空を見上げた1 | ナノ
触れない温度があるんだ



天王山への道を土方さんの隊が駆け上がる。俺も下の方は彼方に任せて足早に隣を走っていた。近からず遠からず、何かの足音がこちらへと向かって来ているような感覚だった。


「土方さん、前方に敵。」


「なんだとっ。」


さっと立ち止まり相手を伺う。風に揺れた金糸が目に入った。


「!!?」


「やっと来たか。のろまな奴等だ。」


驚きに目を見開いているとさっと俺の隣を擦り抜けて近くにいた隊士が斬られた。はっとした時には永倉と雪村が駆け寄っているところだった。


「…まだ、成熟はしないか。」


「刹!!何ぼさっとしてやがる!!刀を抜け!!」


土方さんの声に反応するように勝手に体が刀を抜いた。すっと刀身が相手に向けられる。


「その羽織は新選組だな。まさかお前もだったとはしらなんだが…。」


ちらりとこちらを見て嘲笑うかのような視線が心臓を掴む。背中にひやりと汗が伝った。


「あの夜も池田屋に乗り込んできたかと思えば、今日もまた手柄探しか。田舎侍にはまだ餌が足りんと見える。いや、貴様等は侍ですらなかったな。」


ぎりっと奥歯を噛み締めて土方さんの方をちらりと見る。彼は笑っていた。


「お前が池田屋にいた凄腕とやらか。しかし、随分と安い挑発をするもんだ。」


「ふんっ、腕だけは確かな浪人集団と聞いていたが、この有様を見るにそれも作り話のようだな。…沖田と言ったか?おれも剣客としては非力な男だっ…」



――キーンと刃同士が共鳴したかのようだった。


「……取り消せ。」


「なにをだ?」


「総司のことを非力と言ったこと、…取り消せ!!」


力任せに刀を押し付けた、後ろで俺を呼び止める声が聞こえたような気がするが頭に血が上っているせいで理解は出来なかった。


「何故お前が、人間を構う?」


「!?」


「お前は、人では無いのだぞ?」


「俺は…!!?」


一瞬の隙が命取り。総司のそんな言葉が脳裏を過ぎる。ぐちゃりと肉が裂ける音がすぐ近くで聞こえた。耳元に掛かる金糸の奴の吐息。この男は確実に笑っているのが見て取れる。


「貴様のようなモノが此処まで愚かな生き物だとおもわなんだ。」


「くっ、」


「だが、それ相応な闘志と生き方は嫌いでは無い。」


ぐっと押さえつけられる胸元が痛い。口から血が出た。じゃぁ、と"私"は口角を上げた。


「嫌いじゃない"私"の手で、あんたを殺してあげる。」


何を思ってか、相手が離れた。体に一つ穴を開けてから。


「!!、西条さん!!」


走って近づいて来ようとする雪村に手で制して、落ちていた刀を拾った。


「いけません!それ以上動いたら西条さんが!」


「いい、どけ。」


霞む視界の中で、土方さんがすまねぇと言う謝罪のような声が聞こえた。腹部に入った鉛のように重い拳で理解する。最後に耳に入ったのは土方さんをとがめようとする雪村の声だった。




***




さきほど俺は無断で敵に突っ込むなと、くどくどと土方さんと近藤さんに怒られた。でも蛤御門での件は終わった為。後腐れは無いとやっと切り上げられたのだ。はあっと長い溜息を吐いて、自室の扉を空けると今度は総司と彼方が俺を見下ろす形でにこにこと笑っていた。その後ろには原田と日向、平助もいた。ひくりと顔が引きつったのが分かった。この後俺は正座で土方さんたちのようにまたお説教を喰らった。いや、土方さんたちよりもきついと思った。というか太刀が悪い。昔の話やら引っ張り出すものだから我慢が聞かなかった俺は切れたが…。


「まさか、刹が切れるなんてな。」


腹を抱えながら笑う原田に苛っとして抜刀でもしてやろうかと思ったが、隣で総司が黒い笑みを浮かべているのでやめた。


「それにしても、西条さんがこうなるなんて以外でした。」


「どういう意味だ、それ。」


俺と日向のやり取りに回りがくすくすとまた笑う。


「まぁ、ずっと一緒に育ってきたからね。刹のことならなんでも知ってるよ。」


「そういう言い方をするな、気色が悪い。」


「全く、大きくなってきてからどんどん冷たくなるんだよね。昔はお風呂も一緒に入った中なのに。」


「いつの話…っ!!」


ずきんと痛くなった胸元を押さえると日向が寝てくださいと背中を摩った。


「本当、ひ弱なのに無理するからだ。」


原田の言葉にきっと睨む。うぉっと驚いていたが臆したような感じでは無い。こんな体が腹立たしいと感じる。ぎゅっと握り締めた手に誰かの手が重なる。


「ほら、もう寝なよ。傷口が開いちゃ前線で戦えないよ?」


総司に無理に体を押さえつけられて布団に体が沈む。彼方曰くしばらくは安静らしい。全く持って面倒だ。


「あぁ、寝るから。手をのけろ。」





***




「本当、お前は刹に優しいよな。」


「当たり前ですよ。」


飄々と笑う沖田に原田は疑問に思った。


「お前、あいつが好きなんじゃなかったのか?」


「僕が?あの子を?」


「てっきり恋人かと。」


「だよな、だってお前らたまに一緒に寝てるときもあったんだろ?」


きょとんと僕を見て不思議そうに言う二人に彼方も笑っていた。


「…難儀やなぁ。」


見透かしたような笑みを浮かべた彼方に苛っとしたのは内緒なんだよね。

































「…くしゅん、」
(?)





20110113



ごめんなさい。もう最後らへんは勝手な妄想入ってますね←


でも総司とそろそろ歩み寄らせたかったのと、慧ちゃんを取り入れたほのぼのした感じの一回くらいは入れたかったのさ!!


さてさて、雪子さん。ごめんなさいでした!!








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