空を見上げた1 | ナノ
白い白い絶望の中で

先日の長州の過激派浪士たちが御所に討ち入った事件は、後に禁門の変と呼ばれるようになる。新選組の動きは後手に回り、残念ながら活躍らしい活躍もできなかった。味方同士の間で情報の伝達が上手くいかず、無駄に時間を浪費してしまったのだ。だが、戦場で不思議な出会いもあった。


池田屋で沖田さんを倒した、風間千景。池田屋で平助の額を割った、天霧九寿。彼ら二人は薩摩藩に所属しているらしい。
そして、長州浪士たちと共に戦っていた、不知火匡という人物。

彼らは決して新選組の味方ではなく、むしろ強大な敵と言える存在なのだ。敵対関係にならないことが一番だがそうもいかないだろう。


そしてこの禁門の変の結末。長州の指導者たちは戦死し、また、自ら腹を切って息絶えた。だが、中には逃げ延びた者もいる。彼らは逃げながらも京の都に火を放ったのだ。運悪く北から吹いていた風は御所の南方を焼け野原に変えてしまう。この騒ぎが原因で、尊王攘夷の国事犯たちが一斉に処刑されたとも聞く。そして…。京から離れることを許された新選組は、大阪から兵庫にかけてを警衛した。乱暴を働く浪士たちを取り締まり、周辺に住まう人々の生活を守ったのだ。


この禁門の変の後。長州藩は御所に向けて発砲したことを理由に、朝廷に歯向かう逆賊として扱われていく。この事件がきっかけとなり、長州藩は朝敵とされたのだ。


こうして、この事件は幕を下ろす。





***




あの事件から数日。未だになかなか外に出してもらえない西条さん。おかげで食事を持って行ったら睨まれた。最悪なことに怯んだ。悟られてなければいいが。


彼女に食事を渡しぶらぶらと屯所を歩き回る。稽古してもよかったのだが生憎今はそんな気分ではない。

ふと香ったのは酒の臭いと彼の臭い。はあ、とため息をつき現場へ向かうと縁側から一人夕焼けの空を眺める彼がいた。因みに傍らには酒だ。


「よう、慧。」


「…ご飯前にお酒ですか?」


「最近は飲んでなかったんだ。そう固いこと言うなって。それに今日は非番だ。」


彼は自身の隣をぽんぽんと叩く。おとなしくそこに座るが酌をするわけでもないし喋るわけでもない。二人で紫色に変わっていく空を眺めていた。


「くぁ、」

そんな欠伸が出たのはすぐのことだった。


「飯になったら起こしてやるよ。」


彼は自身の膝を叩く。


「……、」


少し躊躇いながらもそこに頭を乗せる。主を見ると頭を撫でられた。彼は小さく髪の毛…と呟いた。ああ、そうだ。長いから切らなきゃ。主も言ってたし。


「………、」


すーすー、と寝息を立てた慧の普段からは想像できないあどけない寝顔を見ながら原田は思う。

そういえば人間の姿で慧が寝るのはいつぶりだろうか。





***




「……あれ、原田さん?」


「ああ、千鶴。」


千鶴は原田の膝を見ると口をつぐむ。


「喋ったって平気だ。寝起き機嫌最悪でぶすっ!とかもないからな。」


「は、はあ…て、お酒…。」


千鶴にも指摘され原田は苦笑いした。


「に、しても…よく寝てますね…。」


「そうだな。音には敏感だからいつもならすぐ起きるんだがな…。」


「この間のがまだ疲れてるんでしょうね。」


千鶴は慧を見ながらくすくすと笑った。原田もつられて慧の寝顔を見る。


「…まるで、死人だな。」


「死人って…。でも日向さんって肌、すごく白いですよね…。沢山外にいるのに。髪の毛とかもさらさらですし……何かしてるんでしょうか。」


「…そういうのは聞いたことはないが。気になるならまた食事中にでも聞いてみればどうだ?」


「…いえ。何もしていないと言われたときに受ける傷が深くなるので疑問のまま置いておきます。」


原田は苦笑いした。

それから千鶴はもう少しでご飯ですからね、といい律儀にお酒を持ち、勝手場のほうへ向かった。まあ、確かに自身が買ったものならともかくあれは屯所にあったものなのだ。原田もそこまで図々しい人間ではない。少し寂し気に連行されるお酒を見送った。


そんなとき夢でも見ているのか慧がふっ、と笑った。


慧の夢。それは彼との昔にあった幸せな話。
夢を夢の中から客観的に見る私は呟く。


「…平和だな。」



夢の中の私は笑った。






110114



ぶはは。タイトルとのミスマッチさはスルーで←

あと気付きました?今回の話の冒頭は柔華の冒頭だったり(笑)だってゲーム二回も写すの面倒だ。(すみません)


雪子


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