言い訳にしかなりませんがここは明るく、隠れる場所もなく、忍には不利な場でした。でも、西条さんは劣りはするものの私に食らい付いて来た。」


私はぎゅう、と手に力をこめる。主に終わり、と頭を撫でられ口にほんの僅かな笑みを作る。後ろで平助が今の見た!?と喚くが永倉さんは見ていなかったらしく話についていけていない。

「……"人"、なんかに負けるのは私にとって恥です。」

「………。」

土方さんは静かに私の話を聞く。

「…申し訳、ありません……主。」

ただ浸すら地面を向き、主に許しをこう彼女が土方にはいつもより小さく見えた。

「気にすんなよ。」

頭をぽんぽん、と撫でるが慧はすみません、と謝ってばかりいる。慧にとって狐である自分が負ける、ましてやそれば異種族の人間であるなどもっての他なのだ。

「じゃあ、慧。次は勝て。これは…命令だ。」

慧はその言葉に顔を上げ、きりっとした顔で原田を見据える。土方はそれに関心した。慧の急に変わった表情。忍とはただ一緒にいるだけの存在ではないのだな、と。

「土方くん?」

「あぁ、山南さん。」

出掛けていたのか初めて会ってから今まで姿を見せなかった彼。手には風呂敷を持ち、今帰ったばかりと見える。

「何か、あったのですか?」

ある程度の処置のされた私を見て山南さんが言う。土方さんがあらかた説明し終わった後に山南さんはため息をついた。

「刹の悪い癖ですね…。」

「ああ。ほんとにすまなかった。」

「いえ、私も申し訳ありません……。」

「俺からも、悪かった。」

主人が謝り、慧はまたしゅんとなる。
表情は相変わらず能面のようだが原田には長年共にいたからか、その様子がひしひしと伝わってきていた。





***





「………ッ!」

「はあ……痛いのはわかるがおとなしくしてろって。な?」

きゅーん、と可愛らしく鳴く狐の姿の彼女に原田は小さく笑った。慧から昔聞いていた分家の志乃という者が作る特製の薬。自分も使ってみるが驚くほど痛いがその効果はある。怪我が麻痺していないとそうとう痛い代物であることがあの無表情の慧が狐の姿ではあるが顔を歪めていることからわかる。
腹に塗ってやると慧が面白いほど顔を歪め痛みに堪える。それに原田はまた笑い、薬をしまう。怪我をして数刻たった後に薬を塗る場合、慧が狐の姿になるのはせめてもの意地なのかもしれない。原田はぼんやり思う。


「………キャン。」

「ん?ああ、悪いな。」

小さく鳴き声を上げる慧を撫で回す。耳の裏を撫でると恍惚とした表情になる彼女。多分無意識なのだろう。人間のときにも一度試しに耳の裏を撫でると猫が喉を鳴らしそうな勢いでうつらうつらとしていた。


「慧、いつもありがとな。」


小さく呟く言葉。耳は動いていないが彼女には聞こえたんだろうな、と原田は心の中で思った。




20101114

何気に頑張ってみた。
……遅くなり、申し訳ありませんでした(土下座)


執筆者⇒雪子



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