空を見上げた1 | ナノ
ぼくらはここにいたかった

主を大切に思う狐の一族。その絆は強く儚い。動物と、人間。圧倒的に生きる時間が違っていた。


「あんたは、罪を償いたいんだな。」


刹は言葉を紡ぐ。まるで自分達片割れのことを言うように。


「あんたの罪は、償えるさ。例え、生涯をかけてでも。」


それに、と刹は言葉を繋げた。


「慧、罪の償いは…互いを信頼し、契った主に仕え続けることなんじゃないのか?」


慧は目を見開く。頬を伝っていた涙が、途切れる。刹は目を瞑る。そして、そっと首筋に爪を立てた。


「慧が罪を背負っているなら、俺は一体何を背負っているんだろうな。」


生まれてきたというの罪。生きているという罪。犬と人、選べない罪。罪、罪、罪。


「今の俺は、ただ首に付けられた縄を喰い千切ろうとする無様な犬だな。」


そうして、瞳を開ける。慧を見れば、悲痛そうにこちらを見ている。


「山犬に、自由はないんだ。」


懐から、真っ赤な液体を取り出して自嘲気味に笑った。




◇  ◇  ◇





「環。」


片割れの名を呼ぶ。さわりと木々が揺れて、その黒い姿が目に映った。


「貴方から呼ぶなんて、珍しいですね。」


「そうか?」


苦笑いを浮かべて、環に近づく。


「山犬でもなく人間でもない俺達が生きられる時間は短いといったな。」


「そうです。長く生きて人間で三十歳までだと私は思っています。」


「羅刹になれば、少しは長く生きられるか?」


環は首をふる。そして、眉を潜めた。


「貴方達は勘違いをしている。羅刹は傷の治りが早いが、それはあくまで命を削ってのことです。」


「命を、削る?」


「普通の人間が長く生きる中で、少しずつ使う力の源。生きるもの全てはそれを命と言います。」


刹は目を見開いた。そして、驚愕の色に染まる。それは、刹が思っていた以上に早くこの世を去るということ。これからの新選組を見届けることが不可能ということ。あの人の背中を、守れないということ。


「分かりますか、刹。どうやったって私達は長くは生きられない。それが私達が償う罪です。罪は償わなければならない。私は命と復讐で、貴方は命と誇りをもって。」


「……っ。」


「決断をしてください。私も、いつまでもこの地に足を置くわけにもいきません。」


それは忠告。放っておくと、本能に飲まれてしまう。


「それと、くれぐれも笛の音には気をつけてくださいね。」


「笛?」


「ええ、この世の中で我らを縛る憎き笛の音です。」




0722


もう、脱力。ちょっと疲れました。さてさて次は御札事件ですね。慧さんの出番ですかね。雪ちゃんよろしくね!






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