その目映さに眩暈がした ガウン、と銃が鳴るあの夜。 まだ、耳にこびりついてとれないあの音。 鬼の襲撃は、彼女の運命を変えてしまった。 なんのための襲撃か。風間千景が雪村千鶴を本格的に奪おうとしたがための計画。その雪村さんはさらわれることなくきちんと土方さんたちに守られた。今はぐっすり眠っているのだろう。 そして、風間千景が刹に対して笛を試した…。あの笛の効力は知らない。同じ動物だからといって人様の事情を全て知るわけではない。でも、問題は……彼女が、羅刹となったこと。 「鬼の力…あの笛に、たかが変若水で抗えると思ったのですか?」 「あぁ。それしかなかった。それに、事実…抗えた。」 慧は静かに月を見つめた。傍にいる刹からは犬でありながらどこか不吉な雰囲気が漂う。 「軽蔑したか?」 彼女の柔らかな髪が肩口から流れた。 「……いいえ。でも、軽率だとは思いました。」 私は月を見上げた。見上げ瞬間、月は雲に隠れてしまった。 「……悲しいのは、」 「?」 「悲しいのは、貴方が私に…貴方を殺すという選択しか与えてくれなかったこと。」 「……。」 「……任せてください。貴方がどうにかなった際には私が終わらせます。」 すまない、と彼女が下を向いた。私は別に彼女を攻めたかったわけじゃない。ただ、裏切られたような…。彼女が悩んでいたことは知っていた。なのに、こんなにも簡単に……羅刹になることを選んでしまうなんて。 「……不思議ですね。貴方が私に頭を下げるなんて、」 「……そうか?」 そうですよ、といいながらも笑ってしまった。笑い終わり、ふうと息を吐く。 「彼方や、総司は気にするんだろうな……。」 刹は憂いの表情で笑う。私はそんな彼女の儚さに胸によくわからない感情が走った。 「……今は夜だから寝てますが。明日の朝から質問攻めですよ。」 「質問ですむかな。」 「さぁ、どうでしょう。」 刹はじとりと私を見た。私はそんな彼女にわざとらしく笑って手を差し出した。彼女はわけもわからず私の手を握る。 「……慧?」 「私も、頑張ります。」 「え、」 「平助や斎藤さん、貴方のぶんの穴を埋めるために。羅刹の体は制限がありますからね。」 刹は悪戯に笑って言った。 「残念ながら、隠居するのはまだまだ先かな。」 そんなことだと思ってた。彼女らしい悪態のつき方に、私は仕返しだとばかりに手に力を込めた。 1116 こんなのでよいのか? 雪子 - 58 -
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