戸惑いながら 主である原田左之助はここで息のあった永倉新八と共に吉原、つまりは色街に行った。脱藩してからの主人はとてもいきいきしていて、こちらも気持ちがゆるんできそうになる。 「………。」 主人と同室で与えられたこの部屋。周りはまたぎょっとしたがいざってときに困るのだ。というより今日一日、ここの者はなんという目で私を見るんだか。私は仁平の緩い格好に着替えてから襖を開け、廊下に腰掛け足をぶらぶらとさせる。塀の上に雀の群れを見つける。それに手を伸ばすとなんの遠慮もなく一匹が私の指にとまる。それに続き他の雀も肩や膝、太股。いたる場所にとまる。頭にいる一匹は随分と落ち着いた様子で今にも眠りにつきそうだ。そんな風にゆったりとした時間を過ごす。 「あれ、慧…だっけ?」 廊下の角から出て来たのは高い位置で頭を結った少年だった。 「あの…、」 「お前雀がそんなに寄って来るって…なんか餌でも持ってんのか?」 彼が一歩踏み出したことで雀たちが一斉に羽ばたいていく。彼はぽかーんとしながらその風景を眺める。 「え、………な、なんかごめんな。」 唖然としていたた彼だが次には申し訳なさそうに眉を下げながら謝った。 「構いません。…名前を伺ってもいいですか?」 彼を見上げると彼は私の横に座る。 「俺は藤堂平助。歳も近そうだし平助でいいからさ。俺も慧って呼ぶし。」 平助は無邪気な笑顔で笑った。 「ありがとうございます、平助。」 「あ、あと!その敬語もなしな!」 彼はにっ、と笑いながら言った。 「敬語が外れると口が悪くて……。町娘みたいな喋り方じゃありませんし。」 「いいって!刹もそんなんだし!」 「…ですが、西条さんよりも固「だーかーら!いいって。俺はお前と仲良くしたいんだよ。な?」」 私の言葉を遮りながら彼は言った。私は彼を見つめてしまう。そんな私に彼は何を勘違いしたのか、嫌なら無理する必要はないんだけど!と焦り始める。 「…ありがとう、平助。それでいかせてもらう。」 彼はぽかんとした後に言った。 「なんか、一くんみたいだな。」 「一くん?」 「そ。すんげぇ居合いがうまいの!今は出掛けていないけど多分明日には帰ってくるからさ。」 「また、機会があれば。」 「あるって。同じ屋根の下なんだし!」 「そうだな。」 また塀に戻ってきたさっきの雀に目を向ける。 「さっきさ、雀が慧の周りにうじゃうじゃいたじゃん。」 私は雀に手を伸ばす。雀はぴょんと指にとまる。すっげー、と隣で彼が声を上げる。 「触る?」 「え、」 目の前の雀の額と私の額を合わせてから彼に差し出すと雀は彼の肩にとまる。 「ち、近っ……」 感動すると同時に実現したそれに驚いているらしい。私は良い意味で唇が歪むのを感じた。 平助はおもむろに私をぎゅう、と抱きしめた。 「お前、なんか弟みたい!」 「………は、」 「なんつーかさ。面倒見たくなるような感じ!」 「…………平助、申し訳ないんだが」 「ん?」 体を離し私の顔を見る。いつの間にか肩の雀は私の頭にいた。どうやら先程ここで落ち着いていた奴らしい。 「私は、女だ。」 平助は私からばっ、と体をさらに離し恐る恐る確認した。 「…お、女?」 「女だ。」 えぇぇええ…… と、平助はうなだれた。耳まで真っ赤に染まった顔はまるで梅干しのよう。 「ほんと、悪い。」 「こんな格好の私も悪い。気にするな。」 「あーでもなー…」 まだ顔を赤くし、渋る彼。私は主人と同じく藩にいる頃、色事から暗殺まで色々やってきたからとりあえず男と抱き合うのに抵抗はなかった。 だが平助はこのままでは終わりそうにない。 「……じゃあ、お茶を入れて来てくれないか。」 「へ?」 「それでなしだ。」 まかせろ!彼はそう言って駆けて行った。心がぽかぽかする。これは、なんだろう。 一人になったところで先程の西条さんとすれ違ったときのことを考える。 多分、あの殺気は無意識。私は何かしただろうか。それとも、彼女が私に何かを感じたのか、否か。多分、聡い子であることは間違いなさそうだ。しかも私に向いた殺気。主人を嫌う、その次は私。少し、我が儘すぎではないんだろうか。普段は苛立ちなどあまりない私だが苛立ちを感じたので少し殺気を返してやった。通り過ぎた後ろで刀の一部が抜かれる音がした。主人は嫌われてんなー、と楽観的に笑っていた。 「あの人の邪魔は、全て…。」 ぎゅうっと手を握り閉める。すると廊下の角から平助とは違った足音。思わず気持ちが身構える。 「………。」 「あれ、慧やん。」 「…瑠璃崎さん。」 身構えた自分が馬鹿みたいだった。横座るで?と言ってから彼は先程平助が座っていた位置に座った。 「刹のこと、悪気はないんや。許したってな。」 彼は私の目を見ながら言った。 「許すも、何もありませんよ。」 彼は私の返答が意外だったのか小さく笑った。 「………ただ、」 「?」 「西条さんが、主に本気の殺気、及び刀を抜くことがあれば…」 「……あれば?」 先を促され、私は自分にしては珍しく挑発の意をこめて彼の瞳を見る。 「……私は、西条さんの首をはねますよ。」 業と笑ってやった。私は忍。彼女が刀を奮おうと闇に紛れてしまえばそれは同じ。けして自分から接近戦をしかけるような馬鹿な真似はしない。それに、速さでなら人間に負ける気はない。だから我等一族は忍を生業としているのだ。 「あははっ!じゃあ僕が殺気向けたら?」 「首が飛びます。ですが安心してください。何もわからないまま逝きますから。」 平助の足音が近づいてきたので私は立ち上がり彼に一礼すると平助のほうに向かって歩いて行く。 例えそれが自己満足でも、主が望まなくても。 邪魔する奴は排除する。それだけ。ただ、主の立場が悪くなるのは避けたいので実際それをやるか、なんて言われたらどうかわかりませんが。 20101108 繋げました。平助とは無理矢理な絡み。 で、ですね。狐は時速50キロで走るらしいです。すごーい。豆知識っすね(黙 刹に勝るものがあるならやっぱり忍なんだし速さくらい勝っててほしい雪子です…。 さぁ、面倒かもしれないが繋いでください! 執筆者⇒雪子 戻る |