かみさま、きいて 頭が、ずきんずきんっと痛い。立てば眩暈のような感覚が体を襲い、発作のように呼吸が苦しくなる。ひゅっと空気が吸えなくなって、げほげほと咳き込む。それを繰り返し繰り返し。収まったのは夜の刻限だった。 「げほっ、げほっ」 すぅっと息を吸って、まだ覚束ない足に力を入れた。壁を伝うようにたちがる。そこへ、一瞬だけ。ふっと陰のようなものが指した。顔をあげるも、何も無い。嫌な予感がしてその陰が向かった方へ足を運んだ。 「――…きゃああああ!」 雪村の悲鳴。聞こえてきたと同時に振り下げられようとしている刀に時が止まったような気がした。咄嗟に体が前に出る。刹那、背中に熱い痛み。 「ぐっ!」 「西条さん!?」 するりと切れた帯が落ちる。じんわりと背中に流れる熱いものが寝間着を汚していくのが分かった。酷く、不快だ。 「土方さん!」 「こっちへ来い!」 土方さんが現れたと共に原田の槍が羅刹の胸を貫いたのが見えた。倒れた羅刹を中心にどくどくと広がる血溜まり。手を伸ばして、その肉を噛みたくなる。噛んで、食べたいと思った。 そこから先は、覚えていない。 *** その三日後に目が覚めた俺は、彼方から“御陵衛士”と言う言葉を耳にした。なんでもあの胸糞悪い男、伊藤が隊を二つに割ろうとしているらしい。それに一君と平助がついて行くということも。彼方も手を上げようとしていたらしいが、俺のこともあり止めたらしい。 「まぁ、僕の場合はついて行くと言うよりも密偵の予定やってんけど。さすがに刹がこんなんやと、安心して留守もでけへんわ。」 「手間かけたな。」 「そう思てるんやったらええけど。あの時、総司が大変やってんで。」 「総司が?」 「顔真っ青にして、刹を抱き上げたと思ったらすぐに山崎君の所に走ってしもてん。」 「へぇ、」 背中の傷は、まだ塞ぎきっていないのか痛んだ。山崎君に聞いた話だとぱっくり皮膚が裂けていたらしい。しばらく安静にと言うことだ。 「それにしても、まさか平助達がおらんなるて思わんかったのにな。」 「あいつらが決めたことだ。俺達は口出しすることもない。」 「相変わらず、冷たいなぁ」 彼方の手を借りて床に体を戻す。散らばった髪がうっとおしいしいが、睡魔に負けて簡単に瞼が落ちてくる。発作もなく眠れたのは、久しぶりなような気がした。 0810 今だけは、安らかな眠りを。 - 51 -
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