じわじわと広がってくる意識 ずきんずきんと頭が痛む。一体どうしたと言うのだろうか、びりびりと焼けるように熱くなっていく体に違和感を覚える。 「っ…、」 また声が聞こえる、不快で不愉快極まりないあの男の声が…。 "山犬" うるさい、何が山犬だ。俺は、人間だ、…だが、何かがそれを否定する。違う違う違う違う違うお前は山犬、狡賢く狡猾な山犬と、ずきずきずきずきまるで頭の中で早鐘を打つようだ。意識が朦朧として立っていられない。ぎゅっとあの匂袋を握り締める、鼻を掠める桜の香がずたずたに乱れる精神を宥めた。 「……はぁ、」 もう一度息を吐き出す。つっと背中に溜まった汗が流れた。 「!」 すたすたすたと誰かの足音が近づいてくる、おそらくこの音は日向だ。俺は内心焦りのようなモノを感じながら重い体を持ち上げた。 「…何をなさっているんですか?」 「…っ、」 一歩遅かったと内心舌打ちをする。だが今は誰にも近づいて欲しくない。特に日向には、何故かこいつには異様な感覚がして神経が逆撫でされているみたいだ。 「大丈夫ですか?」 「近づくな!!」 ぜぇぜぇと荒い息を繰り返して日向を見た。ずっと一歩下がったのが分かる。その表情には焦りと畏怖が見え隠れしていた。 「……悪い、だけど今は近づかないでくれ。俺、どうにかなりそうなんだっ」 *** 「おいお前顔色悪いぞ、」 運が悪いことに土方さんに見つかった。今は一番見つかりたくなかった人物だ。こんなぼろぼろの状態じゃいつ戦に出してもらえなくなるかわかっちゃもんじゃない。 「別に顔色は悪くありません、」 「嘘をつくな、どうせまた戦に出してもらえないからとかで我慢しているんだろ?」 「…嘘なんか、」 「………はぁ、ちょっと来い。」 「?」 土方さんに呼ばれるままに後ろを着いて行く。 「近藤さん、連れてきたぜ。」 目の前には緊張感にも似た表情の近藤さん、また説教でもあるのかと少々逃げ腰になりそうだ。 「刹、最近体調が良くないとは本当か?」 「誰から聞いたんですか。」 「彼方だよ、お前が変な咳してやがると言っていたからこうして近藤さんが心配してんだろうが。」 土方さんの説明でなるほどと思い、同時に彼方に言いようの無い殺気が募った。 「咳は収まりました、だからもう心配は無用です。」 「だが、何故それを最初に言わなかった。お前の父親としては凄く心配でならなかったんだぞ。」 「そのことについては謝ります。」 「…そういうことを言ってんじゃねぇよ、近藤さんは。」 「?」 「一人娘だから余計に心配してんだろうが、それくらい察してやれ。」 「土方さん、」 「あぁ、歳の言うとおりだぞ。子が苦しむのを親が黙ってみているのも中々気が重いんだ。」 「…すみません。」 分かればよろしいと頭に大きな手が乗る。先ほどまでの苦しい気持ちが嘘のように晴れていく。この人は本当に日のように暖かい人だ。 「ありがとうございます。父様、それと歳兄さん。」 二人は驚いたように目を見開いていた。それに苦笑いする。 「今は義娘なんですよね。」 「あぁ!!刹は俺の大事な娘だ!!」 「誰に似たんだか、俺もお前は大事な妹分だよ。」 「ありがとう、」 *** 「日向、」 俺はずっと避けていた日向に声を掛けた。 「なんですか、西条さん。」 「さっきはすまなかった。無闇に殺気なんか向けて、」 「気にしていません。」 「ならよかった。…で、あんたに聞きたいことがある。あんたは、日向慧は本当は何者だ。」 「何者というと…?」 「前に日向に聞かれてちゃんとは答えなかったが、あんたは、日向は少なくとも大事なことを他言しない奴だ。あの池田屋の日、金糸の男とであった。」 「それは聞きました。」 俺は日向の瞳を見つめ、ゆっくりと口を開いた。 20110118 面倒なとこでとめた! なんか刹って優柔不断なキャラになってきたな…。でも刹だって一応は一応は!女の子ですから!総司たちにもいえないことの一つや二つはあるんです!! 芹 - 32 -
← back → |