なれのはて 椿は少しばかり不機嫌であった。 久しぶりに会った目の前の慧は自分が好きになれない犬と酒を飲み、少しばかり談笑している。なんだか気に食わない…。 椿は二本の刀を触った。 長年使ってきた相棒だ。この刀に勝てる人間なんてなかなかいないだろう。 私に勝てるのは…と椿は指を折っていく。 慧様は勿論、志乃は…あまり戦闘してるとこはみないけど私より強いはず。あとは…鬼、とか。あ、もう一人。 椿はここにはいないもう一人の狐を頭に浮かべた。 慧の力の猛威をくらってなお生き延びた狐、名前を真というのだが生憎この場にはいない。 「そういえば刹。お二人には会いに行かないのです?」 ぴくん、と椿の耳が反応した。 そして弱い鼻を動かす。 人間にしても犬にしてもまがまがしい気配だ、と椿はにんまり笑う。 「そういえば、貴方の気配って変若水のあれね。飲んだの?馬鹿ね。」 椿からしたらさっきの終わらなかった戦闘の腹いせなのだが刹の瞳にぎくりとなった。 「馬鹿でも愚かでも構わないさ。半端な私にはあれが必要だった。…それだけだ。」 「………なんか、貴方張り合いがない。つまんなーい!」 椿はむっとして立ち上がり吠えた。 志乃が心底やめてくれといいたげに耳を押さえていた。失礼しちゃう! 「椿。」 慧に少し微笑まれながら名前を呼ばれ椿は急いで慧の前に膝を折った。 「真は?」 「真はお留守番。私たち今猟師の山小屋でこっそり住んでて…明日にも出るんですけどね。」 「そう。」 椿は慧の穏やかな雰囲気に嬉しくなって志乃に抱き着いた。 「……やめてください。」 「えー!」 慧をちらりと見るとやはり刹と話をしている。真の紹介?まあ、なんでもいっか。 椿は志乃に擦り寄った。 志乃は慣れた手つきで椿を撫でた。 この二人からすればよくある風景、慧も違和感ない風景、刹には恋仲なのかと言わせるくらいに仲の良い風景に見えた。 「ほら、しゃんとしなさい。」 「え〜、もう。志乃ってばママみたいね。」 「ママ?あぁ、南蛮の言葉…。」 志乃は酒を煽った。 椿はなんだか暇になり、空を見た。 あの輝く星はどうして沢山あるのか、とか月は夜にしかないのか、とか色々言い出せばきりのない疑問ばかりが頭を支配する。 椿は上に縛ってある二つの髪を解くと背中に流した。 「平和すぎてつまんない。」 「平和なのは良いことだよ、椿。」 慧が少し赤ら顔で言う。 「でもね、慧様。私戦うことが好きなのよ?」 「変わっているな、お前は。」 刹が椿を見た。 「貴方は私みたいな人間だと思ってたのに…。私の周りの男はみーんなヘタレで…志乃は戦わないし…真は相手してくれても私じゃ勝てないもの。私は勝てる勝負がしたい。なのに刹ってば負けてくれないんだもの…。」 刹は目の前で今だ志乃の腕に絡む椿を見てめちゃくちゃだと苦笑した。 このままじゃ話が止まらないと判断したのか、志乃が自身の長い色素の薄い髪を撫でながら立ち上がる。 「今日はお開きにしましょう。少しでしたが、お会いできてよかったですよ。」 「私もだ。」 慧は志乃の手と握手を交わす。 「私も、慧様に久々に会えて嬉しかったです。今度は戦場で貴方を助けるわ。次は真も連れて!」 「ああ、また。」 椿は握手ではなく慧に抱擁を求め、慧もそれに答えた。 照れたように頬を染めた椿は次に刹を見た。 「刹、またね。」 随分と交遊的だと慧は素直に思った。 志乃に呼ばれた椿は最後に振り返って、刹を見た。 「……これ以上、慧様と仲良しにならないでね。」 椿と志乃が去った後、二人はすぐに腰を上げた。 「…なんなんだあの女は。」 「ただ戦いが好きな少女です。昔からその腕はすば抜けていました。あんな長刀で二刀流なのはきっとこの世で彼女だけですよ。多分、沖田さんや斎藤さん辺りなんかとは仲良しになれるかもしれませんね。彼女、永倉さんなんかは苦手そうですよね。」 ああ、確かに、と刹は思ってしまった。 二人は屯所に向け、歩き出した。 「二人は、恋仲なのか?」 刹は少し決心して聞いた。しかし慧は珍しいまでにきょとんとした表情をした。 「違いますよ。椿は人がいればああなんです。本来、彼女は志乃ではなく真と一緒にいるのですがね。」 「…そうか。」 真、とは先程慧に聞いた狐の名前だ。 慧も信頼している志乃の仲間のようなものらしい。硬派な男で背丈もあり、仁義には熱い。自分の意思を持つ立派な方です、と慧は言っていた。 「刹、」 「ん?」 「お忘れかもしれませんが、瑠璃先さんらに会いに行ってくださいね。悩んでましたよ、瑠璃先さん。」 「…あぁ。」 刹は重く返事をした。 0328 わー。 なんか椿さんメインでした。 薄桜鬼熱は冷めてきましたが空を〜は大好きなので頑張りますよー!! 雪子 - 62 -
← back → |