例えばの話 例えば、私が人間だったら。私は人間で、ただの町娘で、そしたらあの人と出会うことはなかったのかもしれない。 でも、時折思ってしまうのだ。私が人間だったらあの人はあんなにも私のことで世話をやく必要はなかったのではないかと。 所詮もしもの話だ。でも考えずにはいられない時期もやはりあったのだ。 今日は西条さんに異端と言われた。確かに、この中でなら私は異端だ。彼女は、山犬と言われたらしい。その、金糸…つまりは鬼に。風間千景、とみていいだろう。彼がそういうなら彼女はそうなのだろう。 ようやく私の中で全てが繋がったというもの。彼女に入れた血が彼女の覚醒を促してしまう結果になったのだろう。 山犬、と言ったって所詮は犬。狐だってただの食われる側ではない。 「……これ以上、問題を起こしてくれるなよ。」 鬼と、西条さんに向けての言葉。 彼女自身は自分の存在をすんなり受け入れるわけにはいかないらしい。これから沢山の葛藤の中で苦しむのだろう。受け入れてしまえばいい。全て。潔く。 いや、それは私の立場が……なんというか。 「だが、やはり人間でいられるなら人間の方がいい。なあ、志乃?」 草から出て来る大人の狐は、私の足に擦り寄ると人型をとる。 「そうですね。人間として生きてきた人間には過酷やも知れませんしね。動物特有のあの飢え。お腹が空いて仕方ないっていう、あれ。人間の彼女に生き物を食えというのは過酷ですしね。」 「それもあるが…、まあ、そんなのは食べ物がつきたときだけでいい。問題ないだろう。それより離れろ。」 「えー。」 足に絡み付く両手を振り払うと私はしゃがむ志乃の横にしゃがみ込む。 「酷だな。人間として生かせてやればいいものを。」 「仕方ありませんよ。」 「……次、鬼が何をするかによっては動く必要があるな。」 「できるんですか?そんなこと。」 「やる。」 からかうような志乃を一計する。 「…でも、慧様ってあの少女、嫌いなんじゃ?」 「苦手なだけだ。…この組織に支障を出されてはたまらないからな。」 志乃はにっこり笑って、消えた。 志乃が消えた場所には砂埃がまう。 慧も立ち上がると自室に足を進めた。 0402 主人公納得。 これからは頼るべきお姉さんになれたらいい。 雪子 - 35 -
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