それでも幸せ 「お前さんの病は労咳だ。」 彼に告げられたのは残酷な死の宣告。 「……。」 隣では山崎さんが耳を澄ませている。私は耳を傾けずとも内容は響いてくる。 沖田さんは自分の意思を述べ、医者の松本さんは渋る。 「……、」 結果が見えたため、私は山崎さんの肩をぽんと叩くとそこを後にした。中に戻るときに見えたのは雪村さんの驚いた顔。 中に入ってからも私は自然と耳を寄せてしまう。刹や、近藤さんたちには言わないでね。という沖田さん。 沖田さんと私は似ているのだろう。酷く、誰かを一途に思いすぎる気持ち。 * * * 「原田くんと近藤さんから二人の健康診断を強く頼まれてね…。」 私と西条さんは顔を見合わせた。 「私は構いませんよ。」 「俺もだ。」 松本さんは頷くと私たちに座るように促した。 「どっちからする?」 「……では、私から。終わりましたら出て行きますので。」 西条さんは私の発言にきょとりとした後余計なお世話だと笑った。 診断が始まり、口を開けたり腹を押さえられたり…。結果、驚くほどに異常はないらしい。西条さんは壁にもたれながら終始私を見ていた。……別に狐だからって擬態では細部まで人と同じなんだが。 そして、もともと性的概念も何もない私は素肌を見せることに抵抗はなく指示されるまま、するすると上半身を脱ぎ、腕の包帯を剥がしていく。 「……これは、」 一応胸のさらしはそのままに。 「…傷は、痛まないか?」 「いいえ、全く。全て昔の傷ですので。」 傷は引き攣り、醜いままだ。 「この傷は酷いな、随分血を流しただろう。」 彼は私の腹を指差した。 慧は愛おしそうに傷を撫で、呟くように語る。 「名誉の傷ですよ。…あの人は、そう感じはしないでしょうが。」 「……新選組ではこのような傷が残る任務をさせられるのか?」 「いいえ。近藤さんたちの元に来る前です。殆どそうですよ。新選組に危ない任務がないかと言われれば違いますがね。」 「……そうか。一応薬を出してあげるから今後傷を負った場合はそれを患部に塗りなさい。」 「ありがとうございます。」 服を着ていくと西条さんと目があった。 「…何か?」 「いや、」 気まずそうに顔を逸らす彼女。松本さんは先程薬を取りに行くとここを離れた。私たちは暫く待たなければならない。 「酷い傷だと思いますか?」 「…悪い、」 「謝らなくていいです。私なんかより、貴方の方がきっと酷いでしょうから。」 「…何故、そう思う。」 「……私には生まれ持った力がありましたから。」 微笑んで見せると何故か悲痛な表情をされた。 「あんた、」 「はい。」 「あんたは一体、何故人の地に来たんだ?」 「……。」 慧の驚いた顔に刹もまた驚いた。 「……自由、」 「え?」 「自由は、当たり前のはずだったんです。」 私には、当たり前がなかったのだと言った慧に、刹は環を思い出した。 0722 なんだこりゃ、な話。 続きどうかよろしく。 雪子 - 44 -
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