空を見上げた1 | ナノ
闇に紛れて生きてゆく

「………。」


西条さんたちが目の前を駆けて行く。環さんと目が合った。無意味な、憎悪…。


「環、さん。」


「…刹達は先に。」


立ち止まった環さんに声をかけられた二人は先に行く。西条さんは最後まで私を気にしていた。


「速く行かないでいいんです?」


「構わない。」


「あぁ、鬼がいるんだ。貴方には無理でしたね。」


「……否定は、しない。」


月が雲の中でちらちらと顔を出す。月が、顔を出す。


キンッ!と刀がぶつかる音が響く。


「好戦的、ですね!」


環さんは私の初撃を受け止める。ギリギリと嫌な音がする。


「西条、環。先程の話は聞かせていただいた。」


「でしたら?何か問題が?」


彼女の瞳が黄色く光る。
私の瞳も黄色く、赤く色を帯びる。


「大有りだぁっ!」


私は持ち前の力で彼女を薙ぎ払う。彼女は綺麗に着地をすると刀を構える。私は自分でも大声を出したことに驚愕しつつ彼女を見据える。


「狐風情が私に勝てると…?」

「ああ。勝てる。」


環さんは鼻で笑った。


「女狐が…。刹をこちら側に行かせないように、ですか?美しい友情ですね。それとも、自分のため?」


「私は、彼女に選択肢を与えろと言っている。」


「…ふん。何も知らない癖に。」


彼女は私を睨む。西条さんと、同じ顔。姉妹…か。


「知らないな。知る必要もない。だが…、貴様の行動は目に余る。」


「…。」


「私は、お前を殺してもいい。」


「そうすれば貴方が死ぬだけです。まず、貴方は私を殺せない。私は刹と同じ顔なのだから!」


環さんは私に向かって来る。また、刀が合わさる。


「…成る程、噂通り力では敵わないらしいですね。」


「…ふん。」


私はまた薙ぎ払う。このままでは堂々巡りが続くだけだ。私は冷静になり、忍刀を腰にしまう。すると環さんも刀をしまう。空気が読めるらしく安心。


「…私は、別に戦闘がしたいわけではない。」


「私は貴方が食べれるならいくらでもお相手しますがね。」


「…食えないよ。」


「?」


「お前に、私は食えない。」


私がそう言った瞬間、影から何かが飛び出し彼女の行動を塞ぐ。


「何です!?」


「慧様、こいつ…どうします?殺します?」


「やめろ、志乃。」


環さんは卑怯な…、と呟いた。


私は歪んだ笑みで彼女を見下ろす。


「卑怯で結構。新選組に意味なく入り浸るお前に、言われたところで…同じだからなっ!」


「…っぁっ…っ!」


私は彼女の手の甲にクナイを突き立てる。


「犬だ。鬼とまではいかずともすぐに治るだろう?」


慧はそのクナイを足で踏む。


「日向慧、この名前を知っているか?」


「……?」


環は苦しそうにもがきながら慧を見る。志乃の力には勝てず彼女は成すがまま。


「知らない、か。私はどうやらそこまで有名人ではないらしい。」


「慧様、お戯れはここまでにしておいてください…。」


志乃めが疲れます、と明らか私情と冗談を挟んだ彼を見る慧。

環はようやく疑問に思う。


「……慧、様?」


慧は歪つに笑う。


「私が、蝦夷地の狐…日向家の頭首だ。血統があろうがなかろうが、犬だろうが狐だろうが…、お前が一族の中でどれほど強かろうが…。」



私には勝てないよ。



慧は堂々と言う。この自信は西条刹が未だこちらにいるという事実と、姿こそ見せないが危険には必ず駆け付ける志乃という存在によるものだろう。


「志乃の気配には、気付かなかったようだな。」


「………。」


慧はぶしゅ、と溢れる血と共にクナイを抜く。


「…これは…そう、警告、ですかね。あまり西条さんに色々与えないでください。瑠璃崎さんのことなど、貴方には言いたいことが色々あるらしい。ですが私からすれば貴方の行動は、西条さんを引き込みたいがためだけの行動。」


慧は志乃に押さえ込む彼女を解放するよう指示を出す。


「……よろしいので?」


「いい。」


環はゆるりと立ち上がる。


「………。」


「…………。」


「……足掻きに、見えますか。」


「私がそう感じただけ。」


「確かに、そうかもしれません…。ですが、一族には彼女が必要なのです…!」


暗くて、彼女の表情は、見えなかった。環はそれを言うと刹の元に急いだ。


私はその背中を見送り息を吐く。


「…行かないんですか?」


「行ってどうする。私は、隊士を纏める。幹部は皆、出払っているらしいからな。」


「……みたいですね。」


くんくんと鼻を鳴らす志乃。


「志乃、お前は何かあったときのためあちらに向かえ。」


「はい、慧様。志乃めにお任せを。…しかし、よく環、でしたか?免疫のない貴方が堪えられましたね。」


志乃は素直に感心しているらしい。


「…虚勢だよ。相手にそう見せれればそれでいい。…それに、彼女は長がだれであるか。同族殺しのあの件を知らないらしいからな…。」


「…………。」


「私の平穏も、終わるな。」


志乃は頭を下げ、姿を消した。私はそれを見送ると隊士たちの元に向かった。




0408


二条城は刹のターンにしたかった雪子です。環さん…え、あんなキャラ…?土下座します。ごめんなさい。慧には環さんの手を刺させたかった…。←

慧は一族の長、ここ重要!血ぼたぼの環しゃんが向かいます。
無理させてごめんなさい…。


雪子


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