空を見上げた1 | ナノ
曖昧な響きを掴もうとして


西本願寺に屯所を移転してからはや三ヶ月。短いような長いような。
そしてつい先日、志乃から鬼、とだけが書かれた手紙が届き、雪村家に生き残りがいたと推測できる。と、いうより長年鬼に仕えていた志乃が鬼だと言ったのだからそうなのだろう。だが西条さんが鬼だとは言っていないし、私からも彼女が鬼だとは感じない。
最近はわからないことだらけで少しまいることがある。

でも、ようやくすっきりしてきた。風間たちのことも雪村さんのことも。


「慧ー!」


「…ああ、雪村さんに平助。巡察ですか?」


二人は笑いながら私に駆け寄る。平助が江戸から帰って主もなんだか嬉しそうだ。


「はい。今から巡察なんです。」


「慧も暇だったらどう?」


平助と雪村さんが私のことを見つめる。まるでお菓子をねだる兄妹のようだ。


「確かに今日は暇ですが私の中での予定が決まっていますので。」


「それって暇じゃないんじゃ……」


雪村さんがぽつりと呟いた気がした。


「まあでもさ、なんか俺が帰って来てからの刹と慧ってなんかぎくしゃくしてるもんな〜…」


「…何故西条さんの名前が?」


「え、いや…総司と一緒に行くみたいだったからそれ知ってて断ったのかなって。」


平助は頭に手をやりながら言った。西条さんが行くのは知らなかったし今日の私はお団子を買いに行ってぶらぶら過ごすことに決めているのだ。だから今回同行しないのに西条さんは関係ないのだが……。彼女、最近私を避けているような。私だけが一方的だったころには多少会ったりしていたのに今じゃぱったりだ。やはり、避けられている。


「まあ、どうでもいいが。」


ぽつりと呟いたときには先程まで私を誘っていた二人はもう屯所を出ていた。

ついこのあいだ、志乃が言った言葉が気になる。



「気をつけるべきは雪村さんより、彼女かもしれませんね。」



彼女は、人だ。だが、この環境の中では異端だ。昔は、そうじゃなかった。新選組、池田屋辺りから。彼女は血を入れられた、と言った。それは、風間……鬼に。それは、一方的な契約。むしろ契約とは呼べない代物だ。だが、契約といっても彼女は狐ではない。狐は狐でも皆が擬態をもつわけでもなく私の一族がまるで妖のように少し特殊なのだ。今思えば呪いとでも言えそうだ。


狐、でも鬼ではない何か。


考えていて志乃のこちら側の知識がない、という言葉を思い出した。


「………そんなことは、わかってる。」


だからこうして悩んでいるんだ。

酷く、頭の痛い話だ。




***




その後西条さん、沖田さん、雪村さん、平助が巡察から帰って来た。どうやら雪村さんそっくりの女性がいたらしい。名前は、南雲薫さん。


「南雲…」


そういえばそんな鬼の名前があったなと思った。だがこんな自分の考え方に頭を横に振った。
もうやめよう、全部を鬼に繋げるのは。


私は一人ため息を吐いた。






110118


ため息を吐いたら老けるのが早くなるって言いません?

あ、言いませんかそうですか。

ふうにバトンパスです。


雪子




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