修羅を纏う 「刹、何見てるの?」 中庭に座る刹に近付くのは沖田総司。刹はそんな彼に目を向けると指を一人の少女に向ける。 「あぁ、刹の嫌いな子だよね。」 「別に嫌いじゃない。気に入らないだけだ。」 慧は中庭で井戸の水を桶に入れ、手を濯いでいたのだがその桶の中で雀の集団が水浴びを始めてしまったため、それを眺めていたのだ。 「すごいね、あれ。」 総司の反応は至って普通。調度そのときだった。 「総司?と、刹もか。」 廊下の角から出て来た少年、藤堂平助には沖田しか見えなかったらしい。 「名前で呼ぶのを許した覚えはない。」 「まあまあ。名前なんて呼んでるうちに慣れるって。って…慧じゃん。」 刹はそういうことを言ったつもりはなかったのだがそれは平助の思考では隠れてしまう。 「慧ー!」 彼は草履を履くと井戸まで駆けて行く。 「ほんと、元気だよね。」 沖田が呟く。 *** 「…平助、」 「あぁ。って、うわっ!」 平助が来たことにより桶にいた雀たちは一斉に飛び立ってしまう。 「あ〜…また悪いことしたな。」 「いい。私も困っていた。」 慧は桶を濯ぐと片付ける。 「にしても、なぁんで慧にだけ寄ってくかなぁ。」 ふて腐れたように言う彼に慧はどうすればいいか困り、口を歪める。 「平助、虐めちゃだめだよ。」 「あ、総司。虐めてなんかねぇよ。な?」 「ああ…。」 平助の肩を叩いたのは沖田総司。後ろには嫌々ながらなのか、厳しい表情をした西条刹。 「初めまして、だよね。僕は沖田総司です。」 「日向慧です。好きにどうぞ。」 総司はにっこり笑いながら言う。 「ねえねえ、暇なら僕と打ち合いでもしない?平助のときみたいに君は短刀でいいからさ。」 慧は心なしきょとんとする。 「…残念ですが、今短刀は持ち合わせていなくて。」 「そっか、それは残念だなあ。」 総司はまた今度しようね、と言った。 「総司よく、刹とやってるじゃん。」 「何?今更ヤキモチ?」 「違うから!」 「おい、」 二人のがきゃっきゃ騒ぐがそこで冷気を含んだような静かな声。 「俺の名前を呼ぶなと、言ったはずだが。」 どうやら彼女は機嫌が悪いらしい。その言われようからみると平助は以前から言われていたことがわかる。 「…それは、少し我が儘じゃないんですか?」 隣で平助がえ、という顔をし沖田さんがお、と楽しそうな顔をする。 「………。」 彼女にきっ、と睨まれる。何があって不機嫌なのか、そんなの簡単だ。私と平助がいる、それだけ。だが以前から感じていた。私や主が部外者であるのは事実。だが、少し風当たりがきついんじゃないだろうか。主の彼女に対する申し訳なさそうな顔を見るのはごめんだ。 「調度良かった。」 「?」 「あんたと一度はやりたいと思っていたところだ。」 「…それは、打ち合いではないですよね。」 彼女はにっ、と口を歪めると刀を抜き振り落ろす。 ガキン 鉄が弾けるような音がし、火花が散る。 クナイで受け止める私を彼女は鼻で笑う。だが所詮、私に力で勝てるのは鬼だけだ。クナイで弾き返すと平助を後ろに下がらせる。 「それは八つ当たりですか。私は貴方のご機嫌取りではないのですが。」 不意打ちなんてこんな仕事柄よくあるが苛立ちを感じるのは悪いことではないと思う。 「じゃああんたの主に手を出せば戦ってくれるって?」 私はその発言に眉をひそめる。 「前から気になってた。素早い動き、女ではありえない腕力。娯楽が待ってるならあんたの主人だって殺し」 刹の言葉は最後まで続かなかった。言わせなかった。 「後悔、させますよ。西条刹。」 慧はクナイを刹の頬が掠る程度に投げると同時に言った。 主は建て前。今は、彼女にとって私たちの存在が何故不愉快なのか。それを確かめたい。 20101111 わ、めんどいとこで切った…。 頑張れる? 執筆者⇒雪子 戻る |