僕の汚れた宇宙 環は走っていた。走って、走って、刹たちのいる場所に向かったときには、もう鬼の気配は消えていた。 「刹、」 「環…。」 刹は環の手を見て驚いた。と、同時に何処か渇く喉にも苛立ちを感じた。それを直ぐさま察知した環は手の止血に当たる。 「…大丈夫なのか?」 「貴方こそ。」 刹は大丈夫だと言うように頷いた。 「そっちは?」 「平気ですよ。…クナイに毒が塗られていなかっただけましです。」 「やはり、日向…。」 刹はなんとも言えぬ顔をした。 「貴方が気にすることではありません。それより…一体、どういう状況です?」 環は辺りを見渡した。雪村千鶴は土方に不安そうな顔をしながら鬼なんて知らない、と言う。 「女鬼、ですか。」 「環、知っていること全て、話してもらいたい。」 刹は意を決したように言った。 「…時期が来ればいずれ。」 だがそれはするりとかわされる。刹も大して期待していなかったのかその話はそこで終わった。 「刹!」 「彼方、」 「僕は隊士たち見て来るわ!こっちは任せたで!」 彼方は走り去る。刹は少し後ろめたい気持ちがあったが冷静に返事をした。 「瑠璃崎、彼方のこと…忘れないでくださいね、刹。」 「言われるまでもない。…それより日向は?」 「彼女なら隊士を纏めるとか。まあ、この場に来たくない理由はいくつかあるでしょうが。何より彼女にとって私は邪魔で邪魔で仕方ない存在のようですから。」 環はふっと笑った。 「…日向は、理由なく何かをする奴ではない。」 「…刹は、彼女のことを信用しているらしいですね。」 「仲間、だからな。」 環は悲しい顔をしたが、刹は気付かないふりをした。 「彼女は、私が貴方に教えたこと、私がここにいること。全てが嫌なんじゃないですかね。…彼女に、言われました。貴方に選択肢を与えろと。」 「……そうか。」 「これでも、与えてるつもりなんですが…。まあ、彼女が刹をこちら側に来させたくない理由なんて目に見えていますが。」 「……。」 刹はこの話はもう終わりだと言いたげに口を閉ざした。環もそれに習う。 刹は思う。 自分の人生はいったい何処から狂い出したのか。それより、元から狂っていたのか。 自分が日向慧という女に出会ったのもまた、運命のひとつなのだろう。自分がもっと徹底的に彼女を嫌っていれば今、こんな関係にはなかったのか。そもそも、彼女は自分を嫌ってはいなかったはずだ。彼女が俺との関係を苦手とするようになったのは、自分の一番最初の行動。でも、不器用、だから。簡単にはできなかった。 「まだまだ、餓鬼だな。」 日向慧には見習わなければならないところが沢山ある。 勿論、直してほしいところもある。それは、譲らない。 入り組んだ迷路のような関係を思い、ふっと笑う刹に環は疑問符を頭に浮かべた。 月が、綺麗な晩のこと。 二条城の上洛の警護は、風間千景率いる天霧九寿と、不知火匡の鬼と名乗る者たちの強行により幕を下ろした。 静かな波紋を残しながら。 0507 風間さんに言わせたい台詞があったけど環さんがいてるからいいや。 芹さん…ここから頑張れますでしょうか? 雪子 - 40 -
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