空を見上げた1 | ナノ
甘やかな躊躇い

慧は自由という言葉を口にした。それにどんな意味が含まれているのかは分からない。それでも思い浮かべた人物は一人、そう環のこと。あいつもまた似たようなことを言っていた。あのあと環が言った言葉。“長くは生きられないからこそ、自由に生きろ”不思議と恐怖することも拒絶するようなことも無かった。だけど、諦められないことはある。新選組の皆や近藤さん、それに彼方と…総司。


「君もまた、酷い傷の持ち主だ。特に背中と鎖骨の下。」


松本先生は抉られた様な傷跡に手を滑らせる。もう二度とは消えない傷。自分が、覚悟を決めたときの傷。


「この傷はいつのものだ。」


「幼少です。自分でしました。」


その言葉に後にいた慧と松本先生は驚いたように目を見開いた。それを最後に傷口を隠すように着物を羽織る刹。松本先生はもう、それに触れないように話を逸らす。聞くなというような刹の雰囲気を理解してのことだったのだろう。


「…わかった。君も慧君のように今後の傷薬を出しておく。」


そういって、今度は心臓付近に触れたり首筋に触れたりということをする。そして、松本先生は神妙な面持ちを刹に向けた。


「君は、何かの病持ちだったことがあるのか?」


「いえ、ありません。なにか問題がありますか?」


質問を質問で返し、刹は松本先生の答えを待つ。すると松本先生は思いもよらなかったことを口にしだした。


「心の臓。音が一般の人よりも遅く、弱い。動機や息切れと言ったことは今までになかったのか?」


「…ありませんでした。」


「本当か?」


「本当です。」


しばらく、沈黙が続いた。慧はその成り行きを静かに見ている。それから、すぐに松本先生は刹が望まないであろうことを口にした。


「このまま放っておくということは、医者の私にとっては出来ない。近藤さんや土方さんに伝えさせてもらう。」


「っ!」


松本先生の言葉に眉間に皺を寄せる刹は、そんなことは許さないと口にした。慧は思う。刹もまた沖田総司に似ていると。




* * *




「慧、さっきは助かった。」

「いえ、なんとなく気持ちは分かるので。」


松本先生の交渉に救い舟を出したのは慧だった。そのお陰で松本先生は黙っていることを二人に約束をした。今思えば、あの医者が絶対に黙っているという保障は無いような気がする。


「心の臓のことは、なんとなく自分でもわかっていた。」


「環さんからですか?」


その問いに首を横に振る。

「池田屋のあとくらいから、体調がおかしかったのもあった。理解したのはそれからすぐだ。環は、全部知っていたがぎりぎりまで言わなかった。」


ぎゅっと心臓辺りの布を握り締めて、刹は笑う。そして、言う。こんな体でも、もっと近藤さんの為に使いたいと。慧は刹の心臓に手を当てた。


「西条さん。…いえ、刹。貴方はもっと自分を大切にすることです。そんな体でも、誰かは貴方を心から心配しているんです。」


慧は笑う。刹も困る。


「慧、聞いてくれ。…もしも、俺になにかあったときは。すべてを総司と彼方に話して欲しい。二人だけでいい。きっと、二人は理解してくれると思うから。」


そういって、ただ静かに笑った。


「でも、それじゃあ刹は……」


慧が言葉を発しようとしたとたん、刹の目つきが変わった。


「………来る。」


「鬼、ですね。」


「あぁ、行こう。」





0722


もう、文がグダグダすぎて言い訳も出来ないよ!でもなんか、こんな刹と慧いいな。CPとはいわないけど、刹と慧の絡みは大好きです←





- 45 -
← back →