空を見上げた | ナノ
そして私は罪を知る


平助に手をかし、立ち上がらせたところで西条さんと誰かが打ち合う。

「あいつら二人、すごいな。」

感心したように周りは言う。だがここに至るまでの物騒極まりない会話を聞いてしまった私はなんとも言えない。

「……顔を洗って来ます。」

「慧ちゃん、見ねぇのか?」

「興味ないので。」

私はその言葉を残してその場を去る。忍の私がこんな明るい場で争うなんて久しぶりだ。玄関の前を通って井戸へ行こうとするところで玄関に奇妙なものを見つける。


「…………。」

「………キャン!」

玄関できちんとおすわりをしていた狐は一声鳴いた後、狐から擬態をとり人間になる。

「久しぶり、私のこと覚えてます?」

「擬態をとれる狐なんて蝦夷の生まれ、ましてや私の家計だけだ。そうなると生きているのは鬼に仕え、屋敷にいなかった者。………久しぶりだな、志乃。」

「ほんと、お久しぶりです。」

自分の分家の家計にあたる志乃は上品に一礼する。

「私に会いに来るなんてどういう風の吹き回しだ。殺しに来るなら夜に来い。」

「はは。嫌ですよ。私が殺されちゃいます。」

彼は笑いながら言った。

「いや、まぁ。自分の仕えていた方がちょっと揉め事で亡くなりましてね。行く宛なくふらふらと。」

「…そうか。」

「まぁ、そうなんですよ。慧様は今こちらで?」

「主と共に食客として世話になっている。」

「あぁ。人間について行ったんですよね、たしか。」

彼は家を見ながら納得したように頷いた。

「軽蔑でもするか?」

「いいえ、とんでもない。というより、なんだかとても暗い憶測ばかりですね。」

「………身内に会えば暗くもなる。」

「そんなもんですか。でも、狐なんて群れで行動する方が稀ですし……私の知る皆さんは特に気にはしていませんでしたけど…?まぁ、自分の主に手いっぱいなのかもしれませんが。」

くすくす、くすくす。馬鹿にするよう笑いながら志乃は言う。

「……それで。用件は。」

「わお、早っ。まぁ、いいですが。一つ、聞きたいことが。」

「なんだ。」

志乃は笑っていた顔を引き締め、私に言う。

「一族を、再興する気はおありで?」

「…………。」

ざあっと風がふき、慧と志乃の髪が舞い上がる。慧は小さく口を開け、話し出す。

「…それは、私が主に必要とされなくなったときの選択だ。」

「ほう。つまりはいつか、と?」

「…いずれ、な。私は多くの者を殺した。一族の再興に一番早いのは純粋な蝦夷の狐の血をひく私が子を成すことだ。」

それくらい、わかっている。
慧は言った。

「へえ。まあ、主から離れる気があるとは意外な返事でしたが。」

「主に守る人が出来たとき、傍に私がいるんじゃ面子が立たない。」

「なるほど。じゃあ散らばってる蝦夷の一族の間で再興で話は進めます?」

彼は私の今後が知りたかったらしい。確かに擬態をとれる我々の血が絶えるのは忍びない。

「…いや、まだいい。だが、宗家の内から出て行ったお前が一番私の次に血の濃い人物だ。」

彼はにっ、と笑った。


「まぁ、そうですね。その返事を待ってたんですが…。以外と考えられてるみたいで志乃は安心しました。」

彼はまた一礼する。そして顔を上げないまま彼は言う。

「もし、本当に自分との間に子を成していただけることになるならば…死ぬのだけはやめてくださいね。」

「わかっている。」

ならよかった、と彼は顔を上げ微笑んだ。

「じゃあ、慧様。この話は私たち二人の内密に…。」


「主にはいずれ話す。」

「え?内密なのに……。」

志乃はしゅん、と眉を下げる。小柄だからこれが似合ってしまうのが憎たらしい。

「主は…契約があるかぎり私の一番だ。」

わかってますよ。彼は笑いながら言った。

「まあこんな深刻な話してますけど後から取りやめ!とかでも自分は構いませんので。」


「………何故、」

「私を含め、残った者が願うのは貴方の幸せですから。」

それじゃ!
志乃は忍らしく木の葉を巻き上げ去って行った。慧も目を伏せるとざあ、と強い風と共に消えた。



結局、志乃がここに来た理由。あの子は優しいから、再興だ子供だなんて話しをしながら私の安否を確認したのだろう。分家というハグレ者の中で私を気付う優しい青年。私は、後の自分の命でどれ程の償いが出来るのだろうか。



20101111

わお。なんかすんごい展開。志乃は主人公よりでかいが小柄な擬態。はい、無茶振りー(黙

とりあえず一族のみんなは慧が何したって好きなんだよって話。………多分。この勢いだと志乃くんこれからもでしゃばります。ふうちゃん予定違いゴメンね。これからも志乃をよろしくお願いします!(スライディング土下座)

そして会話文ばかりでさらに申し訳ありませんでした。


執筆者⇒雪子


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