甘やかな躊躇い 慧は自由という言葉を口にした。それにどんな意味が含まれているのかは分からない。それでも思い浮かべた人物は一人、そう環のこと。あいつもまた似たようなことを言っていた。あのあと環が言った言葉。“長くは生きられないからこそ、自由に生きろ”不思議と恐怖することも拒絶するようなことも無かった。だけど、諦められないことはある。新選組の皆や近藤さん、それに彼方と…総司。 「君もまた、酷い傷の持ち主だ。特に背中と鎖骨の下。」 松本先生は抉られた様な傷跡に手を滑らせる。もう二度とは消えない傷。自分が、覚悟を決めたときの傷。 「この傷はいつのものだ。」 「幼少です。自分でしました。」 その言葉に後にいた慧と松本先生は驚いたように目を見開いた。それを最後に傷口を隠すように着物を羽織る刹。松本先生はもう、それに触れないように話を逸らす。聞くなというような刹の雰囲気を理解してのことだったのだろう。 「…わかった。君も慧君のように今後の傷薬を出しておく。」 そういって、今度は心臓付近に触れたり首筋に触れたりということをする。そして、松本先生は神妙な面持ちを刹に向けた。 「君は、何かの病持ちだったことがあるのか?」 「いえ、ありません。なにか問題がありますか?」 質問を質問で返し、刹は松本先生の答えを待つ。すると松本先生は思いもよらなかったことを口にしだした。 「心の臓。音が一般の人よりも遅く、弱い。動機や息切れと言ったことは今までになかったのか?」 「…ありませんでした。」 「本当か?」 「本当です。」 しばらく、沈黙が続いた。慧はその成り行きを静かに見ている。それから、すぐに松本先生は刹が望まないであろうことを口にした。 「このまま放っておくということは、医者の私にとっては出来ない。近藤さんや土方さんに伝えさせてもらう。」 「っ!」 松本先生の言葉に眉間に皺を寄せる刹は、そんなことは許さないと口にした。慧は思う。刹もまた沖田総司に似ていると。 * * * 「慧、さっきは助かった。」 「いえ、なんとなく気持ちは分かるので。」 松本先生の交渉に救い舟を出したのは慧だった。そのお陰で松本先生は黙っていることを二人に約束をした。今思えば、あの医者が絶対に黙っているという保障は無いような気がする。 「心の臓のことは、なんとなく自分でもわかっていた。」 「環さんからですか?」 その問いに首を横に振る。 「池田屋のあとくらいから、体調がおかしかったのもあった。理解したのはそれからすぐだ。環は、全部知っていたがぎりぎりまで言わなかった。」 ぎゅっと心臓辺りの布を握り締めて、刹は笑う。そして、言う。こんな体でも、もっと近藤さんの為に使いたいと。慧は刹の心臓に手を当てた。 「西条さん。…いえ、刹。貴方はもっと自分を大切にすることです。そんな体でも、誰かは貴方を心から心配しているんです。」 慧は笑う。刹も困る。 「慧、聞いてくれ。…もしも、俺になにかあったときは。すべてを総司と彼方に話して欲しい。二人だけでいい。きっと、二人は理解してくれると思うから。」 そういって、ただ静かに笑った。 「でも、それじゃあ刹は……」 慧が言葉を発しようとしたとたん、刹の目つきが変わった。 「………来る。」 「鬼、ですね。」 「あぁ、行こう。」 0722 もう、文がグダグダすぎて言い訳も出来ないよ!でもなんか、こんな刹と慧いいな。CPとはいわないけど、刹と慧の絡みは大好きです← 芹 - 45 -
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