空を見上げた | ナノ
追いかける様に


「……………。」

私がその姿を見たのは夜。闇に紛れてしまいそうな狐の少女と青年。屋根の上からそれを眺め、私はひらりと尻尾を振りながら降りる。また随分物騒な道場だな、と思う半面これを主に伝えるべきか悩む。だが私はさっきの少女たちが何をするかを知っているわけではない。憶測で言うのはよくないだろう。そう思いながら私は自室へと足を進める。四足歩行は人間の擬態より忙しなく動かさなくてはいけないのが不便だがやはりこの姿が私だ。

部屋につくと幸い辺りには誰もおらず、中にも嗅ぎなれた臭いしかない。

「…クゥーン。」

小さく声を出し、襖に頭をなすりつける。

「……ん?あぁ、慧か。」

襖を開けた彼は私を抱き上げ部屋に入れた。

お前がばれる日がくると思うとひやひやする、と主は言った。問題ありません。私を見て日向慧だとわかった人間は生きて帰らせません。遺体もきっちり処分します。

なんて言えるわけもなく、灯を消し布団に入った彼の枕元でとぐろを巻く。おやすみ、と言われたので額に頭をぐりぐりと押し当ててから眠りについた。





***




チュンチュンと小鳥の囀りに目を覚ます。

「……。」

擬態に戻ると横で寝ている主人を起こす。

「主、起きてください。」

「…ん、ああ……。」

掠れた声で返事をし、瞼が開く。

「おはよう。」

「おはようございます。外でお待ちしています。」

彼に頭を垂れ、その場から消える。一般に言う瞬間移動。これもまた忍術だ。

「………。」

因みに自分が着ている服は所詮忍装束と呼ばれるものだ。黒く足首でキュッとしまる細身の袴に肩が出る動きやすい服。懐から医者がするような口布を出し頭の後ろで結ぶと口が隠れる。私のはぴたりとつっつくタイプではなく風にゆれれば口が見えてしまうようなそんなやつだ。

「待たせたな。」

「いえ。…稽古、よろしいですか?」

「いいぜ。その前に顔洗いに行かせてくれ。」

「勿論です。」


顔を洗い、歯を磨き。稽古場の道場についたときには自分たち以外もいた。練習においては優秀らしい。

「お、原田くん!慧くん!」

そう言って元気に私と彼の名前を呼んだのは道場主の近藤さんだった。

「おはようございます。」

「おはよう、近藤さん。」

「ああ、おはよう。これから稽古か?に、しても………」


彼は私を下から上まで眺めた。凄いなぁ、と呟く彼の後ろには瑠璃崎彼方と打ち合う西条刹の姿。真剣に打ち合っているらしく、速さもキレもある随分剣のたつ人物であることがわかった。

ちらりと横を見ると近藤さんと喋っている主の姿。

「あ、慧!」

後ろからの平助の声に奥の二人が打ち合いをやめたのがわかる。どうやら私はそうとう嫌われているらしい。平助もだと思うが。

「なんかすげぇ格好だな。」

「稽古だからな。」

彼はそっか、と笑った後紹介したい人がいると笑った。

「一くん!」

一くんと呼ばれたその人は道場の隅のほうから歩いて来た。


「斎藤一だ。あんたの噂は聞いている。」

「日向慧です。どうぞよしなに。」

握手を交わすと彼は微笑んだ。

「お?平助ぇ!」

「げ、新八っつぁん!なんでこんな時間に起きてんだよ!」

握手を交わしたときに入ってきたのは随分筋肉質な男性。彼は平助と主と話をした後私に目を向けた。

「へー。左之の従者なんだよな。俺は永倉新八。」

彼もまた私に握手を求めた。

「日向慧と言います。」

「んな堅っ苦しい喋り方はいらねぇって。な?同じ男同士じゃねぇか。」

彼は私の肩に手を回しながら言った。しかし、それを言った瞬間空気が凍った気がした。

「……ん?」

斎藤さんは鼻で笑い、主は小さく苦笑いをし、平助は大爆笑をしながら言った。

「新八っつぁん馬鹿だなぁ!慧は女だって!」

「な、なにぃ!?」

彼は心底驚いたという様子で肩から手を離した。
結局わたわたした後にはごめんな、と謝られた。平気です、と返すともっと楽に!と言われ平気だ、と言うと女の子らしく!と平助に言われ、私は彼の膝の裏を蹴った。

「いてて…あ!慧、稽古しようぜ!」

主に目を向けると見てるから好きにしろ、と言われ平助に頷く。

私たちの会話を聞いていた門下生が場所を空ける。それに小さく頭を下げつつ譲ってもらう。西条さん、瑠璃崎さん。それから明るい髪のもう一人の青年が座りながらこちらを見ていた。
お手並み拝見やな、と瑠璃崎さんの声が私にだけ聞こえた。

「とりあえず慧は木刀とか得意じゃないんだよな?」

平助が私と自分の木刀を用意しながら言う。

「まぁ、あまり使えませんが…。」

「ん〜、んじゃあ普段何使ってるわけ?」

「…クナイだったり、短刀だったり。…とりあえず、臨機応変に。」

「ふーん。んじゃ、ちょっと面倒かもしれないけど俺は木刀。慧は短刀を鞘に収めたままってのは?」

「………構いません。」

彼はよし、と笑いながら自分の木刀を構えた。

「負けは背中をつくか、まいったを言うまで。よし、始め!」

なりゆきで審判になった永倉さんの言葉と共に平助は突っ込んで来る。

それを正面から受け止めると小さいながらもやはり男性らしく、力は強い。

「………ふん、」

それを弾き返すと彼は驚いた顔をしたがすぐに笑顔になった。生憎私は怪力と速さが取り柄なんだ。それに、以外と負けず嫌いだ。

私は彼に向かって駆け出す。
腰を屈め、短刀を脇腹あたり目掛けて突き上げるがそれは彼の刀により弾かれ短刀が手から抜ける。

「だから、近距離は嫌いなんだ。」

ぼそっと呟き、私は倒立をするように片手を地面につき彼の腹を蹴り飛ばす。

「なっ!」

油断していたのかそれはすんなり入り、彼は背中から倒れた。

「ってて………、」

「かぁー、腰抜け平助め。この勝負慧ちゃんの勝ち!」

周りはそれに盛り上がる。

「…わ、悪い。つい…」

「いや、背中つくまでだもんな油断してた。…ってぇ……。にしてもあれはねぇって。」

「す、すまない。」

私は吹っ飛ばされた彼に手を差し出す。彼は笑いながらもやはり痛そうにしていた。

多分、癖で鳩尾に入れたのかもしれない。申し訳ないことをしたもんだ。


そんな私たちのやりとりを彼女がどのように思い、感じたのか。私は知らない。





20101108

わ〜。あはは。長っΣ
手がプランプランです。

刹が何を思ってくれるか楽しみです(笑)どうぞ繋いでくらはい←


執筆者⇒雪子


戻る