満たされたら終わりの合図 微かな色香が鼻をくすぐっていた。森の中での不思議な出会い。それはストンと体に馴染み、違和感を薄れさせていった。 明らかに変わってしまった自分自身にも何も感じなくなってきていた。ただ思うことがあるとすれば、それは己とすべてを共有してきた二人の存在。つきんっと胸が痛んだ。 「……臭い。」 ふと、帰路を辿っていた時だった。もうすぐで屯所につくというのに、場に合わない強い香の匂いが鼻をついた。先ほど森で嗅いだ様な大人しい香りとは真逆のそれ。そして、刹はその中に珍しい匂いが混じっていることに気づく。 「狐、慧か?」 がさりっとその匂いの根源に近づいて草木を払いのけた。棘のある殺気が自分に向けられている。誰だ、という答えは言わずもがな。彼女は狐だ。きつい色香で失せてはいるが、目が暗闇で光っている。 「ふん!志乃から聞いてた犬ね…。いいわ、最近退屈だったの!貴方が慧様といるべき人間か私が見てあげる!」 いやらしく歪められた口元にぞわりと産毛が逆立つ。反射的に伸ばした刀に比例するように高い音が響いた。 「きつい匂いだな。それじゃ色気も消えるぞ。」 近い至近距離にその香りは堪えた。嫌悪を思いっきり顔に表して吐き捨てる。すると面白いほどに少女の顔は歪んだ。 「貴方には分からないわ!汚らわしい犬如きには、ねっ!!」 思いっきり叩きつけられる刀に刃が悲鳴を上げている。馬鹿力めっ。刹は悪態をついて、すぐに構えを正して切りかかる。 「そーらぁっ!」 小競り合いで少女は片手を離した。すぐに目で追えば白い刃が目の前に迫っていた。ちりっとした痛みが首から上を掠めた。 ぽたりっと手のひらにそれが落ちる。自分よりも細腕のくせに二刀流、質が悪い。…だが、血生臭い匂いがまだ口の中に残っているせいか、はたまた珍しい二刀流者に出会えたからなのか、どっちにしろ刹もこの戦闘には興奮していた。 「いいじゃないか。」 ちらりと慧を見れば薄い笑みを浮かべている。なるほどっと刹も口角をあげた。顎から伝う血を強引に拭う。 「本気で来なよ。俺は強いぞ?」 「そうこなくっちゃ!」 月明かりの下で幾度と無く刀が交わる。 *** 「刹、貴方も一杯どうです?」 慧から出してもらった酒を一気に煽る。二つ隣では手合わせしていた少女も酒を煽っている。彼女は椿、という名らしい。名は体を表すというが、彼女を見ていればなんとなくそれが理解できる。 「ちょっと!慧様に酌をさせるなんてっ!」 「椿、」 「慧様!でもっ」 二人を見ていると原田と慧が浮かぶ。主従関係とは面白いものだ。 「っていうか、なんで犬の癖に傷がないのよっ!これじゃあ負けたみたいだわ!」 きぃきぃと高い声で怒鳴る姿は正直うるさい。さり気なく触れた自分の顎は、確かに傷がなくなっていた。 「…便利な体になったものだな。」 酒を煽りながらもどこか他人事のように呟いた。 0328 椿さんが素敵だ!第一声変態臭くてごめんなさい。椿さんがナイスバデーだと聞いてにこにこしながらキーボード打ってましたっ。薄桜鬼熱が冷めてきたという雪子さんへ、私も似たような感じですが簡潔まで頑張って走りましょう! 暴走してごめんなさい。 芹 - 61 -
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