空を見上げた1 | ナノ
柔らかく触れられた腕が痺れて、


「西条さん、答えてください。」


「…。」


何故、目の前のこいつはこんなにも切羽詰ったようにそれを聞くんだ。別に何かされたって、報復に行くわけでもなければそんな大層なことでもない。静かすぎる夜にこんな質問攻めは心臓に悪い。今にもどくどくと跳ねる心臓の音が聞こえてきそうだ。ずっと交わっていた視線から離れ、俺は小さく少しだけ返した。


「…されてないと言ったらそうだし、されたと言えばそうなる。」


「それは、」


「それ以上は言うことはない。…だが、お前が俺を避けている理由はそこにあるんだろう?」


「っ。」


「知りたければついて来い。日常生活まで踏み込まれるのは嫌なんだ。」




***




ほのかに灯りが灯る部屋に薄っすらと残る腕の傷を晒す。日向の顔が引きつったように見えたが、教えてくれと言ったのは日向の方だ。


「その傷がどうしたんですか?」


「この前、池田屋の事件で総司を助けに上がったその先。金糸に赤い瞳の男と遭遇した。」


「…。」


無言に響く声に俺はその続きを口にする。


「その男は俺が負っていた傷口に自分の血を付着させた。」



だんだんと顔色の無くなっていっている日向を気がかりに思ったが、この先はあまり話すのをどうかと躊躇った。もしかしたら、自分に対して何か関わりがあるかもしれないからだ。そういうことは下手に他人には言いたくはないのだ。裾を戻してこれだけだと言うと日向の目が丸くなった。


「え、それだけですか?」


「……それだけだ。まだ、ようがあるのか?」


「…傷は、大丈夫なんですか。」


話題を変えて、今度は今朝狐に噛まれた場所に注目された。


「傷は大したことねぇよ。刀も握れるし差し支えはない。」


「そうですか、」


だからもう戻れと言うと、日向は頭を下げて襖に向かった。


「あ、そうだ。」


「?」


「この辺りで体が大きめな狐を見かけたら教えてくれないか?」


「…どうしてですか?」


「怖がらせたから、謝りたい。それだけだ。」





***



静寂がまた俺を包む、日向の言うとおりあの池田屋の日から確実に何かがおかしい。歯車と歯車が噛み合った様に酷く頭がすっきりしている。それと同時に信じられないような変化が自分に起きている。


ひそ、
    ひそひそ、


遠くで話す人の声、木々のざわめき、鳥達のさえずり、些細な音や声でさえ確実に聞こえるようになっていた。それだけじゃない、ほんの少しだが視力も良くなった。不意にあの金糸の男が言っていた言葉が脳裏を過ぎる。



――…山犬



俺は、人間じゃなかったのか…?そんな思いが溢れかえって、上手く自分の心を制御できない。でも、それよりも俺の知らない何かを近藤さんや土方さんが知っているようでどうにも疑わしい。そして、二人を疑う自分が憎らしくて死にたくなる。


ちりっと痛みが走った腕を強く掴んで、これじゃぁただの馬鹿だと刹は笑った。





20110111



本編に入ろうか迷った結果、見事に撃沈。なんか千鶴ちゃんに刹の性別隠したままだなぁと頭の片隅で考えながら伝えるタイミングをなくした←


次こそはと!と意気込むもののまたやらかしそうで怖いな((汗)うん、ちょっと考えよう…。







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